山 行 記 録

【平成18年6月24日(土)〜25日(日)/朝日連峰 大朝日岳から御影森山



大朝日避難小屋で日没を待つ登山者(24日夕刻)


【メンバー】3名(清水、東海林、蒲生)
【山行形態】夏山装備(ピッケル)、避難小屋泊
【山域】朝日連峰
【山名と標高】鳥原山1,430m、小朝日岳1,647m、大朝日岳1,870m、平岩山(ひらいわやま)1,609m、大沢峰1,484m、
       御影森山(みかげもりやま)1,534m、上倉山(かみくらやま)1,144m
【地形図 1/25000】朝日岳、羽前葉山
【天候】(24日)曇り後晴れ、(25日)晴れ
【温泉】西村山郡朝日町「いもがわ温泉」150円
【行程と参考コースタイム】
(24日)朝日鉱泉7:00〜鳥原山11:00〜小朝日岳13:00〜大朝日避難小屋15:30(泊)
(25日)大朝日避難小屋5:40〜大朝日岳5:55〜平岩山7:00-7:20〜大沢峰8:20〜御影森山9:15-9:30〜上倉山11:00〜朝日鉱泉13:00
  
【概要】
 今日は朝日連峰のヒメサユリを目的にした山行である。私にとっては2年ぶりの周回コースで、いつもの私的な山の会の山行だが、参加者はたった3人に減ってしまったのが、ちょっと寂しいといえば寂しい。この鳥原山から御影森山を周回するコースは、健脚者にとっては日帰りでも可能なコースということもあって、山小屋泊りとなると少しも急ぐ必要は無い。私は久しぶりにのんびりとした初夏の朝日連峰を楽しめそうで、いつになく心に弾むものがあった。

6月24日
 早朝に長井を出発し、朝日町の立木地区から木川ダムへと進むと道路は通行止めとなっていた。工事中の看板はあったのだが、結局、県道を途中から引き返すはめになり、白倉からは林道を迂回して朝日鉱泉に向かった。このため予定時間が30分ほど遅れて朝日鉱泉ナチュラリストの家に到着した。すでに駐車場には数台止まっていたがそれほど多くはなかった。今日、明日と好天が予想されているだけに、少し拍子抜けしたような気分である。今日はほとんど古寺鉱泉からの登山者が多いのだろうと思った。

 ナチュラリストの家から見上げる大朝日岳は、雲が少し広がっていて山頂付近は見えなかった。準備を終えて早速登山届けをナチュラリストの家に投函すると、吊橋を渡って登山道を進んでゆく。3人だとある程度マイペースでゆけるので、今回は花の写真撮影を目的にゆこうと私は半分決めていた。すでに梅雨にはいってもう半ばともなると気温は真夏の暑さと紙一重である。先日の飯豊連峰での熱中症の二の舞だけは踏むまいと考えていたが、今日はゆっくりと歩く先頭の清水氏がペースメーカーなのがありがたい。そして予報に反して曇り空のために気温もそれほど上がらず、この時期の山登りにすれば、最適な条件が整っているともいえた。ただでさえ鳥原山経由での大朝日岳は長丁場なのである。それでも急坂をジグザグに登って行き、尾根に上がると大量の汗が全身から噴き出していた。そして汗の匂いにつられてやってきたブヨの大群が、体やザックにまとわりついて離れようとしなかった。

 2年前の山行では、大雨注意報が発令中とあって、その時は金山沢の渡渉に難儀したのだが、今年は水量も少なく難なく対岸の尾根に上がることができてホッとする。登山道にはまだ目立った花々は見られなかったが、登っているうちにマイヅルソウやコイワカガミなどが目に飛び込んでくる。とくにこの辺りのコイワカガミはほとんどが白い花弁なのが印象的であった。金山沢からは1時間ほどの登りで湿地帯に飛びだし、左手の高台には鳥原小屋が見えてくるところだ。そこからはしばらく木道歩きとなり、一帯は朝日連峰でも有数の湿原地帯となる。ここまで来ると高山植物は一気に増えてきて、木道の両側にはミツバオウレン、ハクサンイチゲ、チングルマ、ハクサンチドリ、ツマトリソウなど、種類をあげれば数え切れないほどの豊富な花々に彩られるようになった。また古寺鉱泉分岐点の池塘にはミツガシワがびっしりと咲き、その広い水面を覆っているようであった。

 鳥原山の山頂からは大朝日岳や小朝日岳が正面となり、小朝日岳山頂には登山者が数人いるのが見えた。肝心の大朝日岳はというと、まだ雲がかかっているのが気にかかる。しかし、時々雲が割れて青空が顔を覗かせており、天候はまもなく回復するだろうと思われた。鳥原山までは出会う登山者もなく、静かな山歩きが続いていたが、小朝日岳に向かうと山頂から下ってくる人もいて、まもなく夫婦連れらしい二人組とすれ違った。そこはちょうど雪渓が残る斜面付近で、二人は古寺鉱泉から小朝日岳への周回コースを日帰りで歩いているようであった。雪渓はキックステップでも十分可能な雪の状態だったが、安全も考慮しメンバーのためピッケルでカッティングをしてステップを切りながら進んだ。無事に雪渓の斜面を通過すれば小朝日岳はもう目の前である。この付近ではシラネアオイやハクサンチドリ、コケモモなどが多く目立った。

 小朝日岳山頂では単独行が一人休んでいたが、私達と入れ違いに古寺山へと下っていった。ここまでくれば大朝日岳はもう目前であり、しばらく大休止をとることにして、私はザックを枕にして横になった。気温もそれほどあがらず、また爽やかな涼風が山頂を吹き渡っていた。私はすぐにうつらうつらとなり思わず眠ってしまいそうだった。汗をかいた体には非常に心地よく、朝日連峰を吹く風はまさに自然のクーラーであった。

 小朝日岳の山頂からは150mほど下って熊越へと向かう。この途中では2年前にヒメサユリがびっしりだったことを思い出したが、今年はまだ蕾の状態がほとんどで、開花にはまだ1週間ほど早いようである。やはり今年の大雪が影響しているのかもしれなかった。それでも銀玉水に向かう稜線ではポツリポツリとすでに開花しているヒメサユリもあって、さっそくカメラを向けて記念にシャッターを切ってみる。しかし、群落というほどにはほど遠く、幾分落胆気味なのは事実だった。

 銀玉水まで来ると、今晩小屋泊りと思われる団体の人達に出会った。水汲みを終えてちょうど避難小屋に向かうところだった。銀玉水では融雪水しか取れないかもしれないと思っていたが、ホースも全体がでていて、その口先からは豊富な伏流水が勢いよく溢れ出ていた。水場を覆っていた雪渓はまだ融けたばかりのようで、ホースの上には残雪が覆い被さる形で残っていたが、水を汲む分には少しも支障がなかった。この銀玉水は以東岳の碧玉水と同様に朝日連峰では優劣を決めがたいほどの名水だが、今日の銀玉水はいつにも増して冷たく、手をつけると凍りそうなほどであった。数秒も手をつけていることができず、たぶん水温は2度か3度ぐらいしかないだろうと思われた。ここでは5リットルほど水を汲んだのでザックがずっしりと重くなった。銀玉水からの斜面にはまだ大量の雪渓が残っていたものの、アイゼンまでは必要はなく、キックステップで十分だった。雪渓が切れるところでビニール袋に雪を詰めて、缶ビールを冷やしながら小屋を目指した。

 大朝日小屋は濃い霧に包まれていた。小屋にはいると佐藤さんと大場さんの管理人に迎え入れられる。二人は自家用発電機に燃料を給油中で、二階に上がると裸電球が吊されてあった。水洗式のトイレもそうだが、だんだんと山小屋も近代化されてくるようで、便利さもいいのだがちょっと複雑な心境でもあった。小屋では10数人がすでに夕食の準備中で、私たちは3階に場所を確保した。その後も夫婦連れなどが加わって、今日の宿泊は総勢20名ほどにもなり、山小屋は時間が経つに連れてにぎやかさを増していった。薄暗くなったところで、白熱灯が灯って部屋は明るくなったが、3階までは届かないので私たちは持ってきたローソクを灯した。山小屋ではこの優しい明かりを感じさせる、昔ながらのローソクの方がいいのだと思うのは負け惜しみだろうか。私達は早速冷えたビールで今日の無事に感謝をしながら乾杯をして宴会が始まった。

 しばらくすると窓の外がかなり明るさを増し、何人かが外に飛び出していった。日没が近づいているようだった。私たちも焼き肉などを炒めていたのだが、夕食を途中で中断し、急いで外にでてみると、まもなく西朝日岳に太陽が沈もうとしているところだった。小屋に到着したときには濃霧に包まれていた山頂も今はすっかりと晴れ渡っていた。私達も他の登山者達も暮れゆく朝日連峰の日没の風景を静かに、そしていつまでも眺めていた。

6月25日
 翌日は3時半頃起床した。すでに外は薄明るくなっていて私はカメラを持ってすぐに外に出た。まもなく小朝日岳付近からご来光が始まろうとしていて、東の空がオレンジ色に輝いている。左手には月山や鳥海山が雲海に浮かんでいて、まるで大きな墨絵を眺めているようだった。また右手を見回すと蔵王連峰も雲に浮かんでいて、その左手には雁戸山のピークが飛び出ている。4時頃から東の空が薄く染まり始め、一瞬、暗さを増したと思ったら稜線の一角から閃光がきらめき、太陽の一部が雲海の上に現れた。午前4時15分だった。この朝のドラマはやはり泊まった人だけが味わえるもので、私は久しぶりに山泊まりの感激を味わいながら写真撮影に余念がなかった。

 朝食のメニューはネギ納豆にネギの味噌汁。たったそれだけの質素なものだが、これだけで今日のエネルギーは十分のような気がした。朝食を済ませるとすぐに小屋をでた。予定よりも出発時間は早くまだ5時40分だった。大朝日岳の山頂には立派な展望盤が設置されていた。山頂からは雲海に浮かぶ朝日連峰が一望に見渡すことができて、しばらくぶりの展望に見入っていた。縦走路の南端には天に突き上げるような祝瓶山がそびえ、その背後では飯豊連峰の稜線が異様なほどに白く輝いていた。山頂からの展望を楽しんだあとは平岩山に向かって斜面を下ってゆく。その途中ではイワカガミやウスユキソウが群落となって咲いていて、残雪の西朝日岳とのコントラストが美しく、私は最後尾を歩きながら何回もシャッターを押し続けた。

 平岩山までくると北大玉山や大玉山がさらに大きく迫ってくる。そして祝瓶山はまさしく天に屹立しているといった表現がぴったりで、桑住平からの怒濤のような急坂が手に取るようにわかった。平岩山から下るところでは男女二人組が登ってくるところに出会った。ずいぶん早い時間なので声をかけてみたら、二人は御影森山に幕営をしてきたらしいとのことで、どちらも足どりは速く、健脚のご夫婦のようであった。

 御影森山まではいくつものアップダウンが続くところだが、今日はペースメーカーがいいのでいくらも疲れない感じがした。登山道を歩いていると汗の臭いに誘われたブヨの大群が全身に群がって閉口した。途中にある大沢峰の水場は、まだ分厚い雪渓の下だったが、この雪渓では平岩山から吹き下ろしてくる風が涼しく、いつまでも休んでいたいような場所であった。歩いているときは一向に離れようとしないブヨの大群も、この雪渓までは追ってくることはなかった。御影森山から下ると予想外にもヒメサユリが群落となって咲いていた。小朝日岳より標高は低いせいもあるのだろうが、ここの区間にこれほど咲いているとは正直予想していなかっただけに、これはうれしい誤算だった。そこからは早速写真に納めながらの楽しい下りの時間が続いた。また付近にはムラサキヤシオやムシカリ、タムシバも花びらが生き生きとしていて、この辺りではまだまだ盛りのようであった。

 上倉山からは一気に急斜面の下りとなる。まもなくすると下の方から沢音が聞こえはじめてきて、登山口が徐々に近づいているのがわかった。登山道は少しずつ歩きやすくなり、やがて朝日俣沢に架かる吊橋を渡ると、ほどなくナカツル尾根との分岐点の標柱が立っている。そして小沢を二つ渡ると鳥原山への分岐点だった。この先の水場では水筒をいっぱいに満たした。朝日鉱泉ナチュラリストの家に無事着いたら、昼食にラーメンを作るためである。水場で二日間の汗を流し、冷たい清水を心ゆくまで何杯も飲み干す。みんなの水筒もとっくに底をついていたようであった。

朝日鉱泉ナチュラリストの家の前では、大朝日岳の勇姿を眺めながらの最後の食事となった。長い時間歩き続けたおかげで、単なるラーメンがことのほか美味しく、できあがったインスタントラーメンを3人で奪い合いながらの昼食だった。日差しは強かったが、朝日鉱泉の庭先には心地よい風が吹き渡り、木陰で休んでいるとこのまましばらく横になっていたいような心地よさがある。天候に恵まれて多くの花と出会った朝日連峰の二日間が終わろうとしていた。


ミツガシワ(鳥原湿原の池塘)


銀玉水直前で


チングルマの群落と中岳(小屋近くで)


西朝日に日が沈む(19:06)


日没を眺める二人(避難小屋前)


日没を眺める二人(避難小屋後ろ)


日の出直前の鳥海山と月山(4:00)


鳥海山と月山を背景に小屋前でご来光を待つ(4:05)


日の出直前(4:10)


雲海とご来光(4:14) ※手前は小朝日岳


ウスユキソウとイワカガミと祝瓶山(大朝日岳直下)



大朝日岳山頂


ウスユキソウとイワカガミと西朝日岳(平岩山途上)


大朝日岳から平岩山に向かう


平岩山山頂から祝瓶山をバックにパチリ


ミヤマキンポウゲと祝瓶山(平岩山直下)


マイズルソウ(御影森山の近くで)


ヒメサユリの群落(御影森山からの下りで)


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