山 行 記 録

【平成18年5月21日(日)/湯ノ台から鳥海山】



七高山からの滑降ルート


【メンバー】西川山岳会(山中、安達、荒谷、蒲生)ゲスト(斎藤、上野)
【山行形態】テレマークスキーによる山行、春山装備、日帰り
【山域】出羽山地
【山名と標高】鳥海山(七高山2,230m)
【天候】晴れ
【温泉】鳥海山荘500円
【行程と参考コースタイム】
大台野駐車場(路上)6:00〜マタフリ沢源頭8:00-8:17〜行者岳10:23-11:00〜七高山11:20-13:15〜駐車場(路上)15:20
  
【概要】
 5月もすでに下旬に入りそろそろ今年の板納めも近づいている。今日はめずらしく全国的に快晴の予報が出ていて、どこに出かけてもよさそうなものだったが、今週は安心して下れて、なおかつ当たりはずれがない湯ノ台口から鳥海山に行こうと決めていたところ、会の仲間から全く同じ計画を組んでいることを知らされて、今回は所属している山岳会の仲間達と一緒に行くことになったものである。

 メンバーのほとんどは前日から登り口にテント設営をして、会の重鎮である遠藤さんのエベレスト登頂のお祝いを兼ねながら、夜遅くまで宴会に盛り上がっていたようだった。出発は駐車地点を朝6時ということを聞き、私は当日の早朝に自宅をでた。現地に到着してみると大台野高原の道路は予想していたよりも雪解けが進んでいた。おかげでかなり奥まで車が入ることができ、時間的にはかなり余裕のある出発となった。駐車台数はおよそ5、6台といったところで、何十台も路上駐車されているような、GW時の大混雑といった状況はどこにも見られなかった。

 道路の雪解けは進んではいたものの、駐車地点から先は雪がまだ豊富に残っているので、下りは最後までスキーを使えそうだった。歩き出すとまもなく宮様コースの切り開きを登るようになる。ブナ林の美しい新緑の中を歩くだけでなんともいえないような幸福感に満たされる。GWからはすでに3週間も過ぎているのでさすがにブッシュも少し出ていたが、それでも予想以上に残雪が多く、シール登高にはいささかも支障がなかった。まもなく滝ノ小屋の北側を卷きながら大きな斜面の登りとなる。日焼けしそうなほど日差しは強いものの、風は冷たくて今日の服装はなかなかに難しい。マタフリ沢の源頭部まで来ると、ここから先は斜度が急になるところだ。ここで今日初めての休憩時間をとって一服とする。ブッシュの陰で休んだ積もりだったが、西から吹き下ろしてくる風は強く、すぐに体が冷え込んでくるので、そこではウインドブレーカーを羽織った。

 マタフリ沢の源頭部からは右へ右へとコースを取りながら七高山をめざして行く。さすがにこの時期となれば残雪もすべてつながっているというわけにはゆかず、ところどころブッシュで遮られていた。いつものように外輪山をただめざすだけならば問題はないのだが、今回は七高山までゆくつもりなので、4ヶ所ほどのヤブを越えなければならなかった。しかしそのどれもが短いので、最後の潅木を乗り越えると、すでにそこは七高山の直下であった。ここまでくれば遮るものは何もなく、山頂まで雪の大斜面が広がっているだけである。東斜面に回り込んできたため、先ほどまでの風はウソのようになくなり、気温は高く、半袖でも汗ばんできていた。振り返ると分厚い雲海が中空に浮かんでおり、その光景はまさに雄大で、息を呑むほどの迫力に圧倒されるようであった。

 登り詰めたところはすでに外輪山の一角で、そこは行者岳と七高山のちょうど中間地点だった。最初に登り着いた私はようやく一息を着く余裕も出てきて、次々と登ってくるメンバーを写真におさめながらのんびりと待つことにした。最後のメンバーは30分ほど遅れて到着したが、それほど疲れた様子も無く、体調には全員問題はなさそうである。全員揃ったところですぐに七高山に向かってトラバースしてゆく。大きな岩場を乗り越えると、すぐに七高山の山頂部に出た。七高山では祓川から登ってきた登山者や山スキーヤーで大賑わいであった。これまでの静寂さとうってかわった華やかさには、いまさらながらあきれるばかりである。まるで田舎から東京の大都会に出てきた時のような、戸惑いに似た思いがしないでもない。こうしてみると、この時期の静かな湯ノ台コースも悪くはないなあ、としみじみと思えてくるようだった。新山を見ればまだまだ多くの雪に覆われた千蛇谷が眼下に見えていて、そこでも大勢の登山者が行き来していた。

 早めに登り始めたおかげで今日山頂で過ごせる時間は豊富にある。七高山の直下ではさっそく缶ビールで乾杯をし、今日は心ゆくまで大休止をとることにした。メンバーのほとんどは酒豪ぞろいで、缶ビールを何本も空けたと思ったら、それでも足りずにワンカップ、それも新潟の銘酒「菊水」まで呑むのだから呆れてしまうほどだ。私はビールを軽く呑んだだけでザックを背にして横になった。頭上からは燦々と日差しが降り注いでいた。今日の初夏を思わせるような日差しは、いくら日焼け止めのクリームを塗っても無駄なような気がした。それほど異常ともいえるような気温の上昇だった。

 午後も1時近くになると、陽がいくらか傾きかけてくる頃だった。もうそろそろ下ろうかというときに外輪山からひょっこりと現れたのが、意外にも須賀川から駆けつけた友人の上野氏だった。連絡の手違いもあって2時間遅れで登り始めた上野氏はほとんど休まずに、そしてルートを間違えることもなくここまで私たちに追い付いてきたのだから驚かされる。ほとんど疲れもみせないその活力の源は何だろうか?と訝しくさえ思える上野氏にはただ唖然とするばかりだった。それからはさっそくみんなで乾杯のやり直しとなり、しばらく雑談に花が咲いた。

 2時間も休んだおかげでアルコールもまわり、みんなはもう動くのも大儀となっていた。ほとんどのメンバーは足元がふらついていて千鳥足になっている。こんな状態では滑りが心配になりそうなものだが、みんなは私のような下戸ではないので、それは取り越し苦労のようであった。雪はすでに腐り始めていて、少々の急斜面も何の問題もなくなっている。こんな好天の時はどこをどう滑っても楽しいばかりで、それぞれが思い思いに斜面を下って行く。まだ酔いが残っているだけにみんなはいつもよりも大胆なターンを楽しんでいるようだった。分厚い雲海はいつのまにかほとんど消えていて、夏空を思わせるような快晴の空に変わっていた。雄大な景色の中、イヌワシのような大きな鳥がのんびりと空を舞っているのを私は何回も目にした。

 登りでは4ヶ所乗り越えてきたブッシュも下りでは不思議に3ヶ所しかなく、私は首を捻るばかりだったが、もしかしたら雪のつながりを知らず知らずに拾いながら滑ってきたのかも知れなかった。最後の小さなヤブを越えるとそこはもうマタフリ沢の源頭部。すでに眼下には滝ノ小屋が見えていた。大きく斜面をトラバースしてゆき、滝ノ小屋の上部からは広々とした雪面を大きく、そしてときどき小回りで下って行く。春のザラメ雪は技術も何も必要がないほどで、なんとなく気も緩みがちになりそうである。あれよあれよという間に、たちまち最後の宮様コースの切り開き箇所へと着いてしまった。

 少々混み入った樹林帯を横滑りなどで凌ぎながら下ってゆくと、駐車場が近づくに連れ、多くの登山者達と出会った。みんな伏拝岳までの往復だったのか、七高山まで登ってきたことを話しするとほとんどの人達が驚いている。雪がつながっていない所も多く、一般の登山者達にしてみれば不思議だったのかも知れなかった。しかし、この時期、七高山からの標高差、約1430mをほとんどスキーで滑って来られたことは僥倖といってもよいのかも知れない。これも今年の例年にない大雪のおかげだろう。

 雪を拾いながら下って行くと、最後は駐車している車のところまで、スキーで下ってくることができ、今日のツアーが終了した。もう、鳥海山の南斜面を滑るのも今回が最後であろう。爽やかな風が流れる大台野の路上で後かたづけをしながら、私は今日の心地よい疲れを感じつつも、テレマークスキーの終盤が近づいているのを思わずにはいられなかった。



最後のヤブを越えると七高山はもう目前(9時30分)


千蛇谷を下る登山者達


雲海と山中さん


雲海と安達さん


雲海と荒谷さん


雲海と斎藤さん


行者岳で一服


賑わう七高山


滝ノ小屋を正面に滑降する


今回のコース
















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