山 行 記 録

【平成18年6月3日(土)/飯豊連峰 石転ビ沢〜梶川尾根



快晴の石転ビ沢


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備(アイゼン、ピッケル)、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】北股岳2024.9m、門内岳1887m
【天候】晴れ
【温泉】飯豊山荘 500円
【行程と参考コースタイム】
自宅5:35=天狗平6:50(飯豊山荘前駐車場)
天狗平7:00(410m)〜温身平分岐点7:20〜砂防ダム7:30〜梶川ノ出合8:35〜石転ビ沢ノ出合9:00〜梅花皮小屋11:00-11:30(1850m)〜北股岳11:55〜門内岳12:55〜扇ノ地紙13:05〜梶川峰13:45〜滝見場14:40〜天狗平16:10(410m)

【概要】
 通行止めとなっていた梅花皮荘から飯豊山荘までの道路が昨日になってようやく通れるようになった。山荘前の駐車場には早くもこの時を待ち焦がれていた登山者の車で一杯になっていて、数えてみるとおおよそ20台以上駐車中だった。早朝にもかかわらずこんな混み具合は久しぶりのような気がした。まるで堰を切ったかのような勢いで登山者が押し寄せてきたようで、天狗平はやはり飯豊連峰における中心的な存在だなあとあらためて思わずにはいられない。今週末は好天の予報もでているので、これからも続々と入山する登山者で溢れるだろうと思われた。

 駐車場に着いてみると所属している山岳会の荒谷氏と志田氏が準備中だった。山岳会の今週末の行程はメールで聞いていたので、どこかでは出会うかも知れないと思っていたのだが、荒谷さん達にとっては唐突だったらしく、今日の突然の再会に驚いている。二人は石転ビ沢を登り梅花皮荘に泊まる予定で、大きなザックを広げてまだパッキングの最中だった。また山スキーの「二日間滑り隊」の他のメンバー達(柴田、山中、上野)は10分ほど前に出発したとのことであった。私は今日の行程が長くなることが予想されることから、準備を簡単に済ませて二人からは一足先に出発した。

 温身平への林道はすでに深緑に包まれていた。辺りからは小鳥のさえずりと小川のせせらぎの流れる瑞々しい音が聞こえる。奥深い山にも遅い春が訪れようとしていた。温身平を過ぎて砂防ダムを乗り越えしばらくすると、スキーを小脇に抱えた山中氏に追い付いた。彼は山菜を採取しながらメンバーの最後尾を歩いていた。私もその山菜を教えてもらい、早速ビニール袋に詰めながら歩く。昔は山菜などには見向きもしなかった私だったが、最近はこんなのんびりとした春山が多くなっている。さらに進むと「うまい水」手前でようやく先行する上野氏と柴田氏に追い付いた。柴田氏のザックは相変わらず大きくいつもびっくりするのだが、中身はテントの他に缶ビール1ダースとワイン2リットルが入っているのを私は知っている。柴田氏はGW以来の山スキーということらしく、重いザックにもかかわらず、全身に生気がみなぎっている感じだった。私は長丁場となるので立ち話を少ししながら3人とはここで別れ、先にゆかせてもらった。

 今日は朝から天候がよいだけに汗が滴り落ちていた。早く雪渓に降りたいものだと思いながら、左手の梅花皮沢の雪渓をチラチラと眺めながら歩くのだが、一方では雪解け水の奔流の音も大きく、危なくてまだ下りて行けそうもなかった。テレマークスキーのシーズンを終えてから、山に入るのは二週間ぶりで、久しぶりの山歩きにまだ体が慣れていないようであった。その雪渓には「彦衛門の平」を過ぎて地竹原を抜け出したところでようやく乗ることができた。梶川ノ出合まではひと登りの地点で、ここからは広大な雪渓が梅花皮沢の右岸から左岸までを塞いでいた。近くの枝には黄色い布きれが付けられてあり、下りの人にとってはちょうどよい目印になるだろうと思われた。私はここから早速12本爪のアイゼンを装着する。普段であればアイゼンは石転ビノ出合を過ぎてから履くのだが、少しでもスリップを防ぐために早めに履くことにした。

 梶川ノ出合付近ではたくさんの登山者が歩いていた。至るところで休憩をとっている人達も多かったが、こちらは単独なので特に小休止をとることもなく、次々と追い越してゆき、石転ビノ出合には飯豊山荘からちょうど2時間で到着した。上空は雲ひとつない快晴がひろがっていて、見上げる石転ビ沢や門内沢の光景は素晴らしかった。私は腰を下ろしポカリを飲みながら、つかの間、周りの風景に見とれていた。石転ビ沢の雪渓にはたくさんの登山者が張り付いていて、先をゆく人達は黒い小さな点にしか見えない。もう何回も目にしている風景だが、今回もまたこの地点に立ってみると雪渓の広大さにあらためて圧倒されるようだった。

 本石転ビ沢を過ぎると勾配が徐々に増してゆき、ペースが少しずつ遅くなる。周りを見ると他の人達も遅れ気味になっているようだった。その傾斜に比例するようにして疲れも増して行く。北股岳の出合からはいよいよ最後の急坂となり、ここでストックを一本ザックにしまい、右手にピッケル、左手にストックという装備で急斜面を登って行くことにした。通常ならばかなり緊張感が走る箇所なのだが、今日の気温の上昇で雪は柔らかく、また先人の踏跡がちょうどよいステップとなっていて、急斜面にもかかわらず恐怖感はほとんどなかった。梅花皮小屋までは水平距離にすればわずかなのだが、ここは勾配がきついだけに、意外と時間がかかるところだ。私は30歩登っては一呼吸をつきながらのリズムで登って行く。先行者を追い越して行くときに一声をかけて行くと、新潟からの登山者が多いのにあらためて驚かされた。

 梅花皮小屋には出合からちょうど2時間で到着した。雪渓は小屋の直下まで続いていてスキーならば快適に、そして瞬く間に出合まで下って行けそうだった。小屋前では単独行が二人休んでいたが、他には登山者が見当たらず、何人かは小屋の中で休んでいるようだった。私はカメラを携えて早速水を汲みに行く。ここまで登ってしまえば快適な稜線歩きが待っていると思うと心が弾んだ。梅花皮小屋からは大日岳が大きく迫り、辺りにはミヤマキンバイなどの高山植物がかなり咲き始めていた。私は小屋前で軽く昼食をとり、しばらく横になって休んだ。20〜30人ほどの登山者を追い抜いてきたが、新たに登ってくる人はまだまだ現れそうもなかった。

 雪渓を登ってくる人の声が聞こえたのを機におもむろに腰を上げ、扇ノ地紙に向かうことにした。小屋に到着してまだ30分しか経っていなかった。気持ちの良い涼風と温い日差しは心地よく、もっとのんびりとしていたかったが、これからの行程も長いので、後ろ髪を引かれる思いでザックを背負った。北股岳への夏道はまだ半分以上残雪に覆われていたが、軽登山靴でもキックステップが良く効いて、アイゼン無しでも何の問題もなかった。北股岳への途中から石転ビ沢を眺めると次々と登ってくる人達が蟻のように連なっているのが見えた。北股岳の山頂からは飯豊本山や御西小屋、そして大日岳へと連なる稜線が一望に見渡すことができた。反対側の二王子岳や胎内尾根の山並みもまた懐かしかった。先日まではかなりの雪が残っていたのだろうが、この時期になるとさすがに残雪も少なくなり、山肌は深緑と残雪のまだら模様となっていた。

 門内岳までの登山道の両側にはミヤマキンバイやハクサンイチゲが群落となっていた。稜線では早くもお花畑が広がっていて、残雪の山並みとこれらの花々の取り合わせは眺めているだけで心が落ちつき、疲れていた体も癒されるようであった。吹く風も爽やかでこんな山歩きがいつまでも続いてくれればと願いながら途中で何回もシャッターを切りながら歩いた。

 門内岳の山頂では入り門内沢を登ってきたという山スキーの二人組が休んでいた。他には登山者もみあたらず、静かな山頂だった。門内岳山頂や門内小屋の周辺では雪が消えていたものの、扇ノ地紙一帯にはまだまだ分厚い残雪が残っていて、例年よりもはるかに多いのを感じた。扇ノ地紙の標柱付近は夏道だったが、その先は再び残雪歩きとなる。地肌が露出している梶川峰の手前の鞍部付近では、ハクサンイチゲ、ハクサンコザクラ、ミヤマキンバイ、ショウジョウバカマが咲き乱れていた。他にはコイワカガミ、シラネアオイ、ミツバオウレンなども咲いている。またミネザクラは今が盛りで、この付近はまだ早春という言葉がぴったりする雰囲気であった。

 体調が少しおかしいと気付いたのは梶川峰を下り始めてからだった。梶川峰からも快適な雪渓歩きが続いていたが、一方では妙に体のだるさを感じ始めていた。それに異常なほどの汗が上半身から流れ続けていて、頭の前頭部が少しずつ痛み始めている。この体調を考えば、本当はのんびりと歩きたい気分だったが、この付近の残雪は石転ビ沢とは比べものにならないほど雪が堅く締まり、気を抜けない下りが続いた。ピッケルを出せばグリセードも楽だったのだろうが、この頃になると取り出すのも億劫になり、2本のストックを束ねてピッケル代わりにして下った。五郎清水付近もまだ多くの残雪に隠れていて、よく観察しないとコース自体がわからないほどだった。ストックのグリセードではうまく制動がかからずに、途中で何回か滑り落ちたりした。幸い大きな怪我はしなかったが、腕や手のひらのあちらこちらには擦り傷ができていた。しかし、眼下に滝見場も見えてくると、もうひとがんばりという気持ちになる。滝見場まで下らなくとも、今の時期はどこからでも石転ビ沢や梅花皮大滝を眺めることができて、見晴らしは最高だった。

 滝見場の標柱はまだ残雪にすっぽりと埋もれていて、どこが登山道かよくわからなくなっていた。今年の大雪のせいもあるのだろうが、扇ノ地紙からはほとんど残雪歩きの連続だった。滝見場からはしばらく夏道が現れたが、湯沢峰の鞍部付近からは再び残雪が前方の斜面を覆っていた。登山道を歩かずに湯沢峰まで真っ直ぐに登って行くことができるなど、今の時期では初めてのような気がした。私はこの最後の登りがとてもきつくて、意識も半分は朦朧としていたようである。湯沢峰まで登り返したところで、ザックを枕にしばらく横になって休んだ。

 湯沢峰は日影になっていて、また涼しい風が心地よかった。しかし一方では吐き気や頭痛が一向に治まる気配がなかった。ここまでくれば飯豊山荘まではもうひと下りなのだと自分に言い聞かせ、15分ほど休んだところで下ることにした。早く下って全身に冷たい水を浴びたかった。湯沢峰からは怒涛ともいえる急坂が続くところだ。もう何度も歩いたところなので、気をつけなければならない箇所はわかっているつもりだったが、それでもちょっとしたところでよろけたり、スリップして尻から転んだりした。足や膝の痛みはほとんどないのに意識が半分なくなっているようであった。

 眼下に飯豊山荘の赤い屋根が見えるとようやく安堵感が広がった。下山口はもうまもなくだった。湯沢にかかる橋にはちょうど9時間の行動時間を経て降り立った。私は人の目などはどうでもよく、Tシャツを脱ぎ捨て、一目散に湯沢に下りて頭から水を被った。体はそれほど疲れていないのに、体の熱さが異様だった。飯豊山荘の温泉でゆったりと疲れを取ろうとしたが、吐き気、頭痛はひどくなるばかりだった。私はあきらかに熱中症にかかっていたようである。私は帰宅しても丸々2日間、体を動かすことができなかった。


山中さんに追い付く


西川山岳会(二日間滑り隊のメンバー)


梶川ノ出合付近(正面は門内岳)


梅花皮小屋と北股岳


梅花皮小屋直下から石転ビ沢を見下ろす 遠方は朝日


北股岳への途上から見る石転ビ沢


北股岳山頂


ギルダ原付近のミヤマキンバイ


胎内尾根とミヤマキンバイ(門内岳付近)


ハクサンイチゲと胎内尾根


扇ノ地紙直下からの石転ビ沢と北股岳(右)


ミネザクラと杁差岳(扇ノ地紙直下から)


滝見場手前200m付近


滝見場からの石転ビ沢



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