山 行 記 録

【平成18年7月14日(金)/蔵王ダム〜南雁戸山〜名号峰〜追分〜蔵王ダム



南雁戸山山頂


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】蔵王連峰
【山名と標高】 南雁戸山(みなみがんどさん)1486m、名号峰(みょうごうほう)1490.9m
【地形図 1/25000】笹谷峠、蔵王山
【天候】曇り時々雨
【行程と参考コースタイム】
蔵王ダム9:30〜雁戸山登山口10:00〜渡渉点10:15〜分岐12:15〜南雁戸山12:40-50〜分岐〜名号峰14:40〜追分15:00〜雨量計16:10〜鍋倉不動16:25〜登山口17:10〜蔵王ダム17:30
  
【概要】
 梅雨に入ってから鬱陶しい毎日が続いている。梅雨の長雨というのか、今年は中休みもないので、曇り空だけでもありがたいと感謝しなければならないようである。今日もどんよりとした、雨もよいの天候だったが、蔵王連峰に出かけてみることにした。蔵王連峰の稜線上で、南雁戸山から名号峰間だけがまだ歩かずに残っているので、今回はその二峰のピークを踏むことも兼ねて、蔵王ダムの登山口から登る計画である。蔵王ダムコースは冬の山スキーでしか知らないので、私は未知の世界に入ってゆくような心のときめきがある。私が持っている二つのエアリアマップ(昭文社発行)では、1993年版に蔵王ダムから南雁戸山へのルートは載っていないが、1998年版には点線で登山道が記載されている。点線のコースとはいわゆる難路なのだが、一般的にはあまり登られなていない山道ということだろう。この蔵王ダムからはあまり登山者が入らないマイナーなコースだけに、静かな山歩きが好きな人には格好のコースかも知れなかった。今回はこのコースから南雁戸山を登り、南雁戸山からは名号峰へと南下し、追分から蔵王ダムへと戻る周回コースをとることにした。追分から八方沢を渡渉すれば冬の蔵王ダムツアースキーコースを下る事にもなり、私にとっては前々から温めていたコースでもあった。

アプローチ
 雪のない時期に蔵王ダムへ向かうのは初めてだった。山形道の山形蔵王ICから旧笹谷街道に入り、山形市上宝沢地区を最奥まで進むと蔵王ダムに着く。蔵王ダム管理所からは冬期間と同様に一般車は進めないので、管理所前が実質的な登山口となる。葉ノ木沢に架かる橋を渡ると、草が背丈以上に伸びていて林道に大きく覆い被さっていた。間もなくすると熊野岳への見慣れた登山口に着くが、ここは見送り、その先にあるという雁戸山の登山口に向かう。尾根の突端をぐるっと回り込むと木の杭が立っていて、三叉路風に道が分かれていた。登山口を示すものはなにひとつ無く、不安を感じながらも右手のなだらかな切り開きを進んで行くと、ここも雑草が茂っていて道なのか、ただの草地なのかよくわからない。しかし、その切り開きも徐々に登山道らしくなってゆき、途中で雁戸山を示す標識も現れ、コースが間違っていなかったことを確認した。

 なだらかだった山道はまもなく終わり、今度は沢に向かって一気に急坂を下るようになる。かなりの勾配の登山道をジグザグに降りて行くと、八方沢の沢底に着く。ここは地形図にある八方沢の渡渉点のようで、見上げると古いワイヤーが対岸へと伸びており、昔は吊橋があったようだが、今は見る影もなく壊れ果てているようであった。八方沢は最近の降雨によって水かさが増し、水流の勢いが強くてなかなか良い渡渉点が見つからない。どこか石伝いに渡れる箇所はないかと見渡し、大きな石が比較的多い場所からストックを頼りに渡ろうとした。しかし、二つ目の石を渡ったところで滑ってしまい、いとも簡単に両足は川へドボンとなる。体ごと転ばなかっただけまだましというべきか、やはり登山靴を脱げば良かったと思っても後の祭りであった。

 対岸で登山靴に入った水を吐き出し、靴下をきつく絞って登りを再開する。日帰りなので替えの靴下もないのが我ながら悲しかった。対岸からは尾根伝いに急坂を登ってゆく。道が少しわかりづらい所もあったが、しばらくすると登山道がはっきりしてきた。とはいっても、ほとんどこのコースは歩かれている様子がなく、ケモノ道も同然のような状態にも見える。それだけに静かなコースとも言えそうだが、こんな薄曇りの天候の時には少し気味が悪くなるほどであった。忘れた頃になるとまた標識が現れるので、ルートが間違っていないことに安堵する。付近はブナやミズナラの樹林帯が続き、展望はほとんどなかった。そして曇り空ということもあって、登るに従いだんだんと霧が濃くなっていった。

 急坂が一段落すると少しだけ平坦地が続いた。天候がよければ休憩場所に最適な場所のようだったが、霧に日差しは遮られて薄暗く、今日はそんな気分にもなれない。まもなくすると南雁戸沢の渡渉点だったが、ここは水量が少ないので特に問題はない。対岸の尾根に上がって、さらに小尾根をトラバース気味にすすむと南雁戸沢の支流のような箇所を通過する。ここは地形図にも記されてある水場のようであった。樹林帯から抜け出るとようやく明るさを増し、斜度も緩やかになってゆく。視界はないが、まもなく稜線のようだった。草丈が伸び放題になっていて、両手で草をかき分けながら進むと急に目の前に標識が現れた。標識には左手は南雁戸山、右手は刈田岳とあり、ようやく縦走路に出たようであった。周りは潅木や草木が密生していて展望は全くなく、ほとんど稜線という気がしなかった。

 ひとまず南雁戸山を往復してくることにして、潅木のトンネルをくぐりながら進む。すると途中で登山者が一人下ってくるところに出会った。宮城から来たという女性で、ブドウ沢を登り、南雁戸山を往復してきたらしかった。平日のこんな天候の時に、登山者と出会うことなど思ってもいなかった、とお互いに笑い合いながら少し立ち話した。ブドウ沢コースにもやはり渡渉箇所があるらしく、彼女は準備よく、足下をみると両足は長靴であった。潅木をかき分けながら進むとやがて広いガレ場の様な場所に出る。ここには標柱が立っていたが、山頂はまだ少し先のようであった。地形図上ではささやかな距離だったが、疲れた足にとって南雁戸山の山頂までは結構遠く感じられた。

 登り切った南雁戸山はおよそ10年ぶりだろうか。晴れていれば雁戸山本峰よりも展望がよいはずの山頂も、今日の濃霧では視界もないので、白い背景の証拠写真だけ撮って、とりあえず小さな達成感を味わっただけであった。雨具を着ていなかったので、両側からの枝の雫を全部靴下が吸い取ってしまい、登山靴の中は再び水浸しになっていた。しかし、脱ぐのも面倒なのでそのまま下ることにする。すでに午後一時近い時間になっていて、行動食を少しだけ腹に入れ、呼吸が落ち着いたところで、すぐに下山にとりかかった。

 蔵王ダムの分岐からは割合に短時間で八方平避難小屋に着いた。ここもすっかり雲の中に入っていて、避難小屋はガスの中にうっすらと見えるだけだった。コース上には標識があって、小屋はブドウ沢へ下る分岐点にもなっているようだった。一応、小屋の中を確認するが登山者は誰もいない。しかし小屋は比較的新しく、きれいに整備されていて、内部には焚き火も出来そうなレンガづくりの囲炉裏まであり、泊まるには快適そうな山小屋であった。

 避難小屋からは再びブナ林の道が続いた。小さな上り下りを繰り返しながら徐々に高度が上がって行く。疲れが出てきたのか登りがかなりきつく感じるところだった。いくら登っても名号峰は現れないという、苛立たしさにも似た感じがつきまとったが、展望もないのでよけいにコースが長く感じられるのかも知れなかった。ようやく登り切ると急に視界が開けて、名号峰の山頂に到着した。あえぎ声をあげながら、どうにか登り切ったという感じだった。ここは樹林がないガレ場となっていて、蔵王連峰では唯一の花崗岩の山頂である。一方ではようやく縦走路がこれでつながったという、一人だけの満足感に浸った。残念ながら展望はなかったが、それでも前方にはうっすらと熊野岳が見えるような気がした。樹林がないだけに風が強く、汗でびしょぬれになったTシャツもたちまち冷えてくるようであった。ラジオを聴いていると山形市内では今年一番の暑さらしく、すでに気温は30度を超え、湿度が90%とも伝えていたが、この山頂だけは別世界のようである。その後も小雨は降ったりするものの、大降りすることはなかった。名号峰の山頂にはコマクサが咲いていて、山頂から少し南に下ったガレ場では群落になっていた。今年初めて見る可憐なコマクサに、疲れていた体も慰められるようだった。

 名号峰を後にするとまもなく見覚えのある追分に着く。左の尾根を下れば賽ノ碩経由でエコーラインに下るところで、前方には熊野岳が大きく迫るところだが、あいにく今日は何も見えないのが寂しい。追分からは草が生い茂る平坦な道がしばらく続いた。ほぼ等高線に沿って西に向かうと、まもなく渡渉箇所が何カ所か現れる。渡渉点では標識がないので少しわかりづらいが、対岸には赤いテープがあるので見落とさないようにして先を急いだ。渡渉箇所は八方沢の源頭部のため、水量は少なかったが、大雨の後などでは渡渉が難しくなるだろうと思われた。滑滝のような渡渉箇所が結局5ヶ所ほどあり、その間にもちいさな沢を横断しなければならなかったが、やがて緩やかな斜面を下るようになると、周囲には見事なブナ林が広がるようになった。蔵王ダムへ山スキーで下ってくると快適なブナ林に出会うのだが、ここがどうやらその地点のようであった。斜度はさらに緩やかになり、まもなく前方に1174.5m峰が見えてくると、雨量計のアンテナ部分が樹林の間から見えてくるようになった。ようやくここまできて、コースの間違っていなかったことを確信する。見覚えのある雨量計は登山道から10mほど離れていたが、一応立ち寄って確認してゆく。さらに下ると鍋倉不動まではまもなくであった。この付近は特に山スキーで下った時を思い出すところで、展望もない登山道だったがなかなか飽きさせない山道であった。

 雪のない時期の鍋倉不動を訪れるのは初めてだった。入口にはりっぱな標識が立ち、冬場にみる鍋倉不動とは少し違う雰囲気が漂っていた。人影もなくひっそりとした佇まいは、眺めているだけで心が落ち着くような不思議な存在感がある。不動様の前にたって今日の山行の無事に感謝して手を合わせてみる。山奥の古い祠や神社などは、どんな人をも敬虔で厳粛な気持ちにさせるようでもあった。鍋倉不動からも見覚えのある細い山道がしばらく続いた。体は非常に疲れていた。時間はもう夕方の5時近くになろうとしていた。ジグザグに山道を下って行き、突然視界が開けるとそこが登山口だった。後は20分ほどの林道歩きが残っているだけである。林道は山中と違ってまだ十分に明るかったが、途中で振り返って見る雁戸山や南雁戸山は厚い雲に隠れたままであった。


名号峰(熊野岳)登山口


登山口の標識


渡渉点と壊れた古い吊橋


八方平避難小屋


名号峰山頂


コマクサ(名号峰)


雨量計


鍋倉不動


今回のコース(縮尺1/50000)※GPSは持たなかったので実際の軌跡ではありません


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