山 行 記 録

【平成18年3月5日(日)/吾妻連峰 五色温泉〜高倉山】



高倉山山頂
背景は吾妻連峰縦走路(右から東大巓、昭元山、兵子などが続く)


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】 高倉山 1,461
【天候】晴れ
【行程と参考コースタイム】
五色温泉9:00〜1325m12:40〜高倉山13:30-14:00〜五色温泉15:30
  
【概要】
 山形県の五色温泉は吾妻連峰の北麓にあって、奥羽本線の板谷駅で下車してからさらに何キロも山奥までゆかねばならず、まさに秘湯中の秘湯といった趣きのある場所にある温泉である。しかし、五色温泉スキー場が明治末期に日本最初の国設スキー場として設けられたということなどを、いったいどれだけの人が知っているだろうか。以前には高湯温泉から家形山を経て、五色温泉へ下る山スキーコースが結構賑わったらしいのだが、交通の便やルートの難しさを考えると、今ではほとんど訪れる人も稀なツアーコースになっているものと思われる。

 今回は偵察の意味も兼ねて逆コースとして、五色温泉から家形山をめざして見ることにした。しかし、距離があるだけにどこまでゆけるかわからない。たぶん家形山までは無理だろうと思いながらも五色温泉に向かった。今日の天候は文句のつけようがないほどの快晴に恵まれて、日焼け止めクリームが必要なほどの強い日差しが頭上から降り注いでいた。五色温泉スキー場は錆付いたリフトの鉄塔と古いワイヤー、そして静かな無人のゲレンデだけが残っている。もちろん人影もなく、奥の温泉宿の方から人の話し声がわずかに聞こえる程度であった。

 シールを貼って早速ゲレンデを登って行き、右手の尾根に乗る。最近、降雪が少しあったはずだがそれはわずかで、堅い雪面に10cm程度の新雪が積もっている。この状態というのはシール登高にとって少し嫌らしくもあって、斜度が少し増しただけで表面の新雪が流れてしまい、下層のアイスバーンがむき出しとなり何度もスリップした。勾配はそれほどないのだが、今日はこのアイスバーンのために容易に登ることができず、シールでは無理なところはスキーを担いでツボ足に切り替え、適当なところからまたシール登行を再開したりした。

 高度が上がるに従って振り返ると栗子スキー場付近がすっきりと見えるようになり、背後に聳える白い山脈は蔵王連峰のようであった。その左手には月山、そして朝日連峰と続いている。右側は大きな谷を挟んでここと同じ様な尾根が続いていたが、どうやら峠駅から栂森へと続く尾根のようであった。ちょうど1年前、猛吹雪の中を所属する山岳会の仲間達と栂森から大沢駅に下ったことを思い出す尾根でもある。前方の1077mピークを右に卷いてゆくとコルに出て、この先には痩せ尾根が続いていた。正面奥には家形山、一切経山と連なる吾妻連峰の縦走路が見えていたが、そこまでははるかに遠く、とても日帰りでは行けそうもないなと、半分以上今日の家形山はあきらめていた。ヤセ尾根といっても気温の上昇と共に、積雪が少し柔らかくなり滑ってくる分にはそれほど心配はなさそうである。しかし、小さなアップダウンがいくつも続き、今日の目的に急遽切り替えたばかりの高倉山はまだまだ見えてくることはなかった。登っていると途中で爆音が下の方から聞こえてきて驚かされた。どうやら板谷方面から何台ものスノーモービルの集団が雪原を縦横に走り回っているようで、コル付近に10数台が止まっているのが見えた。この尾根までは上がってくる様子はなかったが、せっかく静かな山歩きを楽しんでいる身にとってはいささか興醒めする思いであった。

 尾根はいくら歩いても先が見えてこなかった。体力が衰えているのかもしれなかったが、意外とこの尾根は距離があって、そして途中からはやはりシール登行も困難になり、再びスキーをザックにくくりつけてツボ足で登らなければならなかった。この尾根を登っていると、数年前のスキー山行である飯豊連峰の栂峰の景観とよく似ていることに気付いた。ヤセ尾根伝いに次々とピークをめざすところなどそっくりであった。ただし、栂峰は飯豊連峰を眺めながらだが、当然こちらは吾妻連峰の真っ直中なので周りの眺望は全然違うものだった。

 吾妻連峰や朝日連峰の山並みは、常とは視点が違うので見る風景が新鮮であった。いくつもの山並みが陰影を重ねながら吾妻の山並みを形成しているかのようである。それに比べると蔵王連峰は真っ白い山容が空に浮かんでいるだけで、陰影も何もない、ただべたっとした絵の具を塗りたくったような山が宙に浮かんでいた。それだけ蔵王での積雪の多さを感じさせた。

 1325m峰を超えるといよいよ右手の栂森が身近になってくる。時々水を飲んだりしたものの、時計をみればとうに正午は過ぎていた。いよいよ家形山が近くになると積雪が急に増えて行く。なるべく堅い雪面を選んで登っていたが、もうこの辺りでは膝上までの積雪となっていた。よほどスキーに履き替えようかと思ったものの、高倉山の山頂はもう目前であった。高倉山には4時間30分かかって到着した。予想外に時間がかかったようでもあり、天候を考えると短かったような不思議な気分だ。もうこの先にはピークがなく、急峻な懸崖となっているので先には勧めない。家形山に向かうにはいったん大きく戻ってから平坦地まで降りなくてはならず、簡単に進めそうもないようであった。

 高倉山山頂からは東大巓からの主稜線や家形山、一切経山が目前であった。天候が良いだけに、360度の展望が楽しめる素晴らしい吾妻連峰の展望台であった。地形図を見るとこの高倉山は五色温泉から家形山までのちょうど中間地点のようである。家形山まではこの調子で行けばまだ5時間近くもかかることになり、やはりこのコースは家形山からのスキーを使った下山コースとして利用するのが無難なようである。

 山頂で一休みをしていても誰も来る様子がなく、登山者の姿はどこにもなかった。この好天では大沢下りを楽しんでいる人も多いことだろうが、今回のコースは栂峰の陰になっているのでスキーツアーをしている人達の姿は見えなかった。天候が崩れる様子は全くなく、しばし、疲れた足を休めながら軽い昼食に時間を費やした。しかし、いくら日差しは強いとはいえ、気温は低く、濡れたバンダナや手袋などは容易には乾きそうもなかった。

 30分ほどの休憩を終えてシールを取り外すと、待ちに待った滑降の開始となる。誰も見物客などいないので、慎重にターンを繰り返しながら狭い尾根を下って行く。ヤセ尾根の右側は大きく雪庇が張り出しているものの、それほど急峻と言うほどではなく、結構大胆に下って行く。登ることさえ困難なひどい尾根部分は横滑り、キックターンで凌いだが、スキーはよく走ってくれて、一気に1077m峰のコルまで着いてしまった。ここからは右手を卷いても良さそうだったが、歩く距離が長そうなので、結局登ってきたコースを忠実にもどることにした。樹林帯をトラバース気味に横断すると、偶然にも登り始めたゲレンデのトップに飛びだした。ゲレンデには朝、自分が登ってきたトレースが残っているだけで他にはやはり誰も入山した人はいないようであった。私は誰もいないこの素敵な五色温泉スキー場を、ゆったりとしたターン孤を描きながら、駐車地点までのんびりと降りていった。



登るにも困難そうな、こんなヤセ尾根もある


右手には栂森が近い


いよいよ高倉山が目前!


高倉山付近から栗子の山並み
右奥は蔵王連峰


最後に五指温泉スキー場を下る


今回のコース(縮尺約5万分の1)※登りのみを表示


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