山 行 記 録

【平成19年4月7日(土)〜8日(日)/鳥越川から鳥海山】



鳥海山をバックにご機嫌な仲間達
(標高1120m地点のテン場にて)



【日程】平成19年4月7日(土)〜8日(日)幕営
【メンバー】西川山岳会5名(柴田、菊池、上野、山下、蒲生)※二日目、山中、丹野氏と合流
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山幕営装備一式
【山域】鳥海山
【山名と標高】鳥海山(新山) 2,236m
【地形図】(2.5万)鳥海山、(20万)村上
【天候】(7日)快晴(8日)曇りのち晴れ
【温泉】秋田県にかほ市象潟町横岡 湯の台温泉「鶴泉荘」300円
【行程と参考コースタイム】
(7日)林道10:00(380m)〜獅子ケ鼻12:00〜930m峰13:00〜テン場14:00(幕営)
(8日)テン場8:30〜七五三掛10:10〜新山山頂12:00-13:00〜テン場14:00〜獅子ケ鼻15:40〜林道16:00

【概要】
 鳥海山を山スキーのエリアとしてみた場合、他の山域とは別格のものがある。それはスキー場がないためにその標高差をほとんど自分の足で稼がなければならないということである。これは山頂までの登頂に苦労するぶんだけ、充実感も多いということと同義であって、山スキーヤーにとっては垂涎のエリアであろう。鳥海山には四方八方からコースがとれるが、今回の鳥越川コースは、登りの標高差が約1800m以上、山頂からの滑走距離12km以上もあることから、鳥海山の山スキーとしてはかなりロングコースにはいる部類である。祓川コースが約4.5km(片道)、大清水コースが約6km(同)ということを考えれば、このコースがいかに長大なものだということがわかる。例えていえば百宅コースを二往復するようなものなのである。

 鳥越川は一昨年以来だが、今回は一泊の山行なので余裕の日程だ。そのかわり食材やアルコールなどでザックがずっしりと重くなってしまったのはやむを得ない。メンバーは一泊組が5名。そして翌日日帰りで我々を追いかけてくる者が2名という構成となった。

 秋田県象潟町から鳥海ブルーラインに入り、一路車は中島台をめざす。今年の雪の少なさから、林道もかなり奥まで車が入れるだろうと考えていたら、舗装道路の途中から積雪のために進めなくなってしまい、思わぬ雪の多さに少々とまどってしまった。結局、一昨年の駐車地点よりも遙か手前に車を停めなければならなくなり、これは正直予想外の出来事だった。駐車地点の標高は約380m。登りが一昨年よりもずっと長くなってしまった反面、山頂からのスキー滑走距離が長くなったことも意味するわけであった。

 林道の積雪は2カ所ほどで切れていたが、ほとんどシール登行が可能で順調に林道を歩いてゆく。今日は無風快晴。気温も高いので全員初めから下着一枚で歩いた。手袋もいらないので、すでに春山そのものといった雰囲気である。林道の周辺はまだ雪解けが始まったばかりで、フキノトウがようやく芽生え始めている。マンサクの可憐な花がわずかに咲いているだけであった。

 獅子ケ鼻はショートカットしながら中島台へと進んで行く。この辺りは一昨年の雪の量よりもはるかに多いという印象なのだが、時期的には2年前よりも早いということもあるのかもしれなかった。豊富な積雪のおかげでどこでも自由に歩けるというのは実に快適そのものだ。中島台に上がると太いナラの木やブナ林が目立つようになる。この雪の多さと春の日差しに恵まれ、気持ちの良いシール登行だったが、、一方では重い荷物のために時々大休止をとった。しかし、日帰りならばのんびりとしているわけにも行かないロングコースも、今日はどこでも泊まれるテント山行なので、少しも焦る必要がないのがうれしい。905m地点からの小尾根では思わぬところでクラックにはまったりする者もいて、時間をとられたりしたが、それほど危険というほどではなかった。いったんは解けだしたところに、最近の降雪でクラックを隠している箇所がところどころにあるようだった。

 森林限界を過ぎると、前方に白く輝く鳥海山が現れる。この風景はまさにアルプスを眺めているようで、思わず2年前の感動を思い出すようだった。祓川からのすっきりした山容を女性的だとすれば、千蛇谷からの鳥海山は荒々しさをも感じさせる、男性的な光景といえなくもない。振り返れば先日登ったばかりの稲倉岳が圧倒的な迫力で後ろに迫っていた。この付近はテン場とはしては最適な場所だが、明日のことも考えて天候の良いうちに、もう200mほど高度を上げることにした。

 ようやく登り着いたところは、鳥海山を正面に望めるなだらかな大雪原地帯だった。標高はおよそ1100mで、これは鳥海山の標高のちょうど半分にあたり、今日の幕営地点をここぞと決めてさっそくテント設営となった。頭上からは燦々と春の陽光が降り注いでいた。周りは大量の雪に覆われていて、見渡す限り雪の原である。鳥海山の懐に抱かれて一晩を過ごすことができるなど、いくらお金を積んでも出来ないわけで、これは最高の贅沢だろうと思わずにはいられなかった。ここまで登ってきたのは我々しかいなくて、他にトレースは全く見当たらない。途中まで登ってきたと思われるスノーシューのグループが一組いたが、その人達は森林限界の手前で早くも引き返していった。

 テント設営が完了すればテン場にさっそく雪のテーブルを作って宴会の開始となる。真正面に鳥海山を眺めることができるこのテン場は、これ以上はないだろうというほどの大パノラマの宴会場となったのである。後ろを振り返れば象潟町や日本海、そして海に浮かぶ船までが見渡せた。このロケーションが我々だけの貸し切りなのだと思うと、何とも贅沢な時間を味わっていることに気付く。まさに至福の時間でもあり、ビールの味も格別だった。この絶景が最高のつまみとなったのはいうまでもなかった。

 西日が稲倉岳に隠れる頃には風も少し出てきたため、宴会はテントの中へと引き継がれた。早々と酔いつぶれてしまった私は暗くなってから起こされて、できあがったばかりの熱い鍋をごちそうになる。寝る前に外に出てみると満点の星空が広がっていた。翌日の好天が約束されたような安心感を覚え、早々と7時半にはシュラフに全員もぐった。展望を優先した分だけ、テン場は風の通り道だったらしく、その夜はテントが一晩中風にあおられ続けた。

 翌朝、テントの外に出て見ると、朝日を浴びて白く輝く稲倉岳が眩しかった。今日も好天に恵まれそうな空模様だったが、山頂付近はまだ厚い雲に覆われていてその姿は見えなかった。まだ朝の早い時間ということもあり、新山付近ではかなりの強風が吹き荒れているようだった。朝食を食べ終わって、今日、日帰りで追いかけてくるはずの二人のメンバーを待っていると、まず丹野さんが現れ、しばらくすると山中さんも登ってくるのが見えた。健脚の二人はこのテン場まで、2時間ほどで登ってきたというのだから驚いた。

 不要なものはテン場に置き、アタックザックで山頂を往復することにして、テントを早々に片づける。軽装なのでルンルン気分の出発となった。右側には千蛇谷と外輪山を眺めながらの気持ちの良いシール登行が続いた。山頂付近は相変わらず薄雲に包まれていたが、ときどき雲が割れて青空が見える時間が増え始め、天候の回復も時間の問題のようだった。大きなうねりを伴ったような雪面が過ぎると前方に急斜面が現れる。ここを登り切ると七五三掛であり、今日の行程の半分を過ぎたことになる。きつい大斜面なので電光形に登って行くと、七五三掛からは至ってなだらかな斜面が続くようになる。今日は単独のスキーヤーが一名見えるだけで、他には登山者も見当たらなく、今日も静かな鳥海山だった。

 途中で休憩をとったりしながら、のんびりと山頂をめざして行く。高度が2000mを越えるとその後は一気に山頂をめざすことにした。左手を見れば新山手前のピークである荒神ケ岳がすぐ近くまで迫っていた。雲の流れは早く、ときどき青空が大きく広がると外輪山から荒神ケ岳までが眩しいほどに輝いた。千蛇谷を大きくショートカットしてゆき、荒神ケ岳を卷いて行くともう新山は目の前だった。いくら軽装だとはいっても最後の急坂は喘ぎながらの登りだった。メンバーの間隔は少しずつ離れていたが、それでも体調は問題ないらしく、それぞれマイペースで上がってきていた。

 この時期の鳥海山にはスキーで山頂まで上がれるのが嬉しい。夏山の岩だらけの新山しか知らない人にはなかなか信じられない光景らしく、初めて登ってきたメンバーはそれぞれに驚きを隠せないでいる。それほど大量の積雪に覆われたこの時期の鳥海山は、夏の風景とは隔絶としていた。七高山は目前だが、人の姿はもちろん見えなかった。

 山頂では適当な岩穴を見つけてそこで大休止とする。ときどきガスに覆われて視界がなくなる時もあったが、天候が崩れる様子もないので、安心して長い休憩時間となった。ときどき日差しが降り注ぐと洞穴の中までが温まってくるようだった。それほど今日の気温は高く、すっかり厳冬期は去ってしまったようだった。

 山頂での休憩が終わればいよいよ長い滑降の開始だ。2236mの山頂の一点から下れるこの快適さをどう表現しようか。雪質も快適そのもので、みんなの表情は笑顔にあふれていた。どこをどう滑っても良いという、この開放感は鳥海山ならではのもので、適度な急斜面をみんな思い思いに滑って行く。途中で立ち止まり外輪山を見上げてみると、その岩肌を覆っている不思議な雪の模様には思わず目を奪われる。まるで怪奇なモンスターとしかいいようがないこの妙な風紋は、鳥海山の想像を絶するような厳冬期の厳しさをそのまま物語っているようだった。

 広い千蛇谷に入るとそれこそ自由闊達の滑降となった。千蛇谷の端から端までターンを試みると、向こう側にいるメンバーがまるでゴマ粒のように小さくみえるだけである。それほどこの時期の千蛇谷は広大そのものだった。いくら滑ってもなかなかテン場までは着かないので何回か休憩をとりながら下って行く。この大きな北斜面が我々だけの貸切だというのが信じられなかった。

 テン場までは長い時間を要してようやく戻ってきたといった状況だった。山頂からは1100m以上も滑降してきて、通常の山スキーならばこれで終了し、これから温泉へと向かうはずなのだが、駐車地点の林道まではまだ高度差が800mも残っているのである。あらためてこの鳥越川の長さを思わずにはいられなかった。

 手短にテン場の後片づけを終えると再出発だ。今度は重いザックに振り回されるようにしながらの滑降となり、これまでのように自由にはターンをさせてはくれなかったが、一方では斜度も徐々に緩やかになってゆくので、ただスキーの上に乗っているだけでよかった。中島台の樹林帯も適度な間隔のツリーランを楽しみながらの滑走が続いた。

 今日もまた獅子ケ鼻はショートカットしてゆく。そして林道に出るとあとはまっすぐに滑って行くだけだった。林道の雪はさすがに腐り始めてきたが、スキーは予想外に走って、まるで動く歩道に乗っているようなものである。途中で私はフキノトウを見つけ、ビニール袋に詰めながら道草を一人楽しんだ。まだ芽吹いたばかりのこの春の香りは、至福だった鳥海山の二日間をしばらく思い出させてくれるに違いなかった。


林道を歩き始める


森林限界から鳥海山を仰ぐ


記念写真をパチリ


テン場にて


二日目の早朝(背景は稲倉岳)


日帰りのメンバーが登ってくる


山頂へアタック開始


荒神ケ岳の一角


鳥海山の山頂から七高山をバックに


山頂の洞穴(?)


外輪山のモンスター


モンスター


千蛇谷へレッツゴー!


滑走開始!


滑走開始!


暴走族


テン場からの鳥海山


林道を下って行く


ルートMAP


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