山 行 記 録

【平成18年1月21日(土)/朝日連峰 徳網〜白太郎山】



山頂からの祝瓶山


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】朝日連峰周辺
【山名と標高】 白太郎山 1,002,8m
【天候】晴れ
【行程と参考コースタイム】
駐車地点(325m)9:00〜765mピーク11:27〜白太郎山12:40-13:20〜765m地点付近通過13:45〜駐車地点14:20
  
【概要】
今日は南岸低気圧の影響で太平洋側では大雪が予想されている。こんな時には逆に日本海側が割合に晴れやすいことから、よく蔵王にでかけたりしているのだが、これもまた裏切られることも多く、まあいつもの悩ましい天候ではある。今回はもっと西に向かうことにして、以前から気になっていた北小国の白太郎山に行ってみることにした。この白太郎山は昭文社発行のエアリアマップ「飯豊山」の著者である井上邦彦氏が開設している「飯豊・朝日連峰の登山者情報」のサイトから知り、さらに、昨年の1月、八甲田山に出かけたときには、偶然出会った新潟の方からも「あの山は山スキー向きの山だから是非にでも」といった趣旨のことを大いに勧められてもいた。

白太郎山は昨年の秋、カミさんと登った徳網山と、朝日連峰南端の秀峰である祝瓶山のちょうど中間付近に位置しており、荒川の左岸に聳える山である。朝日連峰とはいっても祝瓶山からなんとか尾根がつながっている程度で、どちらかというと朝日連峰周辺の山ということになるだろうか。この山には夏道はないので、雪のある今の時期にしか登れない。徳網山と比較すると標高は120mほど高く、1000mをちょっと超える。登り口で325mほどだから標高差は約700mで、夏であれば2時間程度の山だろうが、当然ながら今年の深雪では時間がちょっと読めないところがある。今日は他に誰も見あたらないので、また単独のラッセルとなりそうであったが、日差しが朝から降り注ぎ、心の底からみなぎるような高揚感があった。

北小国の最終集落である徳網地区につくと、ちょうど小国山岳会の関氏が玄関先に出ており、今日の目的を説明し、駐車の場所などについて教えていただいた。駐車については、県道の除雪がきれいになされているので、片隅にでも止めればよいだろうとのことだったが、道路の両側はスコップでもなければ簡単には登れないほどの高い雪壁になっていた。関氏の話では、小国山岳会の井上邦彦氏もちょうど今まできていたらしく、私は気付かなかったが、途中ですれ違っていたようである。井上さんとは久しく会っていなかったので、できれば是非お目にかかりたかったのだが、これもやはり運がないというしかなく残念であった。道路からは直接上がれないので、隣の家の玄関先から登らせてもらうことにした。雪上に上がるとその家の飼い犬から盛んに吠えられて、柴犬らしいその吠え声に送り出されるようにしてシール登高が始まった。

平坦な雪原に出て振り返ると、背後には真っ白い徳網山が聳え立っていた。徳網山は秋に登ったときとは全く別の山のようで、その姿には圧倒されるほどの迫力と神々しさがあった。鋭いピークを抱く徳網山の山頂は、まるでミニ祝瓶山かミニマッターホルンのようでもある。まもなく尾根の急坂に取り付くと、そこからは電光形に登ってゆく。ラッセルとはいってもスキー靴が埋まる程度で、急斜面でも膝までぐらいであって、先日の吾妻連峰からみればはるかに登りやすいといえた。あの若女平のツアー直後から、好天や雨天が続いたりして雪が適度に締まったためだろう。登るに従って白い徳網山の全体像が見え始め、関氏のペンションのような自宅が小さくなってゆく。朝日に輝く雪山を背にして、雪原にひっそりと小屋の見えるその光景は、まるでメルヘンの世界を思わせた。

まもなく杉林を抜けると、ミズナラやブナの混じる樹林帯の尾根歩きになる。樹林といっても疎林帯で、下りの滑降が今から楽しみなところだった。付近には兎の踏跡があるだけで森閑とした雪原には物音ひとつ聞こえない。背中からは汗が流れ始めたためにアウターを途中で脱いだが、予報によれば昼前後から置賜地方は下り坂に向かうらしく、雪が降り出す予報がでていることもあって、私は先を急いだ。

疎林帯には手つかずのバージンスノーがどこまでも続いていた。徳網山が木立に隠れるようになると、今度はそれに反比例するかのように五味沢の集落や飯豊連峰がよく見えるようになった。尾根は一部、急斜面もあるものの、適度な斜面は割合に登りやすく、むしろ楽しいシール登高といった感じである。先日の若女平でのラッセルの苦労は、まるでこの日のための筋トレのような気がしてくるようでもあった。尾根ははっきりしていて、今日のような晴天の時には、地形図もなにも必要がなさそうなものではあったが、先日から不具合気味のGPSだけはザックの雨蓋に忍ばせていた。最悪でも軌跡だけでも取れればと思い、また単独行の保険代わりのようなものだが、ときどき確認してみると今日は無事に動作しているようであった。

地形図にある766m峰は今日の行程のちょうど中間地点であった。もう2時間半も登り続けている。しかし、高度差をみると残りは300mもないと思うともう一息という気分にもなり、なんとなくホッとするところだ。これも今年の大雪のためなのだろうが、766m峰はあまり特徴のあるピークにはみえなかった。左手前方には樹林の間から白太郎山らしい山頂付近がチラチラと見えている。無雪期ならば三角点もある、もっとはっきりしたピークなのだろうが、それでもこの付近から少しずつ左手に折れながら下ってゆくのでコースは間違いはなさそうであった。尾根は徐々にやせ気味になり、傾斜も少しずつ増して東側には雪庇が大きく張り出してくるところだ。特に危険な感じというほどではないが、単独ということもあるので安全を最優先にして、なるべく樹林の近くを歩くようにした。登るに従って立木もだんだんと少なくなってゆく。辺り一帯のブナ林にはまばゆいばかりの日差しが降り注ぎ、霧氷に覆われたブナの小枝は、まるで宝石のように煌めいている。しかし、この頃になると飯豊連峰には薄雲が広がり始めていて、稜線と空の区別がつかなくなっていた。急に天候の悪化はなさそうだったが、好天のうちに周囲の写真だけは残しておこうと、手当たり次第にシャッターを切った。やがて丸みをおびた山頂が近づくと、立木はほとんどなくなってゆき、まもなく白太郎山の山頂に到着した。登り始めてから3時間40分。意外と時間がかかったような、それでいて単独のラッセルを考えると、短かったような妙な感じであった。

白太郎山の山頂からは、まず最初に朝日連峰が目に飛び込んできた。正面の雲に隠れているピークは祝瓶山だろう。いつも登っている尾根がはっきりとわかった。この祝瓶山を基点にすると、ここから見える稜線や山々がはっきりしてくるようであった。残念ながら大朝日岳の稜線は雲に隠れて見えない。しかし、正面に白く輝く山並みは西朝日岳から袖朝日岳への稜線らしく、その袖朝日岳からは桧岩屋山、柴倉山へと長い尾根がこちらに向かって伸びていた。白太郎山の山頂の東側は大きく雪庇が張り出しているのであまり端までは進めないのが残念だが、この初めて見る光景を目前にして、今までの登りの疲れが吹っ飛ぶようであった。ここでもまた手当たり次第に写真を撮り続けた。

好天とはいえさすがに山頂はかなり強い風が吹いていた。そしてその冷たい風と一緒に小粒の雪も全身にたたき付けてくるので、このままでは休憩する気分にはなれず、ツェルトを張って休むことにした。ツェルトを被っていつものカップラーメンを作り、ポカリを飲むと少し気分が落ちついた。すぐに天候が崩れる気配はなさそうなので、ときどき外を眺めながら、いつもと違って結構長い時間休んでいた。40分ほどであったが、これぐらい休むとかなり足の疲れもとれた気がした。しばらくしてからツェルトを抜け出してみると、再び青空が広がりだしており、到着直後よりも空全体に明るさが戻っているようであった。休憩を終えて滑降を開始する直前、また同じような風景の写真を撮る。こんな光景はそうそう撮れないだろうと思うと、バッテリーの持つ限り写しておきたかった。

白太郎山山頂からの滑降は快適そのものであった。適度な斜度と深雪はテレマークスキーにこそふさわしい感じがする斜面である。エキストリーム志向者には物足りないだろうが、疎らなブナ林を縫ってゆくと、ほどよい急斜面もあったりして、時には沢に沿って適当に下ってゆく。自分だけのシュプールが単純にうれしくて、時々立ち止まってはカメラを取り出す。徳網山に向かって下ればいいという目標がはっきりしているので、今日は自由気ままにスキーを走らせるだけである。体を自由に揺らしながらターンを続けていると、まるで、先日テレビで見たフィギュアスケートの主役になったような気分だ。そして頭の片隅からはなんとなくワルツのような音楽が聞こえてくるようでもあった。まあ、それだけ気持ちの良い滑降が続いたということだろうが、こんな感覚は初めてであった。今日のような好天でも、その後、誰も追ってきた人はいなかったらしく、尾根に戻ると自分のトレースだけが残っているだけであった。最後に杉林を巻いて右のブナ林を縫ってゆくと、関氏の住宅が眼下にようやく見えてきた。

登り口ではまた柴犬が大声で吠えながら出迎えてくれた。その吠え声を聞いて誰か家から出てくるかと思ったのだが、その気配は少しもなかった。陽はすでに大きく西に傾いており、山あいの集落では夕暮れも早いのだろう。朝、正面に輝いていた徳網山はもう半分以上雪雲に覆われていて、まだ3時前なのに早くも薄暗さが漂っていた。明日はまた新雪が降り積もることだろうと思うと、また近いうちに来なければ、そう思わずにはいられない山であった。

駐車地点に戻り後始末を終えて帰路につくと、関氏が玄関先にいたので車から降りて、無事に下ってきた報告をした。徳網山に加えてこの白太郎山も素晴らしい山だったことももちろん付け加えた。しかし、あまり宣伝はしたくはない山のようでもあり、複雑な意識が心の片隅に残った一日でもあった。

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今回のコース(縮尺1/25000)


登りの途中で徳網山を仰ぐ
まるでメルヘンの世界


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