山 行 記 録

【平成18年8月21日(月)/清岳荘から斜里岳】



斜里岳山頂からオホーツク海と清里平野や斜里平野を望む



【日程】平成18年8月21日(月)
【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、車中泊(山行は日帰り)
【山域】道東(北海道)
【山名と標高】斜里岳(しゃりだけ)1,061m
【地形図 1/25000】斜里岳
【天候】曇りのち晴れ
【温泉】斜里郡清里町 きよさと温泉「緑清荘」380円
【行程と参考コースタイム】
清岳荘5:20〜下二股6:18〜上二股755〜馬ノ背8:25〜斜里岳山頂8:50-9:10〜馬ノ背9:20〜上二股9:40〜熊見峠10:10〜下二股10:45〜清岳荘着11:30

清岳荘=きよさと温泉「緑清荘」=(R391,弟子屈町,R241経由)滝口着(車中泊)

【概要】
 斜里岳は知床連山と阿寒連山を結んだ線上に位置しており、知床半島のちょうど付け根の部分に聳える山である。この山もヒグマの一大生息地として知られていることからヒグマ対策は絶対条件である。コースは沢歩きを楽しめる旧道と尾根をたどる新道があり、一般的にはその旧道を登って、復路に新道を下る周回コースをとるようである。この斜里岳は以前、家族でキャンプしながら知床方面をドライブした時に、まるで富士山を仰ぐような、その端正な山容を国道から眺めて驚いたことがある。ただ眺めているだけで登山意欲をそそられるようで、いつかは登ってみたい山だと以前から考えていた山でもあった。

 朝4時半にきよさと温泉「緑清荘」の駐車場を出発した。登山口までは約13km。途中から仰ぐ斜里岳には朝日が差していたが、山のほとんどは雲に隠れていて、山裾だけがかろうじて見えていた。一昨日、通行止めとなっていたゲートは、今日は幸いに開いていて問題なく通過する。もしかしたら羅臼岳と同様に、通行止めは昨日のうちに解除されたのかもしれなかった。このゲートから登山口までは8kmほどあり、林道終点には清岳荘という山小屋が建っていた。駐車場は広く、芝生の中にはあづまややベンチ、テーブルなどもあって、一見、公園を思わせる新しい施設のようでもある。清岳荘は山小屋とは思えないほどで、立派な煉瓦造り調の高級な住宅を思わせた。

 駐車場には意外にも車が一台もなく、準備を始めていると大阪ナンバーの車が入ってきた。その人たちは夫婦連れで、すでに準備を済ませてきたのか、私より一足早く出発していった。意外と登山者が少ないようなので、今日も当然ながら熊スプレーを持ってゆくことにした。この斜里岳もヒグマの一大テリトリ−とガイドブックには書いてあった。

 清岳荘の入口付近にあるポストに登山届けを投函し、目の前の山道に入ってゆく。しかしすぐに林道に再び出てしまい、しばらく林道歩きとなった。この道は先程走ってきた林道から続いているらしく、昔の清岳荘はこの奥に建っていたようだった。振り返ると通行止めのバリケードがあって一般車は入れないようになっていた。この林道の途中で大阪の夫婦に追いついてしまい、私は先にゆかせてもらった。しばらく歩くと再び登山口の標識があり、ここからが本格的な斜里岳の登山道だった。

 山道をしばらく歩くとやがて一ノ沢という沢に出た。そこからは右岸、左岸と渡り返しながら、飛び石伝いに少しずつ登ってゆく。その回数は数え切れないほどで、うんざりするほど沢の横断を繰り返さなければならなかった。コースにはペンキ印やテープが至るところにあり、また適当な場所に飛び石があるので渡渉には不安はない。唯一の不安材料といえば今日の天候だったが、登るに従って徐々に霧が濃くなってゆき、気がつくと霧雨は目に見える程まで大粒のものとなっていた。途中で霧雨がひどくなって本格的な雨となる前に上下とも雨具を着ることにした。天気予報はいいのだからこれから晴れることを期待してさらに進むと下二股の分岐点に着く。右手は下りに利用する予定の新道が上へと伸びていた。

 下二股からはこのコースの核心部のようで、様々な滝を通過しながらの沢歩きが連続する。次々と現れるこの滝が見事で、なかなか飽きない光景が続いた。ここも飛び石を利用したり、岩場をへつったりしながら登ってゆくようだった。途中、適当な場所をみつけて朝食とする。何も食べずに歩き出していたため、腹が減って力が入らなくなっていた。今日の朝食メニューはコンビニのおにぎりと野菜サラダ。こうした山歩きが続くとついつい野菜が不足がちになるのか、新鮮な野菜がたまらなく美味しかった。ここでは15分ほども時間をとったのだが、後ろを歩いてきているはずの大阪の二人はなかなか登ってくる気配はなかった。

 沢登りは少し滑りやすいところがあるものの、総じて歩きやすい沢であり、気温が高いだけに涼しくてとても気持がいいものだった。いつのまにか雨はやんでいたので、頃合いをみて上着だけ脱いだ。それでも細かな霧雨は降り続いていたが、濃霧はすでに治まっていた。

 まもなくすると水量も減って、上二股という尾根コースの新道と合流する。ここまでくれば核心部も終えてようやく安堵感が広がるところだ。上二股からもしばらく沢歩きが続いたが、水量は少なく、快適な沢歩きである。雨も上がって気温が高くなっていたが、沢の中は涼しいのでとても気持がいいものであった。この時期に沢歩きを楽しんでいる人の気持ちが少しわかりそうな気がした。水はきれいなのでいつでも汗を拭けるし、のどが渇けばどこでも水場だった。

 沢歩きが終わると目前のとんがりピークが青空にまぶしい。これは斜里岳ではないがとても印象的な山の形をしていた。ガレ場になると灌木もなくなり、日差しが直接降り注ぐようになった。ここは胸突き八丁と呼ばれる急斜面だが、風も強いので汗をかいた体には気持ちの良い涼風となって、疲れを癒してくれるようだった。

 登りついたところが鞍部となっていてそこには「馬の背」の標識が立っていた。ここからは右手のピークをたどって南斜里岳にもゆけるらしく、コース上にはペンキの矢印が続いていたが、斜里岳の本峰は「馬の背」から一際高くそびえ立つ左手奥のピークの方である。矢印に従って急斜面の岩稜帯を登ってゆくと、特に危険な個所もなくほどなく斜里岳の山頂に到着した。登り始めてから3時間30分。予想外にかかったようでもあり、途中での食事時間を考えると予定通りといったところだろうか。山頂から振り返ると南斜里岳が雲に見え隠れしているのが、見るからに夏山らしい風景を感じさせた。

 山頂には登山者は誰も見あたらず、今日の斜里岳登頂は一番乗りのようである。風が強くてとても長居はできそうもなかったが、展望は素晴らしく、昨日の羅臼岳や知床連山が北の方角に連なっているのが明瞭に見えた。西の方角を見下ろせば斜里平野や清里平野が一望のもとで、その向こう側には大きなオホーツク海が広がっていた。

 展望の写真を撮り終われば風の弱い場所に腰を下ろして食事の時間だ。今度のメニューは稲荷寿司とコンビニでもとめた漬け物である。この漬け物も汗をかいたせいか、体が生き返るような美味しさがある。登りの濃霧や霧雨などはまるで嘘だったような好天が広がっていて、まさに至福の時間をしばらく味わった。

 静かな山頂も30分ほどすると徐々に登山者も現れだした。しかし、大阪の夫婦ではなく、一人は仙人風のひげを豊富に蓄えた人と、もう一人は若い単独の男性であった。この若い人は朝、6時半に出たというのだからとても早いなあ、と率直に驚いたことを話した。大阪の二人とは馬の背付近ですれ違った。気温はどんどんと上昇していたが、下りも風があってとても快適に下ることができそうであった。

 上二股の分岐点からは新道コースをゆく。このコースはいったん熊見峠まで登らなければならず、さらにかなり遠回りになるが、周回コースをとれるので縦走気分を味わえそうであった。分岐からはまもなく「竜神の池」の標識があるが、ここは特に立ち寄らずに通過する。新道というだけあって、道の両側から笹が被っているところもあったが、不明な部分はなく、それよりも展望が楽しい区間であった。ある程度登ってしまうと、後ろには斜里岳から南斜里岳へと続く連山の稜線が美しく、また前方には熊見峠のピーク、そしてその先には一段と高く鋭いピークも聳えている。部分的には里山を歩いているような感じもあり、快適な稜線漫歩といった雰囲気が漂う登山道であった。

 途中では意外にも若い男性一人とすれ違った。彼は新道から登って沢コースを下るのだという。ずいぶん珍しいですね、といったら、そうですか、とあっけらかんとしている。相手も始めてのコースらしいので、下りで滑りやすい箇所を話すと、相手も熊見峠からは滑りやすい箇所が多いからと丁寧に説明してくれた。この新道コースで出会ったのはこの一人だけだった。ほとんどの人は登りには旧道の沢コースを利用するからであろう。熊見峠でようやく登りも一段落となり、果物の缶詰などを出して渇いたのどを潤した。当然ながら水場はないので水筒はすでに底をつき始めていた。

 熊見峠からは怒濤の下りとなった。かなりの標高差があるのか、少々下っても沢音は全く聞こえなかった。現在の標高はまだ斜里岳からわずかに低いといった感じで、沢底まではまだまだ下る必要があった。また、先程出会った若い人のいったとおり、先日までの雨で登山道は非常に滑りやすくなっていて、急斜面では木の枝や根っこをつかみながら慎重に下らなければならなかった。

 下二股に着くとようやく安心感が広がった。やはりこの時期は沢伝いの歩きはいいものだった。汗だくの顔を洗ってタオルを絞り、上半身の汗を拭って登山口へと下った。時間はもう11時を過ぎているのにこれから登る人たちも結構いるようだった。朝方の霧雨は嘘のように晴れ上がっていて、上空からは真夏の日差しが降り注いでいる。これが沢歩きでなかったら、とてもこれから山登りをする気分にはなれないほど気温が高くなっていた。

 清岳荘には11時30分に戻った。下りの新道コースに2時間10分かかったことになる。登り始める時には2台しかなかった車も、すでに十数台駐車中であった。ほとんど人と出会わなかったことを考えると、私が新道コースを歩いている間に、みんな沢コースの旧道を登っていったものらしかった。新道コースはやはり遠回りになるのか意外と時間がかかったようである。昼前に下ってきたとはいえ、すでに6時間の行動時間が終わろうとしていた。体は異様に熱く、清岳荘の水場を利用させてもらって全身を冷水で洗った。私はこれからもう一度「緑清荘」に戻り、温泉に浸ってから明日登る予定の阿寒岳に向かうことにした。


清里町から見る早朝の斜里岳


下二俣からはいくつもの滝が連続する


羽衣の滝


へつりながら滝を高卷くところもある


馬ノ背から斜里岳(右奥)を仰ぐ


熊見峠付近から斜里岳を振り返る


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