山 行 記 録

【平成18年5月4日(木)/祓川〜鳥海山〜大清水山荘〜鳥海山〜祓川



大清水避難小屋と鳥海山


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、春山装備、日帰り
【山域】鳥海山
【山名と標高】鳥海山(七高山2,230m)
【天候】晴れ(快晴)
【行程と参考コースタイム】
   長井3:30=(R287・R347・R13・R108)=秋田県矢島町祓川7:00
   祓川駐車場7:30〜鳥海山(七高山)10:15-10:25〜唐獅子避難小屋10:40〜大清水山荘11:10-11:30〜
   鳥海山(七高山)16:20-16:30〜祓川駐車場17:30
  
【概要】
 数多い鳥海山の山スキーコースのなかでも、広大な東斜面である百宅コースは遅くまで残雪が残るため、6月に入っても山スキーを楽しむことができる貴重なコースでもある。その反面、大清水山荘への林道除雪が遅くて、例年だと5月下旬が通例となっており、毎年その貴重な時期を狙って多くの山スキーヤーが訪れているコースである。しかし、今年の百宅口は昨年と同様に例年にない大雪ということもあって、当分の間、除雪の見込みはないだろうということを考え、今日の行程は昨年と同じく、祓川から鳥海山(七高山)まで登ったあと、百宅コースを降り大清水山荘からは再び山頂へ登り返して、祓川の駐車場に戻るコースをとることにした。つまり一日で祓川と百宅コースを一度に楽しもうという、ちょっと欲張った計画である。昨年で一度味をしめてしまった私は、天候と体調さえよければ最高の鳥海山が楽しめることがわかっている。幸いに今日は移動性高気圧に覆われ、全国的に晴れの予報が出ているのであとは体力次第。祓川からは標高差1100m。百宅コースは1400mと、合計2500mの大滑降の魅力に私はたった1回で捕らわれてしまったようである。ある意味、単純な2500mの登りと滑降だけのコースよりは厳しいものがあるが、それ以上に今年はまだ大量の雪が残っているだけ、よけいに胸が高鳴るようであった。

 今日はGWの真っ直中だけあって祓川にきてみると下の第2駐車場まで車がいっぱいの様子だった。例年にない大雪のため駐車場の回りも道路の側も高い雪壁になっていて、その上にテントを張ってキャンプをしている人も多く見られた。しかし、自宅の出発が遅くなり、また途中で仮眠までしてしまい、今日の歩き出しは7時30分と、昨年の5時出発から比べれば2時間30分も遅くなってしまった。高く昇ってしまった日差しを浴び、鳥海山は輝くほどに白く、その斜面にはすでに多くの登山者やスキーヤーが張り付いていた。私はなるべく左よりの東側にコースをとり、ほぼ一直線に山頂へ向かった。日差しは強くても朝のうちはまだまだ気温が低い。スキーで登るたびにオブラートのような薄い氷の膜が風に飛ばされて行く。見上げていると早くもスキーヤーが雪を蹴散らしながら降ってくるものもいた。七ツ釜避難小屋が遠く右手に見える頃から風が強まり、そこからはアウターを着た。少し登っては立ち止まりながら高度を上げて行く。それでもスリップをすることもなく快適なシール登高が続き、予定どおり3時間弱で七高山山頂に到着した。

 山頂は色とりどりのウェアを着た多くの登山者達で大賑わいだった。ほとんどの人はこの山頂からは駐車場に下るだけなので、早速缶ビールをで乾杯をし、ガスコンロでラーメンなどを作っているグループも多くいる。山頂からの写真を撮っていると千蛇谷を登ってくる人、新山の斜面に張り付いている人も多くいて、鳥海山はいつものメジャーな山らしい、華やかさに包まれているようだった。私は軽く行動食を腹に入れただけで、早々にシールをはがして滑降に移ることにした。今日は展望も良いのでのんびりとしたいところだが、まだ今日の行程の半分も終わっていないのである。山頂からは大きく90度ほど右手に回り込んで行くと広大な東斜面が目の前に現れた。信じられないほどの広大な鳥海山の東斜面には、いつもながら感激すると同時に圧倒される思いがする。また誰ひとり見当たらないというのもいい。この広大な東斜面が独り占めなのだから私は身震いするほどの感動を覚えるようだった。

 早速ターンを開始して下り始める。昨年よりも時期が早いと言うこともあり、百宅コースはまだ大量の残雪に覆われているので、どこを滑っても自由自在という感じである。この自然が作り出してくれた大ゲレンデは、当然ながらまだ手つかずの状態だと思ったら、早くも一人のシュプールが唐獅子小屋へと続いているのを見つけた。無人の唐獅子小屋前を通過し、少し下ったところで単独の山スキーヤーがシールで登ってくるところに出会い、挨拶を交わすとどうやら先ほどのシュプールの持ち主のようであった。ずいぶんと早いですねえと声をかけたら、大清水山荘までは降りずに1200m付近の平坦地付近から引き返してきたとのこと。また百宅コースを今日降りていった人は他にはいないということを聞いた。

 この頃になると風はすっかり治まり、単独行の人が登り返している姿はかなり暑そうに見えた。私はここでアウターを脱ぎ、なおもあっちこっちとコースを自在に滑って行く。するとこんどは左手下方、猿倉尾根の方角からスノーモービルの団体がきて、こちらの尾根を横切ってゆくのが見えた。スノーモービルは4台連なってゆき、大清水山荘のほうへと下っていった。昨日の湯殿山でもそうだったが、せっかくの静かな百宅コースに、突然不純物が紛れ込んだような違和感をおぼえて、私は急に憂鬱な気分になってしまった。

 昨年は下るに従ってブッシュが少し出てきたりしたのだが、今年は邪魔になるものがほとんどなく、どんどんと尾根を下っていると大清水山荘が急に左下に見えてきて焦った。危うく小屋を通り過ぎてしまいそうだったのだ。昨年は七高山山頂からちょうど1時間で下ってきたところも、今日はまだ40分しか経っていなかった。それほど今日は快適に滑り降りてきたということかも知れなかった。

 小屋まで下りて行くと、大清水園地の小屋前では先ほど見かけたスノーモービルが4台と、6〜7人の人達が休んでいて、その人達は不思議なものを見るような目つきで私の姿をみている。今日は小屋へ泊まりなのかと聞かれて、これからまた鳥海山に登るのだといったらさらに驚いていた。まもなくして、そのスノーモービルが4台とも去ってしまうと、ようやく本来の静かな大清水園地が戻った。まわりはまだブナの芽吹きには早く、小鳥達のさえずりさえ聞こえないが、もう2週間もすれば美しいブナの深緑に包まれることだろう。樹間を渡ってくる風はもう春特有の、甘くて柔らかいものを感じさせた。

 休憩は30分弱で切り上げシールを貼り直して、再び鳥海山へとシール登高を開始した。昨年は不覚にも膝を痛めてしまい、ここからの登りは地獄のようなものだったことを思い出したが、今日は特に問題はないようである。体は疲れてはいたが、行程の半分を終えて、あとは時間さえかければ山頂へ着くのだという充実感が、体を後押ししてくれるようであった。百宅コースはその後も下ってくる人はなく、爽やかな風を肌で感じながらのシール登高は心地よいものだった。

 それでも1400mの登り返しは長く、いくら登っても鳥海山は近づく様子がなかった。あまりに広大な斜面のため感覚が麻痺しているようであった。いくらでも距離は短い方がいいだろうと、途中からはなるべく最短コースを取ることにして、滑降してくるときに通過した唐獅子小屋は通らずに、真っ直ぐ七高山へと向かうコース取りに変えてみる。そして一段高みの尾根に上がると急に風が強まった。まだ2時を過ぎたばかりだというのに、吹き下ろしの西風は異常とさえ思えるほどの冷たさだった。雪面はこの冷たい風に晒されて早くも表面が氷化してきていた。山頂直下までくると急にシールが効かなくなり、トラバースしながら電光形に登ろうとすると僅かなエッジのために滑るのか、いとも簡単にスリップした。それで直登しようとするとそれでもちょっとした具合でスリップしてしまい、何回か後ずさりしながら転けてしまう始末。斜度は朝方の登りよりも緩やかにもかかわらずである。雪面は完全に氷化していてシールがすでに効かなくなっていた。

 そんなことを繰り返しているうちに私は疲れが溜まってゆくようであった。しょうがないのでシール登高を断念し、途中からスキーを担ぎ、山頂へは坪足で登った。再び七高山の山頂に着いたのは16時20分。すでに大清水山荘を発ってから5時間近い時間がかかっていた。そして小屋を出発してからほとんど食糧を口に入れていないのに今頃になって気付いた。疲れの半分はシャリバテのためのようであった。山頂で再び鳥海山の夕景をカメラに納めると、水分と糖分を十分に補給した。山頂にはもう誰も残ってはいなかったし、千蛇谷にも外輪山にも人影はなかった。陽はすでに大きく西に傾いていた。

 最後の滑降に移ると、多くのスキーヤーや登山者の踏跡で荒れに荒れた斜面は、そのままの状態で堅く凍っていて、これ以上はないと思われるほどの悪雪となっていた。凍っている分、スキーは走りすぎるほど走りすぎて、途中で何回も転ぶ始末だった。しかし陽の当たる斜面まで降りてくるとなんとかターンも可能となる。七ツ釜避難小屋からは少し堅めのザラメ雪となり、今までの鬱憤が晴れて行くようであった。一気に祓川山荘前まで滑って行き、駐車場に戻ると、日帰りの人達はすでに下山したようだった。残っていた人もまだいたのだが、その人達はみなここでキャンプをしながら明日の登りに備えて、夕食の準備や宴会を始めている人達だった。


今回のルート


斜面には多くの登山者が張り付いている


賑わう七高山山頂


東斜面と月山


まだ雪に覆われている大清水園地(スノーモービル4台が休んでいた)


暮れ行く七高山


残照(山頂直下付近)


残照に染まる祓川ヒュッテと鳥海山


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