山 行 記 録

【平成19年2月25日(日)/朝日連峰 赤見堂岳〜石見堂岳(周回コース)】



赤見堂岳山頂からの滑降ルートと月山



【日程】平成19年2月25日(日)
【メンバー】6名(柴田、安達、上野、菊池、山下、蒲生)
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り(前日、大井沢セミナーハウスに宿泊)
【山域】朝日連峰
【山名と標高】 赤見堂岳1,445.5m、石見堂岳 1286m
【地形図】(2.5万)赤見堂岳、(20万)村上
【天候】快晴
【温泉】大井沢温泉「湯ったり館」300円
【行程と参考コースタイム】
 桧原(県道取付)8:40〜1125m11:10〜馬場平11:30〜1,327m峰12:45〜赤見堂岳13:15-45〜石見堂岳14:40-15:00〜県道17:40〜駐車地点18:00

【概要】
 朝日連峰の赤見堂岳や石見堂岳には夏道はなく、雪のある時期にしか登れない山である。月山第1トンネルから紫ナデまでのその稜線上で特に際だって高いピークを見せているのが赤見堂岳で、秀峰、障子ガ岳に次ぐ標高をもつ。その存在感はたかだか1400m級の山とは思えないほどで、知る人ぞ知る朝日連峰の秘峰とも言えるものである。もうひとつの秘峰、石見堂岳と共に特異な存在感を持ち、特に雪を抱いた山容はいずれも岳人を惹きつけてやまないものがある。今回はこの二峰を周回するスキーツアーである。周回コースとなると、単なる赤見堂岳往復、石見堂岳往復とは違って行程は長く結構きついものになるので、天候や体力、そして早い出発は必須だろうと思われる。前夜は今や全国区となった大井沢地区で大花火大会などの大井沢祭りがあって、山小屋風のセミナーハウスにシュラフ泊まりだった。そのあとかたづけなどもあって、登り始めは8時40分と、このルートを考えるとだいぶ遅い歩き出しとなってしまった。

 この日の朝は放射冷却現象もあって、大井沢地区では氷点下13度とかなりの冷え込みだった。この冷え込みのおかげで上空には雲ひとつ見あたらない快晴の空が朝から広がっていた。県道から大桧原川右岸の尾根に取り付くと最初の急坂があり、まもなく雑木林のヤセ尾根が続くようになる。うっすらと降雪があった雪面は朝の光が反射してキラキラと輝き、この冬景色の美しさは眺めているだけで心が癒されるようだった。

 今日は踏跡もないので、この時点では我々の貸し切りだろうと考えていた。雪面はラッセルというほどではなく、スキーもわずかしか沈まない。春のような天候とこの雪の状態ならば、今日のツアーは成就を約束されたようなものである。トップはいつもよりも速いペースで我々後続を引っ張ってゆく。日差しは強く、春の陽気を通り越して今日はまるで初夏のような陽射しが降り注いだ。気温はかなり高くて、汗が止めどなく流れ続ける。終いにはアウターはもちろんのこと、手袋も帽子も全く不要となってしまった。

 1時間ほどするとちょっとしたピークにたどり着く。尾根の後方には月山が見えていて、ここは第一ビューポイントのような場所である。この付近で右手からのトレースが現れて、今日の赤見堂岳は我々の他にも1パーティがすでに入っているのを知った。そこからは右手に折れてゆき、なおもなだらかな尾根歩きが続く。やがて左手には小朝日岳から大朝日岳の稜線、正面には障子ガ岳、右手には月山から湯殿山への山並み、そして対岸には石見堂岳が一望となる。この尾根を歩くのは2度目なのだが、前回同様、最高の天候に恵まれて、疲れなどはほとんど感じなかった。

 いくつかの小さなピークを登りながら、1125mピークを越えてゆくと、尾根もほとんど平坦となり、なだらかな稜線の奥にはようやく赤見堂岳が姿を現す。さらに小さなピークを巻いてゆくと広い雪原へと飛び出した。ここは馬場平と呼ばれるところで、昔はここで競馬も行われたのだと、まことしやかに語り継がれている大雪原でもあり、この景観を目にすれば誰もが圧倒されるであろう。ここからの眺望をなんと形容すればよいのだろうか。朝日連峰でありながら朝日連峰ではないような、まるで夢を見ているような素晴らしい大展望が広がっているのだった。

 ここから赤見堂岳への標高差は300mほど残すのみとなり、勾配もなだらかになるので山登りという雰囲気は薄れてくる。それでいて鳥原山、小朝日岳、大朝日岳を経て以東岳へと連なる長大なスカイライン。そして赤見堂岳から月山へと続く、壮大なパノラマを眺めながらのスノーハイキングなのだから、ここはまさしく知られざる桃源郷のようなところだった。

 1327mピークまでわずかな登りを残したところで、正午も近いために昼食タイムとなった。風もなく穏やかな日差しが降り注ぐ雪原でカップラーメンなどを食べていると、赤見堂岳を往復してきたという先行していた3人組が下ってきた。この3人組は宮城のsakanoさん達パーティで、3週間ほど前にもブリザードの姥沢で出会っている。sakanoさん達はさすがにエキスパートだけあって、すでに赤見堂岳を登り終えて早くも下って行くばかりのようであった。

 昼食を終え、エネルギーも回復したところで登りを再開する。中には即効性の燃料が入った人もいて、みんなの調子も絶好調のようである。1327mピークからは障子ガ岳から月山へと続く快適な稜線漫歩となる。しかし赤見堂岳は目前に見えていても、山頂までは小さなピークがいくつもあって、この偽ピークにだまされながら、予想以上に疲労が蓄積してゆく区間でもあった。

 赤見堂岳山頂には県道から取り付いてから5時間を経てようやく到着した。山頂直下と山頂ではわずか2、3m違っただけでも風の冷たさが違った。しかし、2月の厳冬期を思えば、今日の風など無風ともいえるようなものなのだろう。赤見堂岳山頂からはどこを見渡しても有名無名の山並みが連綿と続いているのだから見飽きることがなかった。雪に覆われた名もない山々は信じられないほどに美しく、いままさに秘境のど真ん中にいるのだと思うと感激もひとしおである。北の方角を見れば、2年前、月山第1トンネルからこの赤見堂岳と続く縦走路を歩いたときの記憶が、今にもよみがえってくるようだった。

 私たちは赤見堂岳の山頂で時間の許す限り大展望を心ゆくまで楽しんだ。北東にはこれからめざす石見堂岳も眼下に見えていて、そこまではまるでスキー場のような広大なゲレンデが続いていた。シールをはずし終えたメンバーから順に滑降を始めてゆく。私はここからの滑降シーンを一人一人撮影しながら最後尾を滑って行った。右手は大きな雪庇になっているので注意が必要だが、パウダー斜面は快適だった。あっという間にみんなの待つ地点まで一気に下って行くと思わず笑みが浮かんでくるようだった。

 そこからも快適に石見堂岳のコルまで滑って行くことができるので、登りの苦労が報われる思いだ。天候の崩れる様子は全くなく、前方に月山、姥が岳、そして湯殿山をながめながらの滑走は心地よくて、これこそ山スキーの醍醐味なのだと今更ながら思うばかりだった。

 石見堂岳までの登り返しはわずかとはいえ、この頃になると登りの疲れと滑降の疲れも重なって、けっこうきつく感じるところだった。気持ちの良い樹林帯を登り切ると平坦な雪原となる。私は石見堂岳も2年ぶりなのだが、前回は猛吹雪だったことから、山頂からの光景はほとんど記憶にないので実に新鮮な感動をおぼえていた。

 この石見堂岳はどこがピークかわからないほど広く平坦な山頂であった。ただ山頂を示す大きな岩があるのが唯一の目印であった。全員がそろったところで、この石見堂岳の山頂で再び大休止をとることにした。陽が伸びたおかげで、少しも急ぐ必要はなかった。対岸には大桧原川を挟んで登ってきた尾根がすぐ目前にあり、広場のような馬場平が正面に横たわっていた。

 石見堂岳からはスキーで下って行くだけである。休養を十分に取れば、山頂からはなだらかで快適な斜面の連続となる。付近にはまるで人のような足跡が縦横に散乱していたが、よくみると全てウサギの足跡だった。ここは野ウサギにとっても桃源郷のような場所であり、時々目の前を真っ白い野ウサギが横切ってゆく。そしてデートでもしていたのか、テンらしい動物が反対側に弾かれたように逃げていった。

 尾根をたどりながら下って行くとエメラルドグリーンの寒河江ダムが眼下となる。県道まではまだまだ距離が残っていたが、道路も見えてくるとようやく下界が近づいているのがわかった。心ゆくまで味わったパウダーも日が暮れるにつれて、雪はモナカ状態のところもでてきていた。日の当たる箇所をトラバースしてゆくと、今度は雪が腐れ始めていて、まるで4月か5月の雪のような状態になっている。

 下界も近づいてくると徐々に樹林も混み始めていた。わずかな標高の違いなのに、今年の雪の少なさがこの辺りから顕著になってくるようだった。ヤセ尾根に張り出している大きな雪庇にはクラックらしい筋が走っている。まもなくするとブロック雪崩となって崩れるような状態に見えた。

 下りのルートは予想外に長く、ヤセ尾根は樹林が混んでいることもあって、トラバースを駆使し、横滑りなどで凌いで行く。そして最後のピークを沢筋に沿って巻いてゆくと大井沢の県道は目前だった。時間はもう17時30分を過ぎていて、まもなく日が暮れようとしていた。

 車を停めた駐車地点まで戻るためには30分ほど歩かなければならない。県道を歩き出す頃にはとっぷりと日が落ちてしまい、夜のとばりがおりていた。出発時間が遅かっただけに長い行程になってしまったが、念願だった秘峰、赤見堂岳から石見堂岳の周回コースを無事に終えて、これまでにない充実感を感じていた。私は余力を残しながら下ってきたつもりだったが、下りてきた安心感からか、急にどっとした疲れがでてきてしまい、一路、大井沢温泉へと急ぐことにした。


大雪原、馬場平を歩く


赤見堂岳から滑降する(奥は石見堂岳)


赤見堂岳を滑る筆者(上野さん撮影)


赤見堂岳からの滑降


石見堂岳から赤見堂岳を振り返る


寒河江ダムが眼下に


赤見堂岳の周辺MAP


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