今日は土曜日とあって集まったメンバーは3人だけだった。気温は予想外に高かったが、天候は下り坂で夕方からは雨が降り出す予報が出ている。時間との競争になりそうだったが、紫灯森さえ越えられれば何とかなるだろうと思っていたので、さほど不安感はなかった。志津温泉から紫灯森へはいろんなコース取りがあり、選択にも困るところだが、今回は姥沢までの除雪が終了しているらしいので、この舗装道路に沿って歩いてみることにした。スキーを担いでの道路歩きは結構辛そうにみえるものの、初めて歩いてみると意外と楽であり、短時間で姥沢に到着することができたのは予想外であった。
姥沢からはリフトに沿って登って行く。リフト付近では4月10日のスキー場オープンをめざして、ブルドーザーが除雪作業にフル稼働中だった。上空は青空が広がり、風もなくて快適にリフト上駅に着いたが、ここからはさすがに風も出てきて、アウターを羽織らなければならなかった。金姥まではいつものように水平にトラバースを切って行く。金姥からは品倉尾根が正面に見えたが、稜線では真っ白い雪雲が舞っているのが気がかりだった。
金姥からはひと登りで紫灯森に登り着いた。紫灯森のピークはすさまじいほどの強風が吹き荒れていた。ここでは昼食の予定だったがとてもそんな状況ではなく、すぐさまシールをはずして品倉尾根を下ることにする。稜線は雪雲が吹き荒れていて視界も良くない。狭いヤセ尾根は体ごと吹き飛ばされそうなほどの風があり、突っ込んで行くにしてもいささか躊躇うものがある。初めはボーゲンで恐る恐る下りてゆき、突風が吹くと耐風姿勢をとりながら進んだ。そのうえ雪面は凹凸感がわからずときどき目眩がするようだった。ようやく1619m峰に登り付くと、ここからは北尾根に向かっての大滑降の始まりだ。いつもよりもブッシュが少ないと思ったが、考えてみれば3月の品倉尾根は初めてだったことに気付く。そのためもあって雪質は至って良く、快適な山岳ゲレンデといった雰囲気に満ちていた。3人それぞれが思い思いにコース取りをしながら楽しんだところで、鞍部付近にツェルトを張って大休止とした。
ここは1302m峰の直下で、風はだいぶ穏やかになっていた。ツェルトから顔だけ出して眺めると、鳥海山がぽっかりと空に浮かんでいるのが見えた。まるでスポットライトを浴びているかのように鳥海山だけが真っ白に輝いている。稜線は雪雲が舞う悪天候だったが、ここはまるで別世界のようだった。普段は見られない風景を、ただただ黙って眺めているだけだったが、至福の感情を静かに味わっていた。
大休止を終えると1302m峰にわずかに登り、そこからも快適なツリーランを楽しみながらの滑降が続いた。降雪直後だけに、適度な斜度の滑走は楽しいばかりだった。やがて渡渉地点まで下ると、快適な雪質もだんだんと腐りはじめてくる。天候が下り坂というのが当たったのか、下界は早くも雨が近づいているようだった。対岸に渡るとそこからは湯殿山スキー場まで、常には快適に滑って行けるのだが、今日の気温の上昇ではまるでスキーが走らなくなっていた。そうはいっても、ここまでだいぶいい思いをしたのだから、文句はいえない。しばらく推進滑降を続けると湯殿山スキー場の第3リフト付近が前方に見えてきた。
湯殿山スキー場まで下ると、そこは圧雪バーンのためにスキーはよく走った。湯殿山スキー場はまるでスキーシーズンが終わったように閑散としていた。こんな時のスキー場の音楽は場違いな感じがするようだった。ゲレンデを一気に下って行くとまもなく駐車地点が眼下に見えてきた。
姥沢駐車場目前(除雪は終わっていた) |
荒れる品倉尾根上の二人(上野氏撮影) |
雪煙 |
紫灯森の筆者と鳥海山(上野氏撮影) |
鳥海山と品倉尾根 |
大滑降の開始! |