山 行 記 録

【平成18年8月6日(日)/吾妻連峰 若女平〜西吾妻山〜新高湯温泉〜白布温泉】



いろは沼の池塘とワタスゲ



【日程】平成18年8月6日(日)
【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】 西吾妻山 2035m
【地形図 1/25000】天元台、白布温泉、吾妻山
【天候】晴れ
【行程と参考コースタイム】
若女平登山口7:40〜強清水8:40〜若女平9:00〜西吾妻小屋11:00〜西吾妻山11:10〜天狗岩11:20-11:40〜梵天岩11:45〜大凹12:00〜カモシカ展望台12:25〜北望台12:40〜新高湯温泉下山口13:30〜新高湯温泉13:45〜湯本駅前14:00〜若女平登山口14:20
  
【概要】
 若女平は吾妻連峰における山スキーのツアーコースとしての方が知られていて、夏山ではあまり利用されないコースである。私も7年ほど前に一度だけ下ってはいるものの、このコースから西吾妻山に登ったことはまだなかった。西吾妻山へ登る数あるコースの中でも、若女平は比較的距離があって、西吾妻小屋までは標準的なコースタイムでも4時間ほどかかる。さらに山頂までの標高差は約1200mもあることから、天元台からリフトを利用しての下山コースか、縦走時の下山路として下る人はいても、このコースから登る人は滅多に見られない。私もいつかは登りたいとは思ってもなかなか実行する機会がなく、ついつい先延ばしにしていた。それに連日の猛暑が続くこの時期、なにも好き好んで登りたくないコースでもあった。しかし一方では、ゴンドラとリフトを使ってまで西吾妻に登りたいという気持ちはないので、思い切って今回登ってみることにしたものである。いわば長く放っておいた宿題を早く片づけたいといった単純な発想であった。

 若女平の登山口はかつて有料道路だった西吾妻スカイバレーの入口にあり、天元台への道路と三叉路になっているところを直進すると、大きな案内板が立っているところだ。予想していたとはいえ、登山口に車は一台もなく、誰も登っている様子はなかった。

 山形県内はちょうど1週間前に鬱陶しい梅雨も明けて、今日も朝から暑い日差しが降り注いでいた。ただでさえ長いコースなので、できれば朝の涼しいうちに歩き出したかったが、そうそううまく事は運ばず、予定よりも2時間以上遅れての出発となった。歩き始めると、昨夜、夕立などがあったのか、登山道は小沢のように雨水が流れていて泥濘状になっていた。さらに背丈以上の草が生い茂っているために、半分ヤブ漕ぎのような状態で草をかき分けながら、またぬかるみにはまらないように慎重に歩かなければならなかった。草露でズボンは濡れるし、そこへ登り始めからジリジリとした夏の日差しが照りつけるので、出だしから最悪のコンディションであった。

 平坦地を過ぎると本格的な登りが始まる。取付には雑草に隠れるように、若女平の登山口を示す標柱がここにも立っていた。登山道もこの付近からはっきりとしてくるところで、ようやく朝露の雑草地帯から抜けだした。斜面に取り付くと最初から急登が続くところだが、熱中症が心配なので早め早めと水分を補給しながらゆっくりと登ってゆく。杉林に入ると急登は一段落となり、日差しも遮られるので、徐々に体も慣れてゆくようだった。杉林からカラマツ林へと変わるとヤセ尾根となり、
強清水の水場につく。7年前に下った時の記憶はほとんどなかったが、この清水だけは見覚えがあり、急に過去の記憶が甦ってくるようだった。とても冷たくて美味しい水で、水分は余計なくらいに持ってきていたのだが、さらに空のペットボトルに詰めて行くことにした。

 左手の天元台を遠くに眺めながら登って行くと、まもなく若女平だった。周囲は平坦なダケカンバ帯となり、思わずテレマークスキーで下ったときの事を思い出すところだが、鬱蒼とした潅木とダケカンバばかりが目立ち、積雪期と違って展望はほとんどなかった。

 若女平からは徐々に頭上を遮っていた木立も疎らになってゆき、明るさが増すと共に日差しが降り注ぐようになる。一方で標高は1300mを越えており、気温は徐々に凌ぎやすくもなっていた。ダケカンバ帯が終わってオオシラビソが目立つようになるとさらに勾配が増してゆき、再び樹林帯の中の山道が続くようになる。展望の楽しみはないものの、ここもスキーでの記憶が甦ってくるところで、個人的には興味をそそられる区間が続いた。しばらく登りに汗を流していると、早くも下山してくる単独の登山者と途中ですれ違った。大きなザックを背負っており、聞いてみると県外からの人で、昨日は明月荘泊りで滑川温泉から縦走してきたという若い人であった。

 展望がない樹林帯はその後も続いたが、前回下ったときには気付かなかった、赤い三角形の標識が至るところにあり、その標識に書かれていた意外な名前には思わず興趣をかきたてられた。「小坂(こさか)」「若女平」「大木崖(おおきまま)」「金小屋(かなごや)」「鍛冶小屋(かじごや)」などと、「若女平」以外はみな初めて目にする標識ばかりである。そして小沢の流れる付近で「竜崎(たつさき)」という標識を見ると、まもなく樹林帯が終わり、広々とした湿地帯に出た。湿原にはミヤマリンドウやリュウキンカ、ワタスゲなど、湿地性の可憐な高山植物がたくさん咲いていた。ここまで味気ない樹林帯が続いただけに、目の前が急に華やかなステージに変身したようでもある。それに展望も一気にひらけ、高原を吹く風は爽やかでしばらく感激に浸った。チングルマはすでに花の時期を終えて、抜け殻のようになった花穂だけが風に揺れている。見上げると、懐かしい冬のツアー標識が目の前に立っていて、すぐ先には木道が東西に伸びていた。

 木道の左手は天狗岩で、天狗岩の高台には大勢の登山者達で溢れているようであった。右手に進むとまもなくドーム状の西吾妻小屋がある。この付近も多くの登山者が行き来していて、今日は大賑わいの吾妻連峰のようだった。小屋からは10分ほどで西吾妻山山頂だ。この地点も冬には何回も訪れているところだが、山頂の標識を見るのは7年ぶりだった。西吾妻山は西大巓とは違って展望のない山頂なのだが、西側に少し足を踏み入れてみると、潅木が少し切り倒されていて、眼下には西吾妻小屋と木道が見えた。しかし残念ながら西大巓や遠方の飯豊連峰などは雲に隠れていて見えなかった。そのうち天狗岩から登ってくる団体などですぐに混み合ってしまい、私は早々に退散することにした。

 天狗岩は大小の石や岩がゴロゴロとした広場になっているところで、ここでも多くの登山者が行き交っていた。昼時間ということもあって、天狗神社の周りでは昼食をとりながら休憩している人もあちらこちらにいるようであった。ここは先ほどまでの登りや西吾妻の山頂とは違って、涼しい風が吹き渡り、2000mの山の有り難さがしみじみと身に沁みてくるところでもある。登りでしとどに濡れたTシャツも、この爽やかな風にたちまち乾いてしまうほどだった。ザックから食材を広げて休憩を楽しむ時間は至福を感じさせた。気温をみると21度しかなく、ここは下界の猛暑とは別世界であった。

 20分ほどの休憩を終え、その先の梵天岩まで行くと、ここでも大勢の登山者が憩いの時間を楽しんでいる様子だった。梵天岩の岩場を下るとまもなくいろは沼の湿原に出る。ここには池塘が散在し、湿原にはワタスゲが群落となって咲いていた。ここの湿地帯の美しさは例えようもないほど美しく、黄金色に紅葉した湿原は秋の風物詩だが、瑞々しい深緑の湿原に真綿のようなワタスゲが揺れるこの時期の湿地帯も、捨てがたい魅力に満ち溢れているようだった。

 もう昼時間というのに大凹から登ってくる人達もまだまだ多い。中にはただの観光客としか思えないような人もいて、この先には何があるのかと横柄に尋ねてくる人もいる。もちろんザックも何ももっていない手ぶらであった。大凹の水場もたくさんの人達の休憩場所になっていた。ここの清水も冷たくて、一口飲んだだけでまさしく全身が生き返るようであった。ゆっくり歩いてきたつもりだったが、この頃になると私もかなりの疲労を感じはじめていたようである。ここからは熱中症予防にと、清水で冷やしたタオルを日除け代わりにかぶって歩くことにした。大凹からは木道をひと登りすればカモシカ展望台だ。展望台ではやはり10人ほどの登山者がザックをおろして休憩中だった。ここでは天元台から吹き上げてくるような風が流れていて、この心地よい涼風を私もしばらく味わいながら疲れてきた体をしばし休めた。

 北望台からはほとんどの人達がリフトを利用して下って行き、ゲレンデを歩いて下る人は見当たらなかった。ゲレンデはなるべく草原状の部分を下るように努めた。そこはまるでクッションが効いているような感じがあって、意外と歩きやすいのである。しかし下るに従って気温が上昇してゆくのも自明で、徐々に疲れも倍加してゆくようであった。天狗岩からはほとんど休みもとらず歩き続けたが、第1リフト付近まで下るとさすがに疲れと暑さに参ってしまい、ひと休みをとることにする。ゲレンデではグラススキーの大会が行われていて、多くの少年少女達が赤や青いポールを巧みにさばきながら、コースタイムを競っていた。私は会場となっている草原の上部付近に腰を下ろして、そんな様子をしばらく眺めていた。

 新高湯温泉への下山口はゲレンデの左端にひっそりと隠れるようにしてある。古い標識には新高湯温泉まで800mと書かれてあったが、距離は短くとも、ここも結構暑くてきつい下りが続いた。途中の沢で何度も頭から水を被って頭を冷やした。この頃から私は少しずつ気分が重苦しくなっていたようである。

 新高湯温泉からは舗装道路の歩きとなる。先週に続いて暑い日盛りの中の舗装路歩きはしんどいものだった。なるべく木陰を選んで下って行くものの、気温の高さは日差しの部分と少しも変わりがなかった。下界には目眩がしそうなほどの、真夏の熱い日差しが降り注いでいた。

 駐車地点には新高湯温泉から30分ほどで下った。路肩には他にも車が2台、新たに停まっていたが、それは登山者のものでなく、皆釣り師達の車のようであった。私は後かたづけをそそくさと終えると、登山口の河原まで降りて行き、汗を流したり熱い体を冷やしたりしたが、また軽い熱中症にかかってしまったのか、しばらく登山口から動くことができなかった。


今回のコース(縮尺1/50,000)


ミヤマリンドウ(西吾妻小屋近くの湿原で)


リュウキンカ(西吾妻小屋近くの湿原で)


ワタスゲ(西吾妻小屋近くの湿原で)


西吾妻小屋から西吾妻山頂へ向かう団体


西吾妻山山頂


新高湯温泉への下山口


inserted by FC2 system