山 行 記 録

【平成19年1月22日(月)/蔵王連峰 熊野岳〜中丸山】



中丸山と飯豊連峰



【日程】平成19年1月22日(月)
【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】蔵王連峰
【山名と標高】熊野岳1841m、中丸山 1562m
【地形図 1/25000】蔵王山
【天候】晴れのち雪
【行程と参考コースタイム】
リフト終点10:20〜熊野岳11:45〜コル12:15〜中丸山12:30〜仙人吊橋13:10-13:50〜ライザスキー場駐車場14:20

【概要】
 今日は昼前から天候が悪化する予報が出ているものの、幸いに昨日の好天がまだ続いているのをみて蔵王連峰に出かけた。一昨日の山行による疲労がまだ残っているため、今回は行程的に短い熊野岳から中丸山コースとした。しかし、このコースで唯一の気がかりは坊平高原と中丸山を隔てている仙人沢である。蔵王連峰で仙人沢といえば極めて急峻な渓谷として知られているところで、ライザスキー場に戻るためには必ずこの沢に架かる仙人吊橋を渡らなければならないのだ。いったん悪天候に見舞われれば、この付近でも何回もの遭難事故が発生しており、なかなか報道されることはないが、遺体さえ見つからないケースも多い。ここは蔵王連峰でも要注意のルートである。

 前日は今冬一番ともいえるような日本晴れの好天に恵まれた一日だった。そんなときに限って所用があり、山に行けなかった悔しさはやはり大きく、この満たされなかった思いは、山で帳尻を合わせるしかなさそうである。昨日のライザスキー場からは多くの登山者や山スキーヤーが入山したらしく、リフト終点からはスノーシューやスキーのトレースで雪面は荒れに荒れていた。

 今日は下界でも昼前から雨が降り出す予報がでていた。雲ひとつ無いような好天がこれから崩れるなどとはとても信じられないようだったが、かといって天気予報を無視するわけにもゆかない。こんな時に限って自宅を出るのが遅くなり、今日は時間との競争になりそうであった。そのため馬ノ背や刈田岳は省略し、リフト終点からは熊野岳へ直登するコースをとることにした。モンスターが林立する樹氷原に出ると、上空からは日焼けしそうなほどの日差しが降り注いだ。熊野岳や中丸山が、朝の強い陽光を受けてまぶしいほどに輝いている。アウターも手袋さえも今日は必要なさそうだった。また雪原もほどよく締まっていてスキーはほとんど沈まなかった。今回はお田ノ神避難小屋やお釜の展望なども割愛し、熊野岳へめざしてまっすぐに登ってゆく。小さな沢状の箇所が何度かでてくるものの、積雪は十分にあって問題なく横断して行くことができた。

 しかし悪い予報ほど天気予報とは当たるものだ。初めはとても信じられないような無風快晴も、熊野岳が近づくにつれて、中丸山の上空には少しずつだが薄黒い雲が広がり始めていた。熊野岳の山頂到着はちょうど正午頃になっていた。中丸山の上空を見るとすでにかなり厚い雪雲が覆っていて、直前の光景とは別世界を見ているようだった。天候の崩れは意外と早いように感じた。こんな時に山頂での長居は無用であり、氷詰めとなった熊野神社の写真だけを撮って、早々に中丸山をめざして滑降してゆくことにした。すぐに雪が降ることはないだろうとは思うものの、今日のコースは仙人吊橋を渡らなければならないという初めての区間もあるだけに油断はできなかった。

 熊野岳からの滑降は、雪質も程々に柔らかく、いつもは転倒ばかりしているところも今回は快適に下ってゆくことができた。このコースは山頂からの大滑降というわけではないものの、中丸山まではヤセ尾根のような稜線を、まるで地形図を色鉛筆でなぞるようにしながら気持ちよくたどってゆけるのだ。ここはいかにも山スキーのためのツアーコースと呼ぶのにふさわしい区間であった。熊野岳と中丸山のコルからは再びシールを貼った。そして、中丸山の山頂直下ではいよいよ天候悪化の兆しが見え始め、この頃にはどこを見渡しても、すぐさま雪が降り出してきそうな気配が漂ってきていた。

 ライザスキー場はまだ遠目にもうっすらと見えていたが、刈田岳や熊野岳を振り返るとすでにガスに覆われてしまい、ほとんど見えなくなっていた。これほど短時間のうちに天候が急変するのも驚くばかりだが、冬の蔵王と、また大寒という今の時期を考えれば当然なのかもしれなかった。スキー場を眺めても一般のスキーヤーはほとんど見あたらなくなっていた。中丸山の山頂から見る仙人沢の氷爆は、そこだけエメラルドグリーンに染まり別世界のような趣を呈している。まるで箱庭のような不思議な空間を眺めているようだった。

 中丸山の山頂から仙人吊橋までは、地形図上でひと滑りの距離なのだが、急斜面のためまっすぐに下るわけにはゆかない。今回は猿倉方面に少し下ってから、吊橋をめざそうと考えていた。ここも深雪が柔らかく、快適なターンを繰り返してゆく。しかし、途中からちらついていた雪はいつのまにか本降りとなりはじめ、気が付いたときには吹雪模様となっていった。密林に入ると頼りにしていたGPSも用をなさなくなってしまい、途中からは不安を抱えながらのコース取りとなった。ヤブ漕ぎを繰り返しながらコースを折り返してゆく頃には、すでに視界はほとんどなくなっていた。

 こんなときはさすがに心がざわついた。その不安感をさらにあおるように、時々視界がなくなるほどに樹林帯が吹雪いた。方角を決めてどんどんと高度を下げながら沢底をめざして降りてゆく。しかし、なかなか吊り橋が見えてこないのも事実だった。スキー場の音楽もいつのまにか聞こえなくなっていた。私は深雪を適当に滑っているうちに、かなりの距離を反対方向に下ってしまったようだった。

 密林の中をさまよいながら、ようやく仙人吊橋を前方に見つけたときには心底、胸をなで下ろした。仙人吊橋には深いラッセルがあったがそれは登山者のものではなく、一頭のカモシカの踏跡だった。吊り橋を渡り終えたところで、ここにきてようやくやっと昼食をとる気分になる。知らず知らずのうちに体はかなり冷え込んでいたのだろう。緊張感から解き放されると全身が震えるほどの寒さを感じた。しかしツェルトを被っただけで体が温まりはじめ、徐々に気持ちが落ち着いてゆくのがわかった。さっそくテルモスからお湯を注いでカップ麺を作る。雪が音を消してくれるのか、吊橋付近からスキー場の音楽などは全く聞こえなかったが、目の前の急斜面を登り返せばライザスキー場に戻れるのがわかっている。私は遅い昼食を食べながら、時間の許す限り静かな蔵王のひとときをのんびりと過ごそうと考えていた。



樹氷群


刈田岳を仰ぐ


熊野神社


雪雲が覆い始めた中丸山


仙人沢の氷曝


仙人吊橋


仙人吊橋(尾根の向こうはライザスキー場)


仙人吊橋を渡り終えて


ルートマップ


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