山 行 記 録

【平成18年5月14日(日)/大日杉〜地蔵岳〜大又沢出合



残雪の飯豊山(大又沢出合への途上から)


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、春山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】 地蔵岳 1538.9m
【天候】小雨のち曇り
【行程と参考コースタイム】
大日杉小屋4:40〜尾根〜長ノ助清水〜地蔵岳7:45-7:50〜大又沢出合8:20-8:30〜地蔵岳9:40-9:50〜大日杉小屋11:30
  
【概要】
 大日杉から地蔵岳に登り、大又沢出合の沢底から飯豊山に直登し、スキーで滑走してみようという計画は、予定では昨日のはずだったのだが、朝から雨が降り止まないために中止をしていた。普通の山登りであれば雨具を着てということもあるが、山スキーにおいて、スキーを担ぎながら最初から雨具をきて登らなければならないというのは、かなり気が滅入るものである。加えて雪崩が一番恐いという事情もあった。今日はそのリベンジというわけだが、しかし、あいにく所要があって昼頃までには戻らなければならず、なかなか事はうまくできてはいないものである。逆算すると自宅を4時前に出ても、昨日の計画は変更するしかなく、良くても地蔵岳から一本滑るくらいが今日は関の山のようであった。

 自宅をまだ暗い早朝3時半に出発し、大日杉から登り始めたのは4時40分。平野部では昨夜から小雨が降り続いていたが、予報によると雨は朝のうちだけで、次第に晴れる予想が出ている。周囲はまだ薄暗かったが、雨は漸く上がり始めており、ある程度天候次第と思いながら曇り空の中、大日杉小屋を出発した。

 今日は初めからスキーをザックにくくりつけているので、久しぶりにザックがずっしりと重く、まるで泊まりの装備を背負っているようだった。すぐに杉林となり、まもなく残雪が現れると、斜度が徐々に増してゆく。今年は大雪だったこともあって、この時期としてはまだまだ豊富な残雪に覆われており、また雪面は堅くしまっているので、途中からアイゼンを装着した。アイゼンがあればどこでも登って行けそうなので、ザンゲ坂は登らずにそのまま雪の斜面をトラバース気味に登って行く。しかしその残雪もさすがに途中から切れてしまいそうになり、早めに尾根に上がることにした。尾根近くではヤブ漕ぎを強いられてしまい、それが担いでいるスキーに引っかかるので結構難儀しながら登らなければならなかった。尾根に上がったところはザンゲ坂からちょうど標高でちょうど100mほど上部のようであった。登山道にはさすがに雪はなく夏道となったが、ここまでもずいぶんと汗を搾り取られてしまった。

 尾根からはあらためて眺めてみるとブナの新緑がまぶしくて、この時期の春山の美しさにしばらく見とれてしまう。そして白川源流を挟んで対岸には、懐かしい五段山から牛ケ岩山への稜線が見えた。登山道の両側にはすでにタムシバ、ムラサキヤシオ、ムシカリなどが咲き始めていたが、例年よりも少し遅いという印象である。しかし、足元を良く見るとイワウチワが群落ともいえるほどびっしりと咲いており、いつもの春山の華やかな登山道という感じだった。しばらく夏道を歩くと長ノ助清水に到着する。その手前から残雪がすぐ尾根沿いまで続いているので、下ってくるときはスキーを使えそうなのを確認する。そこからは残雪歩きとなり、途中でザックからスキーを下ろすことができて、ようやく重荷から解放された。スキーはロープでひっばり、アイゼン歩行で地蔵岳をめざした。尾根の西側は残雪が切れている箇所も多いので、スキーで下ることを想定しながらなるべく尾根の東側を主に登って行く。アイゼン歩行ならば簡単に地蔵岳まで登れそうなものだったが、これが意外と長くて閉口する。しかし、それも左手に飯豊山の雄姿が見えてくるとダマシ地蔵まではまもなくとなる。ダマシ地蔵から地蔵岳までは緩やかな雪の斜面が続き、登り始めてから3時間でようやく地蔵岳の山頂に到着した。久しぶりに見る地蔵岳からの飯豊山はたまらなく懐かしい感じがした。

 地蔵岳の標柱は半分以上雪に埋もれ頭だけが出ていたが、山頂部分は地肌が露出し、周りには雪が無いので潅木類はすっかりあらわになっていた。予想ではこの山頂から真っ直ぐに下るつもりだったのだが、これでは左手から卷いてゆくしかなさそうであった。つまり予定した沢よりも一本南の沢を下らなければならないようだった。山頂から眺めてみると標高が高い分だけ周囲の残雪は豊富だ。しかし、縦走路を見ると夏道と雪道を交互と繰り返さなければならず、ところどころでは雪のブロックが崩れている箇所もかなりあるようであった。

 ここまででも私はかなりの疲労感を覚えていたが、とりあえず当初の目的の山頂に到着したことで小休止とし、水分を補給し遅い朝飯を軽くとった。乾いた喉を潤して腹を満たすとまた元気がでてきて、早速滑降に入った。

 地蔵岳から大又沢出合への滑り出しは、広い雪原なのだがすぐに傾斜が増してきて沢状の中の滑降となる。中斜面といった感じで通常ならば快適な滑降が楽しめるはずだったが、あいにく雪質は期待したほどではなく、ガタガタとした縦状の波板のような状態となっている。時期的な遅さを感じないわけにはゆかなかったが、それでも気温は高いのですでに表面はザラメ化しており、少々の急勾配でもターンはなんとか可能だった。下るに従って正面の飯豊山が大きく迫り、途中で何回もカメラのシャッターを押す。見る風景が新鮮でやはり初めのコースにはワクワクするような躍動感を覚えるようであった。そして、次回のために山頂へのルートを丁寧に確認しながら下った。

 大又沢出合までの標高差は約400mで、スキーで下ればあっという間だが、途中で風景に見とれながら何回もカメラを取り出すので30分もかかって沢底に着く。この出合の左側は大又沢で、上部は御秘所沢から続いている沢でもある。右に少し下ればおむろ沢出合で、そこはすでに飯豊本山の直下にあたるところだ。スキーならば1分もかからず下って行ける距離だったが、ほとんど平坦となり変わりがなさそうなので今日はここまでとする。沢底まで下りてしまうと手前の小尾根が飯豊山を遮るため肝心の山頂部分は見えなくなったが、人一人いない、静寂とした山あいには僅かな沢の流れが小さく聞こえるだけで、私は不思議な感動に襲われていた。

 出合ではブロック雪崩によると思われる大きなデブリが大又沢を塞いでいた。それが数カ所あって、この時期の危険さをあらためて認識する思いがした。さらに足元からはチョロチョロとした雪解け水の流れも聞こえており、いささか不気味な感じもしないではない。ここでの長居は無用の場所だった。この出合から飯豊山までは3時間弱ほどの登りだろうが、時計はすでに8時半。本山に登ればとうてい予定していた時間までには戻れないのはあきらかで、あらためてあきらめがついた形となった。ここからは計画通り、地蔵岳に登り返しとなるが、この時期の沢の形状や沢底の状況を確認できただけでも良しとしなければならないようであった。アイゼンを再び装着し、スキーはロープで引いてゆく。400mの登り返しなどたいしたことはないと思ったのだが、急峻な沢を登り始めるとさすがに両足の疲れを感じないわけにはゆかなかった。しかし、登るほどに再び飯豊山の姿が後方から大きく立ち上がってくるので、何回もその雄姿を振り返りながら眺めた。

 地蔵岳には1時間以上もかかって戻った。登っている途中、ガラガラとした音が後方で数回響きわたった。雪のブロック雪崩があちらこちらで起きているようであった。おむろ沢の下流付近でも雪崩が起きたばかりらしく、その箇所の雪面だけが異様に白くむき出しとなっていた。そこは飯豊本山へ登る際のちょうどルート途上でもあった。地蔵岳から大日杉までは下りだけなので、ここで大休止をとることにした。天候は予報通り快復基調で、薄雲ながらも明るさを増し、同時に気温も上昇していた。ほとんど休憩らしい休憩は取っていなかったので、予定していたよりも時間的に余裕があるのがうれしい。

 地蔵岳からの滑降は、雪面は安定し斜面もなだらかとなり、ダマシ地蔵まで快適にシュプールを刻んで行く。しかしダマシ地蔵から右手の尾根に移ると、ところどころでクラックが走っていて、そこは大きなクレパスといってもよく、容易にターンを出来る状況ではなかった。かといって沢底まで下りて行くわけにはゆかないので、ほとんどトラバース気味に横滑りでしのいでゆく。トラバースといっても急峻な斜面を横切るので、いささか緊張するところだ。まあ雪がつながっているだけ増しで、歩くよりは早いといった程度だろうか。時期がもっと早ければ一気に沢を滑り込んで大日杉まで下れそうだったが、この時期では無いものねだりというものだろう。それでも長ノ助清水の少し下部まで滑って行くことができたので、満ち足りた思いでスキーを脱いだ。

 夏道に戻るとスキーは再びザックに背負ってゆく。登り始めた時にはまだ蕾程度だったタムシバがすでにたくさん開花していた。ムラサキヤシオが新緑の飯豊にさらに彩りを添えてくれているようだった。まもなくすると眼下には大日杉小屋の赤い屋根が見えてくるとザンゲ坂も近い。

 ザンゲ坂の上部は雪渓がすでに切れているので、注意を要する区間だ。クサリはまだ一部しか出ていないので役には立たない。私はアイゼンを装着して、ピッケルを出し下ることにした。上部の露出した岩部分を慎重に下りれば後は広々とした雪渓、残雪歩きとなる。しばらく急斜面が続くのでアイゼン、ピッケルは必携であった。

 大日杉小屋には地蔵岳から2時間近くもかかって到着した。歩くよりも時間がかかったのはやはりスキー滑走の安全を最優先したためと、アイゼンの装着や取り外しに思いの外、手間がかかったりしたためだろう。しかし、この時期のスキー滑走にしては沢を一本楽しめた他に、地蔵岳からは予想外にスキーで下ってこれたことに私は満足していた。もう次の週には雪はところどころで切れているだろう。そう考えると今回の収穫はなかなか大きいものがあったと思うことにした。


早朝の大日杉小屋


タムシバと五段山


長ノ助清水


ダマシ地蔵付近からの飯豊山


ダマシ地蔵からの地蔵岳


地蔵岳から種蒔山への縦走路


地蔵岳の標柱


地蔵岳山頂と飯豊山


大又沢出合へ滑降する


大又沢出合のデブリ


雪崩れたばかりの跡(中央)


地蔵岳付近から飯豊を仰ぐ


ザンゲ坂上部


ザンゲ坂上部付近


ザンゲ坂付近のブナの新緑


今回のコース(赤:往路 青:復路)


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