8時になっても降り止まない空を眺めながら、解散もやむなしといったムードとなり、私はあきらめて山菜採りでもしてから帰ろうした。ところが天候とは本当にわからないものである。我々の行動を見透かしたように雨は急速に小降りとなり、見る間に青空まで広がる空模様へと回復したのである。
スキーは全員ザックに担いだ。小屋周辺の湿地帯にはミズバショウがびっしりで、タムシバは今が盛りと咲き始めている。新緑のブナ林に取り付くと残雪にはブナの花芽で一面だった。私はこういったいつもの百宅コースの風景がとても懐かしかった。雪面はところどころで切れているので夏道沿いに登ってゆく。まもなく木道が現れるとタッチラ坂付近で小休止をとる。この付近はちょうど五合目あたりだろうか。ここからは積雪も豊富になり、ようやくシール登高が可能となる。山頂付近は雲で見えないものの、上空は澄み切った青空が広がっていた。
雨はすっかりあがっていたものの、風が徐々に強まっていた。まもなく唐獅子小屋も近くとなると、急速に視界がなくなってゆく。時々ホワイトアウトの状態までになると、山頂への直登コースはとりあえず回避したほうがよさそうだった。どうやら雲の中にはいったらしく、早めに唐獅子避難小屋に逃げ込むことにした。天候の回復待ちというわけだったが、小屋から窓の外を伺うものの視界は一向に回復する気配はなく、強風もますます激しさを増してゆくばかりだった。
しばらく停滞となると各人のザックからは軟水が次々と出てくる出てくる。こうなればすっかり宴会モードである。今回でほとんどのメンバーは板治めのつもりなので、できれば山頂は踏みたいところだが、一方では悪天候の中では全然楽しくもないので、無理をしてまで登りたいという気持もそれほどないのも事実。これがシーズンの最盛期ならば計器、知力、経験などを総動員しながら、無理してでも決行するところだが、誰もそんな気持は微塵もなく、すでにスキーシーズンの終焉を感じないわけにはゆかなかった。
1時間ほどの休憩を終えて外に出てみると、視界の悪さと強風は変わりがなかったものの、少し下れば風は和らいできそうだった。シールを早々とはがしたリーダーは、撮影のためと称していち早く斜面を滑り降りていった。そして準備を終えるのを確認すると、メンバーもつぎつぎと滑降を開始してゆく。雪面はほどよいザラメ雪ということもあって、例年よりもいたって快適だ。いわゆるクラックもないので危険箇所も見当たらない。この時期であればスキー技術などなにも必要がないようでもある。今年の鳥海山はコースさえ選べばまだまだ楽しめそうでもあった。
いつもの赤沢川のトラバースを終え、夏道を横切ってそのまま尾根の左斜面を降りてゆく。この辺りも雪面は狭いながらも藪らしい藪はなく、快適に高度を下げてゆくことができた。このスキーの機動力にはいまさらながら感心することしきりだった。そして大清水園地の標高まで下ってしまえばスキー滑走も終了となる。
そこからは沢を一カ所渡渉しなければならなかったが、深さは予想したほどではなく、靴の中を濡らすことはなかった。沢水でスキーをジャブジャブと洗うと、今シーズンのスキーの汚れもすっかり取れた気分になり、名ばかりではない、本当の板洗いとなったのは幸いだった。これで今年のスキーに思い残したことは何もなくなったような気がした。対岸に渡って10数mほどの藪を抜けると、ミズバショウが咲き乱れる大清水山荘は目の前であった。
ブナの新緑を歩く |
北海道仕込みの豪快な滑り(伊藤さん) |