山 行 記 録

【平成19年2月11日(日)/高湯温泉〜家形山】



パウダーを楽しむ筆者(上野さん撮影)



【日程】平成19年2月11日(日)
【メンバー】西川山岳会8名(安達、山中、荒谷、上野、阿部、阿部(兄)、丹野、蒲生)
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、幕営(山行は日帰り)
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】 家形山 1,877m
【地形図 2.5万、20万】(板谷・土湯温泉・吾妻山)(福島)
【天候】晴れ時々雪
【行程と参考コースタイム】
除雪終了地点(840m)7:30〜慶応山荘分岐10:40〜大根森〜家形山(五色沼)11:50〜1660m地点(休憩)12:30-13:00〜旧スキーセンター14:00〜除雪終了地点14:30

【概要】
 福島県の吾妻スキー場が今シーズンから営業休止された。吾妻連峰における高山下りなどは、このスキー場があればこその山スキーのクラシックルートだったのだが、スキー場のリフトを利用できなくなるとすると、それも今後はかなり難しくなると思われる。吾妻連峰のスキーツアーにとって、この吾妻スキー場は天元台スキー場同様に無くてはならない存在だったのだ。

 一方、見方を変えてみれば誰もいないゲレンデというのは、山岳スキーにとって無木立の快適な一枚バーンといえなくもなく、考えようによってはこれほど恵まれた環境はないだろうとも以前から考えていた。スキーヤーやスノーボーダーの姿が消えたスキー場は、うるさい音楽などもなくなり、山スキーにとっては天国のような存在となったかも知れないのである。

 この週末はその利点を生かそうとして計画したスキーツアーだ。今年はどこも雪が少ないとは覚悟していたのだが、昨夜からの寒気流入によって、栗子峠は前もみえないほどの猛吹雪だった。福島県に入って幾分風は柔らかくなったものの、吾妻連峰を眺めても、常には見えるはずの一切経山や吾妻小富士は全く見えなかった。

 吾妻スキー場が廃止となって道路の除雪も有料道路スカイラインの料金所付近で終わり、今日はそこからの歩きだしとなる。除雪終了地点の標高はおよそ800m。家形山までは1000mほどの登りだが、スキー場が営業されていた昨年までは1340m付近までリフトを利用できたので、500m以上もよけいに登らなければならない。ラッセルの具合にもよるが、今年は例年よりも所要時間を2時間以上はよけいにみなければならないようだった。

 雪が降り積もり道形だけがかろうじて残っている夏道は、トレースもなくひっそりとしていた。除雪終了地点には雪に埋もれた車がたった1台だけあったが、それは慶応山荘の管理人の1台だろうと思われた。静かな山が再び戻ってきたと思えば、これほどいいことはないのかもしれないと思いながらシール登高を開始した。

 歩き出しはたいした積雪でないので最初のラッセルを自ら買ってでたものの、すぐに息が切れてしまい、短時間で交代しなければならないのが、我ながら情けない。積雪は場所によっては膝下ほどもあって、斜度も出てくるとけっこうつらいラッセルだった。不動橋の手前でいったんスカイラインにでるものの、すぐにまた夏道に沿って沢へ下りてゆく。小沢は例年より雪が少ないためか全然埋まってはおらず、対岸に渡るために少し苦労する場面もあった。まもなくすると夏道用の分岐標識が現れて、さらにラッセルを続けると賽ノ河原の平坦地となる。ここまでくれば例年歩き出しているリフト終点と標高は同じくらいで、何となくほっとできるところ地点でもある。ほどなくするとスキー場からのコースと合流したが、ここからもトレースはないのでしばらく新雪のラッセルが続いた。

 高度が上がるに従って、積雪は予想どおり増して行った。山形県側はまだ吹雪が止まないのか、軽く乾いた粉雪が時々空一面に舞ったりした。踏跡が全くないというバージンスノーは見ているだけでも美しく、時々立ち止まっては写真を撮りながら進む。快適な斜面が広がれば広がるほど、それだけ下りの楽しみも増して行くようであった。

 慶応山荘分岐までくると正面にうっすらと家形山が望めたが、それも短時間ですぐに雪雲に隠れてしまう。どうも山頂付近では強風が吹き荒れているようだった。慶応山荘の分岐からは勾配がさらに増してくるところだ。大根森への急斜面では30〜40cm程度の新雪が弱層となっていて、トラバースするといとも簡単に雪崩れて行く。思わず緊張感が走るところだが、晴天が続いた後の降雪だけに今日はかなり注意する必要があるようだった。大根森を過ぎると雪崩の危険があるため、通常のルートは断念し、いったん沢状の箇所を横断して左手の尾根に移った。この付近まで来ると視界がほとんどなくなっていたが、五色沼はもう目前であった。

 家形山の直下はブリザードで吹き荒れていた。この厳しい風雪には顔も上げていられないほどで、五色沼を見下ろしてもうっすらとしかわからない。家形山へは60mほどの標高差しかなくもう山頂まではひと登りだが、轟音とともに吹き下ろしてくるブリザードでは一刻も立ち止まっていられる状況ではなかった。

 家形山の直下まではシールのまま下った。すると風は信じられないほど弱くなり、少しずつ不安感が薄れて行くようだった。シールをはずせる状況を確認すると、ここからは一気にスキーで滑降してゆくことにした。すでにここは家形山の北斜面でもあり、登りでは深雪のつらいラッセルだったが、沢はほとんど埋め尽くされていて極上のパウダーが続いている。準備を終えるとみんな歓声をあげながら次々とノントラックの斜面に飛び込んでいった。ここは今シーズン一番とも思われるほどの快適さを感じさせた。ひと滑りすると雪が激しく降り出してきたため、大根森直下の樹林帯に逃げ込んでそこで大休止とした。しかし、山頂のブリザードに比べればそれほどでもない。そしていくら外は荒れていてもツェルトの中は天国のようだった。

 温かいラーメンなどを食べると冷えた体も一時的には温まった。しかし、食事が終わる頃には再び全身が寒さに震えだしてきそうになり、ちょっとしたはずみで足が攣ったりした。この地点はまだ1600mほども標高があって気温は相当に低いのだ。休憩は30分ほどで切り上げて滑降を再開することにした。

 大根森直下の深雪斜面を心ゆくまで楽しめば、そこからは快適なツリーランとなる。この区間は普段、なかなか快適とは言い難いような樹林帯なのだが、今回だけは大量の積雪に助けられて、気持ちの良いツリーランが続いた。悪天候になってきたおかげで、上質の雪質がそのまま保たれていたようである。斜度がなくなると、今度は登ってきたラッセルの跡をたどってゆく。まるでボブスレーのコースを滑っているようなもので、ここもスピードに乗って林の中を駆け抜けてゆく。

 リフト終点までくると誰もいない広々としたゲレンデに出た。見下ろすと福島市の市街地がうっすらと見えるようである。風は穏やかなものになり、広い斜面を前にすると思わず笑みがこぼれてくるようであった。スキー客の途絶えたスキー場といえば普段ならば寂しい雰囲気なのだろうが、山スキーにとっては天国のようなパウダー斜面がどこまでも広がっているのだからたまらない。そこからはなんの障害物もない広大な一枚バーンをみんな好き勝手に滑って行く。

 やがて前方にスキーセンターが見えてくると楽しかったパウダーランもエンディングが近くなる。雪に覆われたスカイラインに入ると、ここは以外と平坦なのでスキーが滑らなくなってしまったため、途中から樹林帯に降りてショートカットをしてゆくことにした。ここも短いながら山スキーらしい雰囲気があって、捨てがたい区間に思われてくる。体は相当に疲れてもいたが、除雪終了地点はもう目前に迫っており、山スキーにとっては夢のような一日が終わろうとしていた。


結構きついラッセルが続く


バージンスノー

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