山 行 記 録

【平成18年10月1日(日)/岩根沢〜地蔵森山〜月山〜清川行人小屋(周回)



大雪城から月山を仰ぐ



【日程】平成18年10月1日(日)
【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】出羽三山
【山名と標高】月山 1,984m
【地形図 1/25000】月山
【天候】晴れ
【温泉】西川町「水沢温泉館」(300円)
【行程と参考コースタイム】
岩根沢登山口7:20〜地蔵森山8:00〜本道寺分岐8:15〜1250m 8:30〜1340m 9:15〜清川行人小屋(横道)分岐9:55〜月山11:35-12:00〜横道分岐12:50〜清川行人小屋13:10〜小月山13:15〜清川行人小屋〜サカサ沢14:30〜清川行人小屋分岐15:10〜岩根沢登山口15:20(全行程22.6km)

【概要】
 一昨年に肘折から湯殿山コースを歩いたときに、次は岩根沢口から登らなければと考えていた。しかし、昨年は体調を崩してしまい、延ばし延ばしにしていたものである。岩根沢口から月山への登路は距離が長いゆえに、ほとんど人が歩かないということは以前から聞いていたが、それだけに興味が募っていたルートでもある。初めてのルートであれば、普通はガイドブックやネットでコース状況など、少しでも調べてから望むのだが、今回は事前の準備などはほとんどせずに急遽決定した計画である。まあ、いつもの行き当たりばったり的といえなくもないが、なにぶん有名過ぎるほどの大月山でもあり、肘折同様に月山の表参道としては昔から知られているコースなので、標識ぐらいは間違いなくあるはずだろうと全く心配はしていなかった。私は地図だけをザックに入れて西川町岩根沢に向かった。つまり今回の行程については予備知識など一切ない状態であった。

 予定では清川行人小屋コースを往路にとり、復路は遠回りにはあるものの、尾根をたどる反時計周りの周回コースをとるはずであった。ところがサカサ沢へ下る分岐点がわからず、いつのまにかどんどんと月山からは遠ざかって行くので慌てた。気付いてみたら間違いなく清川行人小屋への分岐点を通り過ぎてしまったようである。私は知らず知らずのうちに尾根コースを歩いていたのだった。

 登山口にあった案内図によれば、私がもっている1993年版のエアリアマップとはルートがすっかり変わっている様子だったが、道幅は広く歩きやすいので、コースへの不安はほとんどなかった。エアリアを見れば山頂までの所要時間はおよそ5時間。夏の猛暑はすでに過ぎ去り、今は一番山歩きに最適な時期になっていた。ペースは早めでも体調は順調で、約1時間歩いたところで分岐点の標識が現れた。ここは本道寺コースとの分かれ道となっているところで、ここにも登山口同様の案内図が立っていた。下りに清川行人小屋をとれば短時間で登山口に戻れそうなのを再確認し、この時点では往路を間違ったのはかえって良かったのだと思っていた。

 分岐標識を振り返りながら、この本道寺コースもいつかは歩かなければと思った。この辺りも小さなアップダウンはあるものの、いたってなだらかな登路が続くので快適な尾根歩きであった。そして太いブナやミズナラ、そしてドウダンツツジ多い尾根でもあった。少しずつ勾配が増して行くと、まもなく清川行人小屋への分岐を示す標柱が立っていた。ここは地形図にはなかったものの、この分岐点から小屋までは1kmほどの距離があり、清川行人小屋へ通じる横道の分岐点になっているようだった。3時間近くもほとんど標高が稼げない平坦な道が続いたが、横道分岐を過ぎると一転して急坂が続くようになった。潅木のトンネルをくぐったりしているうちに、ふと気付くと周りの木々がすっかり色付いていて、目が醒めるような鮮やかな色合いが突然目の前に現れたりするのでうれしくなる。紅葉の時期の山歩きの楽しさをあらためて思ったりした。一方では両足の疲れも徐々に感じ始めていた。汗も結構かいていたのだが、時々流れてくる風は冷たかった。10月に入ったばかりだったが、この一週間足らずで秋が一層深まっているのを感じていた。

 時々樹幹越しに月山の全容が見渡せるのがこの尾根コースの最大の楽しみだろうか。そして今回はなによりも紅葉が見事で、高度が上がるにしたがって木々の色づいた鮮やかさにはますます圧倒されるようだった。灌木が少なくなってくると大きな岩が目立つようになった。同時に展望を遮るものもほとんど見当たらなくなっている。振り返ると紅葉に彩られた山並みが続いていたが、ここまでもずいぶんと歩いてきたなあと思えるほど登山口ははるかに遠ざかっていた。紅葉の山並みはどこも美しく、天候が良いだけに写真は撮り放題だった。

 眼下に清川行人小屋が見えてくるようになるとようやく急坂が終わり、今度は広大な草原が目の前に現れる。ここはすでに大雪城の一角で、今は輝くばかりの草紅葉となっていた。大雪城にはまだ雪渓が残っているところもあって、斜面のところどころが白く輝いていたが、この時期であれば万年雪となるのかもしれなかった。雪渓がようやく融け出した地表からは、若葉が萌えだしているようであり、そこは春の光景そのものである。草紅葉に紛れるようにして、ミヤマリンドウやハクサンイチゲなどが咲き、なかでも褐色に焼けたオヤマリンドウが秋の深まりを一層感じさせた。その草紅葉と新緑と残雪のコントラストは実に美しく言葉も出てこない。

 まもなく月山の山頂付近が遠方に見えてきたのだが、まだまだ距離がありそうであった。山頂が今にも手の届きそうな所に見えているのになかなか近づかない。あまりに大雪城が広大なために距離感が狂っているようであった。またこのコースは目標物がないだけにガスられたときは要注意のようである。大雪城をほとんど直登する肘折コースと違って、岩根沢からのコースは大雪城をトラバース気味に登って行くので、ルートがほとんどわからない。幸いに10月上旬まではコースを示すトラロープが設置されているようだったが、それ以降はちょっとしたガスでも道はわからなくなりそうである。ここには登山道はおろか、踏跡さえもほとんどなかった。

 時々振り返ると岩根沢から登ってくる人は見あたらなかったが、少し北側に目を転じると、肘折コースを登ってくる人が何人か遠くに見えた。時間的にみて念仏ヶ原小屋を早朝に発ってきた登山者のようであった。雪渓を通過するといよいよ最後の急坂となった。ここは肘折コースと合流するところで、2年前に歩いた念仏ヶ原湿原の記憶が甦ってくるところだった。急斜面を登り終えるといよいよ山頂が目前となる。まもなく前方には月山の山頂神社が現れ、たくさんのハイカーが山頂付近を行き交っているのが見えた。これまでの静寂とした雰囲気からは一転して、そこらじゅうから人の話し声が流れてくるようだった。

 月山の山頂では昼時間ということもあり、大勢の登山者達で喧噪を極めていた。ほとんどが姥沢から登山リフトを利用しての人達か、弥陀ヶ原の八合目からの登山者のようで、みな小さなザックを背負いっていて、なかには手ぶらの人達も多かった。ようやく山頂へ到着した私は、ザックを下ろすと一度に疲れがでてしまい、山頂の草むらに横になって休んだ。眼下には山スキーを楽しんだ品倉尾根が見えたが、この時期ではすっかり褐色に衣替えをして、早くも雪の訪れを待っているかのようだった。一方では姥が岳から湯殿山へと続くなだらかな山並みや、遠方には石見堂岳や赤見堂岳の朝日連峰も見渡せたが、鳥海山だけは雲に隠れていて見えなかった。

 休憩は30分ほどで切り上げて下山に取りかかる。横になっている間に大勢いた登山者は、いつのまにか一人もいなくなっていた。大雪城を下ると、山頂の喧噪はすぐに消え失せて、ふたたび静かな山道が戻った。飛び石伝いに下っていると一人の男性が後ろから追い掛けてくるところだった。サカサ沢の渡渉のために長靴を履いてきていたというその男は、よほど急いでいるらしく、一声かけただけで、大きな石が点在するこの大雪城をたちまち走り去っていった。しかし、その人はしばらくしてから途中で引き返してきたのでびっくりした。気付いてみたらどうも登ってきたルートとは違っているのだというのである。私は少し先で小屋への分岐点があるからと説明したら、男は再び飛ぶように下ってゆき、再び姿はみえなくなってしまった。どうやら彼は清川行人小屋からの直登コースを登ってきたらしかったのだが、下降点のことまでは覚えていないようであった。

 清川行人小屋への横道は、山菜採りの人たちも歩くのか道型は概ねはっきりしていた。しかし、部分的にわかりにくい箇所があるので草丈が伸びる時期には注意が必要なようである。踏跡もはっきりしないところもあるので、草丈が少し伸びただけで登山道をすっかり隠してしまいそうであった。それでも途中には湿地帯や美しいダケガンバの林があったりするので飽きることはない。やがて紅葉の中にちょこんと飛び出した小月山が前方に見えてくると清川行人小屋まではまもなくだった。紅葉に埋もれるようにして建つ小さな清川行人小屋はまるでメルヘンの世界を思わせた。小屋の周辺は錦秋の絨毯にでも包まれているようで、そこはまるで天狗の遊び場とでもいうような、天上の桃源郷の趣を呈しているようだった。

 小屋のすぐそばではホースから冷たい清水が音をたてて豊富に流れていた。ザックのポカリはすでに生ぬるくなっていたので、この湧き水の冷たさは生き返るほどの力を与えてくれるようだった。小月山には7、8人の登山者が登っていたが、まもなく引き返してきて小屋前ですれ違った。この人達はこれから月山に向かうわけではなく、岩根沢登山口から清川小屋までの往復だけらしく、まもなくすると潅木の中へと歩いていった。

 団体とすれ違う際、小月山からの展望が素晴らしいので、是非登ることを勧められたことから、私も一応この小月山と呼ばれる頂きまで往復してみることにした。小月山のピークまでは5分もかからなかったが、この小高い山頂からは予想外に見晴らしの良い大展望が広がっていた。しかし、たった今、月山の山頂に登ってきたばかりの私にとっては、それほど大きな感激はなかった。

 清川行人小屋の中には誰もいなく、しんと静まり返っていた。この二階建ての小屋は知る人ぞ知る、古くは故高松宮様も滞在したという格式高い山小屋で、中には暖炉もあり、台所の蛇口をひねれば冷たい湧き水も流れ出る。そして木造部分などは磨かれたように輝いていて、その清潔な雰囲気は単なる避難小屋とは思えないほどだった。

 私は小屋の内部を丁寧に確認してから外に出た。さて、いよいよサカサ沢へ下ろうかと思ったら小屋からの標識が見当たらなかった。幸いに一足早く団体達が下っていったから良いようなものの、ここはちょっと方向感覚を失うところでもあり、地形図がないと不安に駆られるところだった。地形図と磁石を取り出して下山の方角を再確認すると、小屋からは目の前の小高い山を登って行くようだった。その小高いピークを越すとしばらくだらだらとした山道が続いた。地図ではサカサ沢までたいした距離はなさそうだったが、一方ではいくら歩き続けてもなかなか標高が下がらなかった。付近はブナやナラの原生林が多く、太くて見事な樹林帯が続いていた。

 最後はジグザグに何度も道を折れながら、やれやれと思う頃になって、ようやく私はサカサ沢の渡渉点に降り立った。予想ではこのサカサ沢の渡渉箇所の水量が心配だったが、この時期の流れはそれほどではなくて、飛び石伝いに対岸にわたることができそうなのを見てひと安心した。広々とした河原は休憩するには気持ちのよい場所で、これからの登りに備えて行動食を腹にいれながら少し休んだ。ここには以前、烏川行人小屋があったところで、月山信仰行者でにぎわったらしいのだが、今はそんな光景はどこにも見当たらない。付近には人の姿は見えず、途中で追い越してきた先の団体も当分下ってくる気配はなかった。

 対岸からは300mほどの登りが待っていた。疲れもたまってきた私にとってはここの区間が結構きついものであった。ほとんど休みなしに歩いているというのに、いくら歩いてもこの先のピークにたどり着かなかった。最短コースであるはずのルートが、時計を見ると登りで要した時間とほとんど変わりがなくなっていた。うんざりした頃になってようやく往路の尾根道に合流したが、山頂を下り始めてからここまでは、すでに3時間以上も要していた。この分岐点は朝方にちらっと眺めた記憶があったが、ここがサカサ沢への下降点だとは思いもよらなかったところである。ここにはやはり標識などは何もないので、見逃すのもしょうがないなあと自分を慰めるしかなかった。

 今回は予定したコースとは逆周りのコースとなってしまったが、考えようによっては、それだけに新鮮な山歩きができたともいえるのかもしれなかった。予想どおり岩根沢コースは長いものだったが、それだけにもっと未知の魅力を秘めているような感想を抱いた一日でもあった。しかし下降点などにはやはり小さなものでも標識は欲しいところではある。私は往路に合流したことで安心感が広がり、あとは登山口までの緩やかな山道を下ってゆくだけだった。


1340mピーク付近からの月山


紅葉の登山道(1340mピーク付近)


登ってきた尾根コースを振り返る


草紅葉とオヤマリンドウ


大雪城の草紅葉


ミヤマリンドウ(大雪城で)


大雪城から


大雪城から月山を仰ぐ


姥ケ岳と湯殿山(月山山頂から)


大雪城を下る


清川行人小屋が間近


小月山と池塘(清川行人小屋目前)


小月山からの清川行人小屋


小月山から月山を仰ぐ


今回のコース略図


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