山 行 記 録

【平成18年4月1日(土)/蔵王連峰 坊平〜刈田岳〜澄川スキー場〜刈田岳〜坊平



刈田岳山頂でようやく晴れ渡る(10時10分)


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】蔵王連峰
【山名と標高】刈田岳1,758m
【天候】曇り後晴れ
【温泉】南陽ハイジアパーク(700円割引券)
【行程と参考コースタイム】
蔵王ライザスキー場(第2リフト終点)9:00〜刈田岳10:10-50〜11:30澄川スキー場11:40=(リフト利用)=リフトトップ12:10〜刈田岳13:30-40〜駐車場14:10
  
【概要】
 今回は蔵王坊平高原のライザスキー場から刈田岳に登り、澄川スキー場までスキー滑走し、そしてまた刈田岳まで登り返して蔵王坊平高原に戻るというコース。何とも単純な発想だろうという気もしないではないが、今まで何度も考えてはいたものの、この行程を実際に往復したことはなかった。ひとつには蔵王の刈田岳も熊野岳も、いくら下界が快晴であっても、冬場にはめったに晴れることがないという蔵王特有の気象条件がある。悪天候や強風の中をついて、やっとの思いで刈田岳にたどり着いたとき、澄川へと下ってみようかという考えをなかなか実行に移せるものではなかった。視界がない場合には元のコースを戻るだけでも容易ではなくなるからだ。また晴天時には刈田岳や熊野岳へののんびりとした馬ノ背散策や、山頂からの展望を楽しんだりしただけで結構満足してしまい、これからさらに数時間をかけて澄川スキー場に滑り降りて、登り返すといったことは普通は考えないものである。

 今日は昨日まで3日間も続いた冬型が去り、移動性高気圧に覆われる予報が出ていた。いろんなコースが思い浮かんだが、いつしか忘れそうになっていた坊平〜澄川往復コースをふと思いだし、今回実行してみることにした。相変わらず体調がいまひとつなので、今日は早立ちすることにして、朝一番のリフトへ乗るために早めに自宅を出た。リフトを使わないで下から登る方法もないではなかったが、刈田岳まではそれほどではなくとも、さらに澄川まで下って登り返すまでの元気はなく、無理はせずにリフトの機動力を利用するてっとり早い方法とした。

 国道13号を走っていると、予報も良く下界も快晴だったのだが、ライザスキー場に着いてみると、付近一帯は風とともに濃いガスに包まれていて、スキー場には車はまだ一台もなかった。まだ時間が早いということもあるのだが、リフト稼働時間の8時30分近くになって1、2台のマイカーがようやくやってくる程度であった。こんな天候のせいもあって、第2リフトを利用しようとするスキーヤーは一人も見当たらなかった。計画書をリフト乗り場で記入し届け出ると、パトロールの人は心配になったのだろう。下山したら必ず係員に報告をするようにと声をかけられた。結局ガスの中を私だけが第2リフトに乗り込んでいった。

 リフトトップからのシール登高は、このところの3日3晩、雪が降り続いたおかげで結構なラッセルから始まった。蔵王名物の樹氷もかなり大きく発達しているのがガスの中でもうっすらとわかり、まるで1月か2月の厳冬期を思わせるようであった。しかし、登って行くに連れてすさまじい強風のためだろうか。ラッセルはいつのまにか必要がなくなり、シュカブラとクラストの荒涼とした雪原となり、ほとんどアイスバーンといってもいいようなほどの堅い雪面が続いた。それでも斜度がないので順調に馬ノ背へと進んで行く。初めこそホワイトアウトだったものの、リフト下を登っていると、ときどき雲が切れて真っ青な青空が数秒だけ顔を覗かせたりした。視界は相変わらずだったが、天候は予報どおり快復基調なのがわかって、なんとなく期待感に溢れてくる。

 まもなく馬ノ背に立つ凍り付いた白い標柱が現れ、その標柱に導かれるようにして登って行くと刈田神社に到着した。休まずにきたためか、歩き始めてからまだ1時間10分しかたっていない。刈田神社もその前にある大きな鳥居も今は巨大なエビのシッポが張り付いていた。ちょうどこの瞬間をを待っていたかのように雲が大きく流れ始め、上空には青空が広がる時間が少しずつ増し始める。それでも強風とガスの中に立っている訳にも行かず、証拠写真だけを撮り、とりあえず避難小屋へと逃げ込むことにした。すると意外にも山スキーが1台入口付近にあって、小屋の中にはいると先客が一人休んでいた。その人は澄川から登ってきた人で、よくよく聞いてみるとリフト稼働時間を待たずに登り出してきたというのだから驚いた。そしてこれからのコースを尋ねると、熊野岳から丸山沢を下るのだという。はて?それはいつかどこかで読んだ記録だなあ、などといったことがふっと頭をよぎり、念のために名前を伺ったら、私の知人である宮城の坂野さんと、常に行動をともにしているパートナーの荒井さんであった。もちろん会うのは初めてである。その後もいろんな話を聞いたりしたが、インターネットのおかげでこうして見知らぬ人とも話が急に弾み出すのだから、山の世界も以前とはかなり変わりつつあるのをあらためて再認識するばかりだった。

 カップラーメンで早めの昼食を終えると早速滑降の準備を始める。荒井さんもパッキングなどを終えると一足早く熊野岳をめざして刈田岳へと登っていった。私は強風とガスの中、中央コースの標柱をたよりに恐る恐る高度を下げてゆく。するとまもなく視界が晴れだしてきて、下界まですっきりと見渡せるほどになった。コースを少しずつ右手に振りながら刈田岳の東斜面に出ると、最初こそアイスバーンだったものの、すぐに新雪があらわれて、逆にびっくりして転倒をしてしまう始末だった。そこからはいくらか雪質が重いものの、快適なパウダー滑走となり、ルンルン気分で下っていると、左手には中央コースの尾根伝いに登っているいくつものグループが見えた。

 澄川スキー場のリフトトップまで快適に下ると、急に大勢の人達が現れてびっくりする。ほとんどが若いスノーボーダーばかりで、スキーヤーは数えるほどしか見当たらない。私はいつものようにリフト下の深雪をめざしていったが、すでに多くのスノーボーダー達によって斜面は荒れ放題になっていてがっかりした。しょうがないのでゲレンデに戻ってスピードに乗りながら一気にスキー場へと降りていった。ゲレンデには眩しいほどの強い日差しが降り注ぎ、澄川スキー場一帯はほとんど春スキーといった雰囲気であった。

 休みも取らずに山頂から下ってきただけに両足はかなり疲れていた。スキー場のロッジで登山届けを再度記入し登山券を購入する。そして行動食を少し腹にいれるとようやく気分が落ちついてくる。ここからは3本のリフトを乗り継いでゆく間に足の疲れを癒すことにして、10分ほどの休憩を終えると草々にリフト乗り場へと向かった。いつもながらこのスキー場は若者のスノーボーダー達で溢れており、私はそんな若者達をリフトに乗りながらぼんやりと眺めていた。

 リフトトップからは再びシールを貼り、刈田岳をめざしてシール登高の再開となる。多くのトレースがあるので何も考えずに、その跡をたどって行くばかであるが、この頃になると上空には快晴の空が広がり、天候の心配はひとつもなくなっていた。いつものように中央コースの尾根に沿って登って行くと、不思議と下ってくる人は見当たらず、すれ違ったのは山スキーとアイゼンを装着した単独行それぞれ1名だけであった。もしかしたら山頂からはみんなパラダイスコースを下ったのかも知れなかった。

 まもなく前方にそびえ立つ刈田岳が視界に飛び込んでくると、山頂には樹氷鑑賞用の雪上車が1台停まっているのが見えた。そして6、7名ほどのスノーボーダー達が刈田岳の左の稜線に沿ってゆっくりと下り始めてゆく。みんなはこの広い東斜面のパウダーを狙うつもりなのだろう。私はもう一足早くこの斜面を楽しんだので別に悔しさもなかったのだが、この広大な深雪斜面を再び眺めていると、もう一度山頂から滑りたい誘惑に駆られてしょうがなかった。しかし、山頂への最後の登りは斜度もあってかなりきついところで、足の疲労はもう極限状態であった。それを考えるともう一度滑走してみようか、などといった思いはすぐに消え去った。

 再び登り切った山頂にはすでに誰もいなくなっていた。澄川からのスキーヤーやスノーボーダー達はかなり多かったのに、山形からはほとんど登山者が見当たらない。またトレースも数えるほどしか残ってなかった。やはり山形側は朝からの視界の悪さなどがあってこの山頂ををめざした人はあまりいなかったのだろう。山頂直下のレストハウスで風を避けながらシールを外し、ポカリを一本一気に飲み干す。往路もそうだったが、澄川からの登り返しもほとんど休まなかったので喉がカラカラだったのだ。この冷え切った一本のポカリのおかげで死んでいた細胞が再び生き返ったような気分がした。

 下り始めるとクラストした斜面を一気に滑り、急な斜面は横滑りやトラバースで高度を下げてゆく。刈田岳の宮城側は東斜面のために雪が吹き溜まるのだろうが、山形側は強い西風に雪が飛ばされて、スキーの滑走はあまり楽しめないのが少し残念なところだ。ライザスキー場のリフトトップ近くにきて、ようやく少しだけパウダーを味わったが、宮城側の東斜面に比較すれば、その快適さは比べるべくもなかった。

 こうしてみると、この坊平からの澄川往復コースは体調や天候さえよければという条件さえあえば、山スキーとしてみると俄然、魅力的なコースに思えてくるのだった。約束どおり、第2リフト乗り場でパトロールの人達に無事下山したことを告げて、後は広々としたゲレンデを一気に滑り降りてゆく。日差しはますます強くなっており、ゲレンデには小さな子供を連れたファミリーも多く、スキーシーズンの最後を楽しんでいる様子だった。駐車場が眼下に見えてくると、春山のような初めての蔵王連峰横断コースの一日が終了するのはまもなくであった。


今回の行程(赤線は往路、青線は復路)



刈田岳山頂の東斜面(13時頃)
滑り出しを待つスノーボーダー達


刈田岳山頂からエビのシッポと南蔵王連峰(13時30分)


刈田岳山頂からのお釜(13時30分)


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