山 行 記 録

【平成18年9月22日(金)/朝日連峰 大井沢〜出谷川〜明光山



ウツボ峰分岐から望む障子ガ岳



【日程】平成18年9月22日(金)
【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】朝日連峰
【山名と標高】天狗角力取山1,376m、粟畑1,397m、明光山1,242m
【地形図 1/25000】大井沢
【天候】晴れ時々曇り
【温泉】西川町大井沢温泉「湯ったり館」300円
【データ】 移動距離:26km 累積高度2100m
【行程と参考コースタイム】
    南俣沢出合にて前夜車中泊
(22日)南俣沢出合(518m)4:00〜雨量計7:00〜粟畑7:30〜天狗角力取山(1376m)7:45〜出谷川(704m)8:55
    〜明光山10:00〜出谷川10:45〜ウツボ峰分岐14:10〜天狗小屋14:15-13:50〜粟畑14:15〜南俣沢出合17:00(全行程26km)

【概要】
 昨年に続いて明光山に登ることにした。体調があまりよくないので、場合によっては天狗角力取山までの予定ではあるが、好天の天気予報をみると連休をただ無為に過ごす気分にはなれなかった。まだ真っ暗な中、ヘッドランプをつけて南沢出合から歩き出すと、頭上には降るような星空が広がっていた。昨日の大井沢の朝の気温が6度と、県内でも一番の最低気温を記録したが、今朝も初冬を思わせるほどの冷え込みである。久しぶりに長袖の山シャツを着込んで登り始めたが、真夏のうだるような先日までの暑さが今では信じられないようであった。

 月がでていないため、ヘッデンをつけても道はよく見えなかったが、記憶をたよりに登山道をたどってゆくと、バカ平を抜ける頃から東の空が白々と明るみ始めた。日の出はちょうど5時半頃であった。日の出が始まったとはいえ、まだ薄暗いので登山道の状態がよくわからない。ヘッドランプが不要となったのはそれからしばらく登ったあとで、急坂が一段落した付近であった。このコースは意外とアップダウンがあって時間がかかるところだが、今日はいつもよりも体調はよくないこともあり、なるべくペースを落として歩いた。

 竜ヶ岳の北側を卷きながら小沢を2カ所ほど通過し、小さなアップダウンを繰り返すとようやく雨量計に到着する。ここまでちょうど3時間経っており、のんびりと歩いたつもりだったが、結局いつもの所要時間であった。例年ならば紅葉もだいぶ進んでいるはずだったが、今年はまだ2週間ほど早いという感じである。それでも部分的にはかなり色づいている木々もあって、秋の気配は徐々に忍び込んでいるようだった。雨量計からは快適な石畳の階段を登って粟畑へと向かった。粟畑からはきれいな三角錐の障子ケ岳を目にすることができるのだが、今日はまだ霧に隠れていて姿はわからない。以東岳も厚い雲に覆われていて全く見えなかった。見渡してもどこにも人の姿はなく、天狗小屋も静かな佇まいを見せているだけであった。

 天狗角力取山を過ぎてウツボ峰分岐の広場までくると爽やかな風が渡っていた。あいかわらず庄内側は雲が多く、依然として以東岳さえもみえなかったが、内陸側の方はすっきりと晴れていて、鳥原山から大朝日岳、そして竜門山、寒江山への稜線が美しい。朝日の主稜線ではすでに秋への衣替えが始まっているらしく、夏山の景観とはすっかり様変わりしていた。

 滝のような汗が流れたおかげで、私の体調はだいぶよくなっていた。この分ならば明光山までは往復できるだろうと、出谷川に向かって下り始めた。天狗角力取山からは700m近く下り、明光山へは500m強の登りがあり、単なる筋トレのような気がしないでもないのだが、紅葉の時期に今日のような好天が重なれば、この長くて静かなコースがにわかに魅力的なコースへと変わるのである。

 紅葉の樹林帯から深緑のブナ林へと戻ってゆくと、まもなく沢音が大きくなり出谷川へと降り立った。渡渉点のすぐ近くでは青いブルーシートが張られていて、コッヘルや食材などが散乱している。どうやら釣り人がキャンプしているようだったが、テン場に人影はなかった。

 出谷川はいつものように森閑として静まり返り、沢音だけが絶え間なく響いていた。ここは靴を脱がずには渡れそうもないので、私は裸足になって対岸に渡った。水はまだ雪解け水のように冷たくて、短い距離にもかかわらず凍りそうなほどであった。もってきたバスタオルで冷えた足を暖めながら再び登山靴を履き、明光山へと向かった。ここには依然として山道と呼べるようなものはなかったが、踏み後らしきものはいたるところにあり、この時期にはキノコ採りや釣り人達も意外と登っているのかもしれなかった。まもなく太いミズナラの目立つ稜線に出ると、見晴らしが一気に良くなる。左手にはエズラ峰の異様な岩峰が聳えているのが見えたが、庄内側はあいかわらず濃霧に包まれていた。

 明光山への三角点には出谷川からちょうど1時間ほどで到着した。ここからウツボ峰まではまだ2時間ほどかかるので、とても往復する気分にはなれなかったが、健脚の人ならば以東岳まで日帰りで往復する人もいるのだろうか。明光山のピークでは持ってきた果物やヨーグルトなどで水分を補給する。かなりの疲れを感じていたのだが、それだけにここで食べる美味しさは格別だった。私は一応の目的を達したので、呼吸が落ち着いたところで往路を引き返すことにした。

 出谷川には相変わらず人の気配はなく、青のブルーシートもそのままであった。ここは知る人ぞ知る釣りの穴場であり、全国から釣り人達がやってくるところだが、ここで幕営していた人も早朝から出払っているのか、依然として留守のままであった。

 出谷川から天狗角力取山への登り返しはかなりつらいものだった。風はほとんどなくなってしまい、加えて気温がかなり上昇していた。汗は止めどもなく流れ続け、Tシャツの両袖からは絞れるほどの汗が滴った。ふと気付くと、いつのまにか秋晴れのような澄んだ青空が広がっていた。

 前方左手には障子ケ岳の鋭鋒が見えていた。そんな光景をぼんやり眺めていると、上から鈴の音とともに人の気配が近づいてくる。下ってきたのはひとりの若い女性で、今日は大鳥小屋までの予定だという神奈川からの登山者だった。この長いコースを女性一人で歩くのも勇気がいるだろうに、かなりの健脚の女性と思われた。南沢を登って来る途中で、天狗小屋の管理人と一緒に登ってきたといい、涼しい顔をしながら汗もさほどかいている様子もなく、私はあっけにとられながらこの女性の後ろ姿を見送った。

 ようやくウツボ峰分岐まで戻るとほっとして広場の片隅に腰を下ろした。私はもう一歩も動けないほど疲れていた。昨年も同じコースを歩いているのに、体力がかなり落ちているのを認めないわけにはゆかなかった。それでも少し休んでいると、再び歩き出せるような気がしてきて、私はとりあえず天狗小屋に立ち寄ってみようと思った。

 天狗小屋では管理人の山田氏がちょうど水汲みから戻ってきたところだった。山田氏とは同じ山岳会に属していながら、会うのは久しぶりだった。今回は差し入れとして、和梨だけはもってきていたのだが、本当ならば日本酒がふさわしい管理人でもある。それを少し詫びながら、山田氏からはラーメンを作ってもらって一休みをすることにした。登山口までは下りとはいいながら、登り返しが何カ所もあり、疲れた身には結構こたえる下山路が待っているので、しばらく疲れがとれるまでのんびりしてみようかという気分になっていた。

 天狗小屋を後にすると取りあえず粟畑まで登らなければならなかった。ゆっくり休んだおかげで足の疲れはだいぶとれたと思っていたのだが、ここの短い登りでさえも、私は足が攣ってしまいそうになり、今日の疲れが尋常でないのを感じた。粟畑からの下りでは、天狗小屋泊まりだという夫婦連れと出会った。こののんびりと登ってきた夫婦の様子を見ていると、こちらまでほほえましくなり、私の今日の行程がなおさらアホなものに思えてしまった。

 粟畑からは普段ならば2時間もあれば下ってしまうところなのに、足がほとんど棒のような状態で、膝裏の筋肉が少し痛み始めていた。私はちょっとした勾配でも足の制動が効かず、何度も尻から転げ落ちたりするので、今日はめずらしく休憩を何度もとらなければならなかった。バカ平を下る頃にはすでに薄暗くなってしまい、眼鏡をかけないと登山道もよくわからないほどになっていた。こんなに疲れるとは正直予想もしていなかっただけに、自分の不甲斐なさが情けなかった。それでも特にけがをすることもなく下山できたのは幸いと考えるべきなのだろう。最後の急坂を下り、広々とした南沢出合に飛び出すと、今日の長かった一日がようやく終わった。


出谷川から明光山への渡渉点


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