山 行 記 録

【平成18年11月19日(日)/三吉山〜葉山】



月山(三吉山から)



【日程】平成18年11月19日(日)
【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】蔵王周辺
【山名と標高】三吉山(さんきちやま、574m)、葉山(はやま、687.4m)
【地形図 1/25000】上山
【天候】晴れ
【行程と参考コースタイム】
登山口10:00〜水場10:25〜岩海10:35〜三吉山10:40〜葉山11:10-11:20〜三吉山11:45〜岩海11:50-12:20〜登山口12:40

【概要】
 山形県には葉山と呼ばれる山が三つある。高い順に村山葉山、長井葉山、上山葉山だが、このうち上山の葉山にだけはまだ登ったことがなかった。標高が700mにも満たない低山ということもあるのだが、この山も全国に点在する葉山と同様に、地元民の葉山信仰に根ざした山であり、山頂には葉山神社が祀られ、古くから多くの参拝者に登られてきた山のようである。

 また一方の三吉山も、昔から霊験あらたかな山として参詣者が多かったらしく、登山口の案内標識によれば、この三吉山は秋田県太平山にある三吉神社に由来するとされ、当時、民衆達を苦しめた悪疫や凶作を鎮めたといった経緯も記載されていて興味が尽きない。三吉山は上山葉山の西方約1kmにあって、この三吉山を経由して、葉山も一緒に登るコースが「山と渓谷社」発行の分県登山ガイドには紹介されている。私も今回は三吉山経由で葉山まで登ってみることにした。

 日曜日の今日は気温が2℃しかなく、今年一番の冷え込みのようだった。朝からひどい濃霧に包まれていて、国道を走っているときもワイパーを作動しなければならないほどの濃い霧雨の状態が続いていた。登山口も同様で、目前に聳えるはずの三吉山は姿、形もわからず、視界は20mもなかった。登山口の駐車場はゴルフ場の駐車場も兼ねていて、そこには何台かの乗用車が駐車中だったが、登山者のものではなく、みなゴルフ場利用者の車のようであった。

 登山口には石造りの鳥居があって、すぐそばには三吉山の案内標識と三吉神社の由来が記載された看板が建てられている。ここの鳥居をくぐって石がゴロゴロした細道を登ってゆくと、車が通れるほどの広い砂利道を二回ほど横断する。現在、遊歩道のような新しい参道が工事中であり、昔ながらの登山道を歩けるのは今回が最後の機会のようであった。

 朝霧の中に立つ登山標識に従って道を左に折れてゆくと、まもなく竹製の樋を流れ出ている水場に出る。飲んでみるとそれほど冷たくはなく、湧き水なのか沢水なのかはちょっと不明だった。水場からは落ち葉の降り積もった急坂をジグザグに登ってゆく。濃霧に覆われた登山道はかなり気温が低いにもかかわらず、ここからのちょっとした急坂に、少しずつ汗が流れ出していた。

 まもなくすると上空は徐々に明るくなり始め、ついには濃霧を切り裂くように強い日差しが頭上から降り注ぐようになった。どうやら雲の上に飛び出したらしく、雲海の上は、まばゆいほどの青空が広がる快晴であった。そして目前には岩石が一面に広がっていて、その光景はまるで岩の海のようでもある。そういえば登山口の案内標識には岩海の文字があったのを思い出していた。またガイドブックによれば、ここは氷河期の名残だともあり、ちょっと不思議な場所に迷い込んだような感覚に襲われる場所でもあった。

 岩が堆積しているところには立木がほとんどないので、岩海からは我が目を疑うほどの絶景が広がっていた。雲海から抜け出した付近の標高はおよそ550mで、見えるものは長井葉山から北へと連なる稜線や頭殿山などの標高の高い山だけに限られ、他には白い雲海と新雪を抱いた朝日連峰や飯豊連峰が奥に輝いているだけだった。こんな光景が望めるなどとは予想もしなかっただけに、これは新鮮な驚きだった。今日の朝の冷え込みと湿度、そして移動性高気圧の気圧配置が絶妙に重なった、まさしく偶然の所産を見ているようであった。

 しばらくここからの絶景を楽しみ、再びジグザグに登ってゆくと三吉山の山頂だった。山頂にはりっぱな鐘楼と多くの石仏群が並び、その奥には二頭の狛犬に護られた三吉神社が建っていた。神社に手を合わせてから後ろに回ると、今度は前方に月山の全容が目に飛び込んできた。月山はすでに多くの雪を抱いて白く輝いていたが、隣の村山葉山にはまだうっすらとしか雪は見えない。低い山や町並みなどは全て雲の中で、月山と雲海だけの世界が広がっていた。

 三吉山から葉山に向かう時、鐘楼に立ち寄って鐘を思いっきりひとつ撞くと、予想以上に大きな鐘の音が辺りに響き渡った。私は思わずあわててしまい、三吉山からの道を逃げるようにして下った。葉山への縦走路は起伏も少なく歩きやすい尾根道だった。そして葉を落とした雑木林には初冬の日差しが降り注いでいて、実に明るい雰囲気に満ちていた。しかし、踏跡程度の部分も多くあって、夏場には藪に覆われそうな感じもする山道である。それぞれ単独で登られることはあっても、三吉山から上山葉山への縦走者は意外と少ないのかもしれなかった。だらだらとした尾根道が終わると葉山の山頂直下に出た。ここからはちょっと斜度があるものの距離はいたって短い。両側の小枝をつかみながら体を持ち上げると、ひと登りで葉山神社の建つ山頂に到着した。

 神社の周りには人の姿はなく、静かな山頂だったが、右手を眺めると蔵王高原と蔵王の山並みを一望に見渡すことができた。蔵王側には雲海がひとつもないので、葉山の山頂の左右はまるで別世界のようである。蔵王連峰も多くの雪を抱いていて、ゲレンデにはすでにスキーが出来そうなほどの積雪がありそうだった。

 葉山神社から右手に進むと三角点のあるピークがある。そこには一組の夫婦と犬が一匹休んでいたが、二人は三吉山からではなく宮生地区からこの葉山へと直登してきたようであった。ガイドブックにはこの三角点からの展望はないとあったものの、その記載はまるで誤植だったかのように、この時期は意外と展望が楽しめる場所になっていた。蔵王連峰や上山の集落などはもちろんのこと、冠雪した飯豊連峰や、三吉山では全く見えなかった、長井の秀峰、祝瓶山までが確認できたのは予想外の収穫だった。しかし、一方で私は往路で眺めた岩海からの光景が気に掛かっていて、すぐにザックを下ろす気分にはなれないでいた。あれほどの展望はなかなか見られないものだけに、雲海が上昇する前に急いで戻り、先ほどの絶景をもう一度眺めておきたかった。私は楽しみにしていた山頂での昼食を先延ばしすることにして、早々にこの葉山を後にした。

 三吉山に戻ると女性の三人連れがちょうど登ってきたところで、神社の後ろでは月山をバックに記念写真を撮っているところだった。私はカメラのシャッターを頼まれ、少しだけ立ち話をした。三人は何回かこの三吉山に登っているのだが、今日のような絶景をみるのは初めてなのだという。私は今日の偶然には大いに感謝しなければならないようだった。

 私は岩海まで戻ったところで腰を下ろし、大休止をとることにした。予定ではもうひとつ他の山にも向かうつもりもあったのだが、ここからの光景を目にすれば他の山はもうどうでもよくなっていた。それほどここの岩海からの風景は私の心をとらえていた。ここに佇んでいるだけで気持ちが落ちつき、時間が経つのを忘れてしまいそうだった。

 先程の女性達は葉山へと向かったのか、話し声はいつの間にか聞こえなくなり、また新たに登ってくる人も見あたらなかった。下界はまだ雲の中だったが、雲海は少しずつゆるみ始めていた。のんびりと眺めていると、山形の市街地や縦横に走っている道路などがうっすらと霧の中から現れ始めていた。こんな静謐感の漂うような光景は、ただ眺めているだけで心が安らぐようだった。雪が降る前のつかの間、この初冬の美しい風景に、私はしばらく目が離せないでいた。


コース


三吉山登山口


霧が晴れ出す


岩海


大朝日岳


三吉山の鐘楼


朝日連峰(三吉山から)


蔵王連峰(葉山から)


月山(三吉山から)


紅葉


雲海が徐々に消えて山形市街地が現れる


大朝日岳と鳥原山(岩海から)手前は頭殿山


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