山 行 記 録

【平成18年2月12日(日)/吾妻スキー場〜慶応山荘〜大根森



大根森から家形山を望む
(家形山は前方のピークの後方で風雪のため見えない)


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】家形山 1,877m(※大根森まで)
【天候】風雪
【行程と参考コースタイム】
吾妻スキー場第3リフト終点(1320m)9:15〜慶応山荘分岐11:15〜大根森(休憩)13:00-13:30〜慶応山荘分岐13:40〜第3リフト終点付近(休憩)14:10-14:30〜吾妻スキー場駐車場14:50

【概要】
山形県は朝から風雪が厳しかった。国道13号線の栗子峠では猛吹雪のためほとんど見えないので、前の車のテールランプをたよりになんとか後ろをのろのろとついていった。トンネルをいくつか通り抜けて飯坂町に入るとようやく風雪は和らいだものの、吾妻連峰は雲に覆われていて稜線付近は少しも見えなかった。吾妻スキー場にはいつもより早めに自宅を出たおかげで8時半頃着いた。天候が悪いせいもあるのだろうが、この時間ではまだそんなにスキー客は多くない。このスキー場は今年限りで営業が廃止されるらしいのだが、こんな天候にもかかわらず、家族連れなどが少しいるようだった。バニーハットの窓口で登山届けを記入し、リフト券3枚を購入しながら今日の登山者を尋ねると、一回券を買った人はまだいないので、たぶん誰も登っている人はいないはずだという。それほど今日は朝からスキー場でも風雪は激しかった。リフトに乗っている間も体にたたきつけるような風と雪に顔も上げていられないほどで、風を背にして横を向いて寒さに耐える。この厳しい風雪のため、第3リフトを利用するスキーヤーはほとんど見当たらず、みんな第2リフトから滑り降りていった。

例によって第3リフト終点でシールを貼り、さっそく五色沼へのツアーコースに入って行く。リフト小屋付近は風が弱いのでなんとかシールを貼り終えたものの、今日の寒気と風の強さはハンパではない。常にこの付近は風の通り道となっているようで、風雪のため視界はほとんどなかった。ただ、このコースはすぐに樹林帯となり、風は穏やかになるはずなので、少々の風雪はそんなに心配はしてはいなかった。樹林帯に入れば昨日登ったであろう、吾妻小屋や慶応山荘への登山者達のトレースが、もしかすると利用できるかも知れないと思っていたのだが、それは甘い考えだった。トレースは強風と昨日からの降雪で全く消えていて、踏跡はどこを探してもみあたらなかった。ところどころにトレースらしきものはあるものの、ほとんどバージンスノーが続いているだけであった。今日は先日痛めた膝の不安もあって、また単独ラッセルなのかと幾分がっかりした気分と、一方では久しぶりに運動不足を解消できそうだという気持ちが半々であった。ラッセルの初めはスキー靴が埋まるぐらいだったが、少しずつ雪は深さを増して膝付近までスキーは沈んだ。

1時間ほどすると前方から3名の山スキーヤーが下ってきたので、話を聞いてみる。昨日は家形ヒュッテをめざしたのだが、深雪と悪天候で小屋を見つけられずに、その近辺で幕営だったとのこと。そして自分たちが昨日つけたばかりのラッセル跡もほとんど消えていたため、今日は下りといってもとても滑りにはならず、3人ともシールを貼ったままで下山してきたようであった。私にとっては幸いといってよいのか、当然ながらその3人組のトレースを利用することができるので、そこからは予想外に楽なシール登行となった。この分であれば一時はあきらめかけていた五色沼までも行けるだろうと喜んだ。

樹林帯の中では風が弱まるのが普通だったが、今日はその樹林さえも突き抜けてくるような強風が終始体を煽った。久しぶりに厳しい寒気の中での単独のラッセルは、冬山の洗礼を受けているようなものだった。サラリーマンにとってやっと巡ってきた週末なのに、このところの悪天候のサイクルには閉口するばかりだったが、一方では久しぶりの筋トレが妙にうれしくて、それほど落胆した気分ではない。最近の運動不足にはちょうど良い体力作りと前向きに考えることができたし、また自分を少々痛めつけたいような、妙な気持ちがどこかにあって、今日の悪天候もそれほど嫌な気分という感じはなかった。

慶応山荘分岐点には約2時間で着いた。というよりも2時間もかかったといったほうがよいか。好天でトレースでもあれば五色沼まで到着している時間である。一呼吸ついていると後方から山スキーの人が一人やってくるのが見えた。この人は地元福島の方で、天候も悪いので慶応山荘までの往復だという。ここからは先ほど下っていった3人組のトレースは不思議にも慶応山荘に向かっているので、私は通常のルートをとることにする。当然ながらトレースはなく、再び単独の深いラッセルとなった。その上、ここからは樹林が疎らとなり、それに伴って風雪が激しさを増してくるところである。勾配も徐々に増していったが、それ以上に不安になるのは視界の悪さであった。何度も歩いているコースだけに、少々の悪天候でもゆけるだろうと思ってはいたのだが、視界がないというのはそれだけで不安が募った。今日はたまたま調子がいいのか、なんとかGPSが動いてくれているので、その計器と地形図だけが頼りである。こんな悪天時にはたったひとつのGPSのポイントが、今日ほど頼もしく思えることはなかった。前回のように液晶がうまく動作しなかったら、今回はたぶん慶応山荘分岐点で確実に引き返していただろう。

黙々と登っていると先ほど下っていった家形ヒュッテ3人組のものらしいトレースを横切った。彼らは家形ヒュッテコースから直接慶応山荘に降りていったようであった。下っていったばかりであるはずのその3人組のトレースは、早くも今日の強い風と積雪に再び埋まり始めていた。それでも風が少し止むときがあり、その瞬間を見計らって現在地を確認する。すると前方のピークが大根森だとわかり、コースに間違いはなさそうだと知って一安心するのである。そしてつかの間、写真を撮影したりすることができた。そのピークをトラバース気味に卷いて行く途中で時々あらわれる赤布も、不安感をぬぐい去ってくれるようであった。

まもなく家形山も近いというところまで登り詰めるとようやく大根森のピークに到着した。気温は氷点下10度くらいで、この時期としてはそれ程ではないが、風が強烈なだけに体感温度は相当に低く、素手を出しているとすぐに凍傷になりそうであった。このピークではそれまでとは別世界のような強風が吹き荒れていて、岩肌、地肌がむき出しとなっている。いつもの光景といってしまえばそれまでだが、この付近の天候がいかに厳しいかが伺われるようであった。前方には家形山手前のピークがうっすらと見えたが、肝心の家形山の稜線はみえなかった。もうここまででさえも4時間近く経過している。4時間もあれば通常は吾妻小屋に到着してもよい時間帯である。今日はそれだけラッセルに時間を費やしていた。しかし、ここまで単独で登って来れたということは、心配していた膝については、もう完治したと判断しても良さそうに思えた。

家形山はもう目前であったが風雪は厳しく、また予定していた時間よりはかなりオーバーしていたため、ここを今日の山頂と決めて、家形山は断念することにした。こんな天候では五色沼さえ見えないだろうと思うと、それほど気落ちする気分はなかった。むしろこの悪天候でも、このピークに立てたという達成感に満たされた。急いで周囲の光景をカメラに納め、ピークから少し下った木立の間でツェルトを被ってつかの間の休息をする。木立の間と行っても強烈な風雪にツェルトは常に煽られ続けたが、このたった一枚の薄い布切れが、強風から身体を守ってくれるので、このまま横になって眠ってしまいたい誘惑に駆られる。それほど今日のツェルトは頼もしくあり、私はしばし安心感に包まれながら疲れ切った両足の筋肉を休めた。

小さめのカップラーメンを食べ、テルモスのお湯を飲み干すと体が少し温まった。ゴーグルなどの曇りを取り終えて、後かたづけをそそくさと済ませると、早速下山をすることにする。シールをはがせば後は下ってゆくだけである。といっても勾配があまりないので自分のトレースを忠実にたどらないといくらも滑ることはできない。部分的にトレースがなくなっているところもあったものの、まだそれほど時間は立っていないので、自分のトレースをたどる分にはスキーは何とか走ってくれた。まもなく慶応山荘分岐点と思われる所を滑って行くと、途中先ほどの山スキーヤーが登ってくるところに出会った。私のトレースが役にたっているのだと思うと嬉しいものだ。その地元氏とは軽く挨拶を交わして、一気に下って行く。

慶応山荘分岐を過ぎると急にトレースの跡やシュプールが多くなりびっくりする。こんな天候にもかかわらず、慶応山荘までは何人か山スキーの人達が登ってきたようであった。その人達が途中の林間で休んでおり、その人達を追い越してゆくと、また一人旅が続いた。大勢のトレースがあったはずなのに、早くも雪で覆い尽くされてしまい、下りにも再びラッセルが必要になっていた。第3リフトの終点まではまもなくだったが、この辺りは平坦なだけに疲れがピークに達していて、推進滑降もままならなくなっていた。このままでは足が攣りそうになったために、もう一休みしてゆこうと、途中で再びツェルトを被って小休止をとることにした。まもなくすると何人かが下って行く音がしたが、そのうちの一人が声をかけてくれた。はて?どこかで聞いたような声だと思ってツェルトから顔を出すと、なんと吾妻小屋の管理人の遠藤守雄さんであった。遠藤さんは体調が悪かったらしく、今日が今シーズン初めて山なのだというから驚いた。足慣らしを兼ねながら、今日は山仲間と一緒に慶応山荘まで往復してきたらしかった。いろいろと積もる話しもあり、そこでも長い立ち話となったが、下山してから遠藤さんの自宅に寄ってから帰宅する約束をしてその場は別れた。

20分ほどの休憩を終えて樹林帯を抜け出してみると、やはり第3リフト終点からゲレンデを滑っている人は一人も見当たらなかった。予定では第3リフト下の急斜面を滑りたかったが、そこまではトレースもなく、さらに深雪のラッセルを要するためそのコースは断念した。ゲレンデを滑るのは全く興味がなかったが、人気の少なくなったゲレンデを一気に下って行くと駐車場までは間もなくであった。結局、予報どおりとはゆかず、天候は快復するどころか、午後からはますます風雪は激しさを増していた。山の天気予報ほど宛にならない、という見本のような一日がようやく終わった。


大根森へラッセルの一人旅が続く
この付近は樹林もあるのだが、風雪は厳しい
(気温は氷点下10度くらいでそれ程低くはないが体感温度は相当に低かった)


大根森から家形ヒュッテ方面を見下ろす
たぶん、中央右側あたりだと思うのだが風雪で見えなかった


今回の行程(1/50000地形図)


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