山 行 記 録

【平成19年1月28日(日)/熊野岳〜丸山沢〜熊野岳〜中丸山〜猿倉



熊野岳東斜面(変則丸山沢)を滑る
(この付近はどこを滑ってもOKだがガスられると危険)



【日程】平成19年1月28日(日)
【メンバー】西川山岳会(柴田、安達、荒谷、くさなぎ、阿部、上野、蒲生)ゲスト丹野、阿部
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】蔵王連峰
【山名と標高】熊野岳1841m、中丸山 1562m
【地形図 2.5万、20万】蔵王山、仙台
【天候】晴れ
【行程と参考コースタイム】
リフト終点9:00〜熊野岳避難小屋10:30-12:10〜丸山沢(1350m地点)11:00〜熊野岳避難小屋12:20-12:50〜コル13:30-13:50〜中丸山14:10〜1246m地点14:40〜猿倉駐車地点16:20(718m)
猿倉駐車地点=(車)=ライザスキー場駐車場
  
【概要】
 この週末は久しぶりに所属している山岳会によるスキーツアーだ。私は二週続けての中丸山なので、新鮮みには欠けるものの、単独では味わえない楽しみというものがあるのでメンバーの一員に加わることにした。そして今回は蔵王ラインまで下る正規ルートなのでこの時期の状況を知っておきたいといったこともあった。

 このコースは結構ロングコースとなるので、ライザスキー場からは始発のリフトに乗ったのだが、第2リフトはまだ準備も始まっておらず、15分ほど待たなければならなかった。今日の天候は曇り時々雪という、それ程予報は良くないのが少し気がかりだった。しかしリフト終点を歩き出してまもなくすると、真っ白だった空が透けるように晴れだしてきて、大雪原を歩く頃には樹氷にもまぶしいほどの朝日が降り注ぐようになる。この予想以上の大誤算は文句無しにうれしくて、私は二週続けて晴天での雪原歩きとなった。周りを見れば今年の雪の少なさなどいったいどこの話だと思うくらいに、モンスターだけは完璧な成長振りを見せている。荒れるのが当たり前の厳冬期の蔵王にあって、今日は極めて気温も高く、まもなく全員がアウターを脱いでしまった。今の季節が大寒の真っ直中だということを一瞬忘れてしまいそうでもある。まるで夏山のように汗を拭きながら快適に登り続け、熊野岳避難小屋へはおよそ1時間半で到着した。あまりに早い熊野岳到着だったために、リーダーからは丸山沢を滑ろうかという提案がされる。これは以前からリクエストしていたコースで、単独では安易に実行できないルートのため、私は一も二もなく大賛成だった。この時は登り返しの厳しいつらさなど予想している人は誰もいないようだった。

 冬は雪崩の巣ともいわれる蔵王連峰の丸山沢。なにしろこの丸山沢の雪崩のため、下流にあるカモシカ温泉が跡形もなく吹っ飛んだというのは有名な話で、今はその温泉跡がかろうじて残っているだけという曰く付きの沢である。そのため、一般的には4月から5月にかけて滑られることが多いツアーコースだが、その時期になると、今度は何カ所かの滝が現れるので、なかなか滑走するには悩ましいルートのようだった。滑ってはみたいと思いながらも、この厳冬期においてはなおさら難度が増すことから、いつかはという思いを抱きながら機会を伺っていたものである。

 メンバーの一部が熊野岳の避難小屋で待つことになったものの、ほぼ全員で熊野岳から東斜面へと滑走してゆく。山頂付近の大きなシュカブラを過ぎるとまもなくどこを滑っても良さそうな大斜面が現れ、降雪があったばかりのパウダーにはみんな大感激となる。そしてロバの耳が眼下となり、丸山沢を眺め渡してみる。丸山沢は滑りには快適そうなU字谷だったが、雪崩を誘発するかどうかとなると全く微妙なところで、実際の状況はよくわからないと言うのが正直な判断だった。さらに雪も若干少な目だったことから、今回は丸山沢の本沢をあきらめことにして、すぐ左手に広がる斜面を下ることになる。いわば変則丸山沢ではあるが、見方によってはこの大斜面の方が快適そうではあった。

 まずリーダーがドロップインすると追い駆けるようにしてすぐさま私が続き、あとはあれよあれよという間にみんなが続いてゆく。登り返しのことが頭をよぎってしまったのか、途中で3人ほど途中下車したが、残りのメンバーは500mほどの標高差を一気に滑り込んでいった。傾斜がなだらかとなった先は急な崖状となっている地点で、右手の丸山沢に滑り込めば本流へと合流できそうだったが、もちろんそんな気にはとてもなれない。今日はここまでが限界のようであった。高度計をみるとそこはおよそ1350m地点。俯瞰するとかもしか温泉跡まではいくらもなく、遠方を見れば駒草平がほぼ水平距離にあって、エメラルドグリーンに氷結した不帰ノ滝が蠱惑的な美しさを見せている。見上げればはるか上部にロバの耳の岩峰が聳えているだけであった。この雪崩の心配もない東斜面の滑降には大満足をして、しばし佇みながらみんなの滑走写真を撮ったりした。

 そこからは小休止することもなく、すぐさまシールを貼って熊野岳までの登り返しとなる。しかしその登り返しが500mもあるのを考えると目眩がするようだった。大斜面で途中下車していたメンバーの待つところまで戻ってみると、彼らは缶ビールを飲み干し、それでも足りずにウイスキーのお湯割りを3杯も飲みながら待っていたと言うくらいだから、この登り返しの苦労が忍ばれようというものである。そして熊野岳まではまだまだ登らなければならないのである。澄み渡るような青空と普段は眺められないような光景だけが、この登り返しに汗した者へのご褒美のようだった。私の両足の筋肉はパンパンに張っていてすでに悲鳴を上げている。他のメンバーもこの艱難辛苦の登り返しを味わうこととなったのはいうまでもなかった。

 1時間半ほどかかって避難小屋に戻ると、2時間も待っていてくれたKさんがまだかまだかとかなり手前まで出迎えてくれていた。今日は避難小屋に入る気にもなれないほどの無風快晴。休んでいると次々とメンバーがもどってきて、熊野岳の山頂ではこのどこまでも見渡せるような風景を眺めながらの賑やかな昼食休憩が始まった。しかし、今日はこれからが本来のツアー本番なのである。丸山沢からの登り返しを終えてすでに今日はツアーが終了してしまったような、疲れきった表情がみんなの顔からしばらく消えなかった。

 30分ほどの休憩を終えて熊野岳の西尾根に向かう頃には再びガスが張り出して視界不良となる。慣れているコースとはいえさすがに二の足を踏むような天候の急変には不安感が広がったものの、それほど崩れる心配もないようである。尾根に乗る頃にはうっすらと青空も見えだしてきて一安心となった。私は6日前にも訪れた同じコースだったが、雪の量が格段に増しているのには驚いた。熊野神社も全身が分厚いエビの尻尾に覆われている。下界は雨でも山はかなりの雪だったということだろうが、これが先日と同じコースかと思うくらいの新雪があったようだった。私は丸山沢からの登り返しで体力をほとんど使い果たしたのか、熊野岳の山頂からはいたるところで転倒する始末で、情けない有り様がしばらく続いた。体力や筋肉の衰えにはあらためて落胆するばかりだった。

 中丸山のコル付近の樹氷群も見事と言うほどの景観を見せている。コルでは大休止しながら、ビーコンを使った探索訓練をしばし行う。ビーコンを装着しているのは3名だけだったが、リーダーがいつのまにか隠していたビーコンを探し当てるといったゲーム形式のような形で始まり、無事に雪に埋まったビーコンを見つけると、あらためてその威力にみんなが感嘆した。中丸山までは短い登りながらもシールを貼って山頂へむかった。そして山頂からは滑りやすいところまでおりてゆき、いよいよ猿倉に向けての最後の滑降開始となる。

 最初は疎林帯のなだらかな斜面も次第にブッシュに悩まされるようになり、細い立木をくぐり抜けられずに、転倒者が続出し始める。いくらか途中で大休止をとったとはいえ、疲れ切った足の筋肉は実に正直で、スキーの制動が思うようにならなかった。今日は丸山沢コースとのダブルとなったこともあってみんなの体力も限界のようだった。そしていつもの1246m地点まで降りた地点で再び大休止となる。

 1246m地点からはブッシュがまだ埋まりきっていないこともあり、いかに安全に下るかが最優先となる。見事に空中で一回転をする者、あるいは立木と仲良く抱き合っている者、ある者は自分だけ吹雪に出会ったりする者など、山スキーにおける万華鏡を見ているようでもある。尾根の下部になればなるほど、例年にはない密林となっていて、まさに我慢比べのような状態が続く。終いには尾根の滑走はあきらめて私は早々に登山道に降りて行ったのだが、ここも倒木がかなりあって道を塞いでいた。こんなときのコース取りの難しさも山スキーでは当たり前の世界だといえばいえそうだが、今日はそれも負け惜しみにしか聞こえないようである。横滑り、トラバースなどでダマシながらスキーをはずすこともなく下って行ったのは、ただただ山スキーを楽しまなければという意地以外の何者でもないような気がした。

 至るところに横たわる倒木やブッシュの間を滑ってゆくとまもなくゴールが近づいていた。そして最後は蔵王ラインへと滑り込んで中丸山ツアーの終了となる。ゴール地点の猿倉蔵王ラインではすでに日没が迫っていた。天候は崩れるどころか晴れ渡る一方で、明日の好天を約束するかのような夕焼けが西の空では始まっていた。私達はオレンジ色に染まる夕陽を浴びながら、駐車地点までスキーを担いで駐車地点まで歩いてゆく。ツアーコースをダブルで楽しんだ、蔵王連峰の長い一日が終わろうとしていた。


まだガスが晴れない歩き出し


樹氷原にでると快晴になる


熊野岳へと左折してゆく


馬ノ背から俯瞰する氷結したお釜


丸山沢へと移動中


カモシカ温泉跡へと滑り出す


丸山沢の登り返し(熊野岳が近い)


丸山沢の登り返し


奥には駒草平が


まもなく熊野岳避難小屋


登り返しに喘ぐメンバー


コルにて(正面は中丸山)


猿倉が近くなると密林地帯となる


ようやくゴール


夕陽がまぶしい


蔵王ラインを歩いて駐車場へ


今回のコースマップ


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