山 行 記 録

【平成18年1月9日(月)/吾妻連峰 天元台〜若女平〜白布温泉



 若女平直下、強清水のヤセ尾根付近から見る米沢市の夜景
右の灯かりはロープウェイ湯本駅(福島、香川さん撮影)


【メンバー】単独(梵天岩から山形2名+福島2名と行動を共にする)
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】天狗岩2,004m
【天候】曇り後晴れ
【行程と参考コースタイム】
北望台(リフト終点)発12:10〜天狗岩13:30〜若女平16:50〜ヤセ尾根17:10〜白布温泉(若女平登山口)18:40〜駐車場19:10
  
【概要】
吾妻連峰は全体になだらかな山並みが多く、特に西吾妻一帯は地形的特徴に乏しいため、悪天候時には毎年のように遭難事故が絶えない山域でもある。しかし、雪崩の心配はあまりないことから、昔から山スキーによるツアーコースが数多く開拓されていて、手軽にスキーツアーを楽しむ人も多いのも事実である。その中でも若女平コースは、入山口と同じ白布温泉に戻れるので、マイカーの利用者にとってはよく楽しまれている。山形県側から天元台ロープウェイとリフトを乗り継げば、もうそこは標高1830m地点。天候にさえ恵まれれば日本百名山の西吾妻山を登って、比較的短時間にスキーで下れるコースでもある。

今日は所用があって自宅出発がだいぶ遅くなってしまっていた。天元台のロープウェイとリフト3本を乗り継ぎ、北望台の出だしはすでに12時を過ぎていた。今回予定している若女平については、二日前に下った人の記録をインターネットでチェックしていたので、積雪の状況は大体見当がついている。しかし、この二日間の大雪でさらに積雪は増したようで、北望台からは登ることを躊躇うほどの積雪があって唖然とした。これではとても単独では登ってゆける状況ではなさそうだったが、リフト終点から右手奥を確認すると新しい踏跡を発見し、そのトレースはどこまでついているのか判らなかったものの、こんな豪雪でもやはり登っている人はいるものである。いつもは単独でのラッセルが多いので、たまには他人のラッセルをあてにさせてもらってもいいだろうと思い、今回はありがたく利用させてもらうことにした。

シール登高を始めて見ると深々としたラッセル跡が続いていた。スキーでも深いところでは股下か腰あたりまでの深いラッセルなのだ。ものすごいとしかいいようがない激ラッセルである。このトレースは中大顛には向かわずに、梵天岩へとショートカットのコースをたどっているようであった。踏跡は途中で二手に分かれている部分があり、どうやら今日は二組ぐらい登っているようである。このトレースのおかげでラッセルをすることもなく登ってゆくことができ、私はそれほどの疲れも感じないで中大顛の中腹に登り着く。上空を見上げると、天候はこれから晴れそうな感じがするものの、ガスがなかなか晴れなかった。それでもそこからは大凹付近を戻ってくる二人組と、梵天岩へと登っている途中の二人組の姿をうっすらと確認することができた。引き返してきた二人は地元山形市からきた人達で、私はここまでのラッセルのお礼を述べた。戻ってきた人はフリーベンチャーのミニスキー、もう一人は山スキーであった。私はラッセルをすることもなくここまでこれたので、予定通り単独でも若女平を下ることなど一応話をする。すると二人はまだ若女平の経験がないのでできれば一緒に行きたいという。私はこんな場合には他人の命の保証まではできないし、責任は取れないことだけは確認することにしている。これからの行動は二人の判断に任せることにしたものの、結局一緒に行くことになり、とりあえずニワカ3人パーティができた。

そこからは私が先をゆくと、ここまでのラッセルでかなり疲れたのか、二人はなかなか追いついてこなかった。ラッセルがないというのはまことに楽で、まもなく梵天岩手前の斜面で先を行く別の二人組に追いついた。こちらは福島の人達で、スノーシューを履いて登っており、背中にはスノーボードを担いでいるスノーボーダーであった。この二人も若女平を予定しているらしかったが、あまりの深雪のために今回はあきらめかけているようであった。私は先ほどの二人組とニワカ三人パーティで若女平を下ることを話すと、それならばこちらも一緒に行きたいという。若女平は福島組の一人が一回だけ経験があり、もう一人は初めてらしかった。私は一人でも行くつもりだったことなど、先ほどの山形組に話をしたことと同様の事を確認する。こうして急遽5人パーティができあがり、今日は一緒に若女平を下ることになったのである。

ここからはラッセルを交代して私がトップで行くことにした。福島の二人組はビーコンを装着しているというので、天狗岩でツェルトをかぶって私もビーコンをセットした。天狗岩にある神社は丸ごと氷詰めの状態で、稜線の風雪の厳しさが伺えるようだった。稜線は風も強いがその分、ラッセルの必要もあまりないのがありがたい。西吾妻小屋の方角を眺めてみるものの、今回の大雪に埋まっているのか、あるいはガスのためなのか、小屋はどこにも見当たらなかった。

天狗岩を発つとこの頃から上空には少し青空が広がりだし安心感が広がる。風雪の後の樹林帯の美しさはたとえようがなく、今年の樹氷群はまさに本物のモンスターである。何回も訪れている西吾妻なのに今日はこの風景を眺めただけで満足しそうなほどであった。天狗岩からは時間がないので西吾妻小屋には回らずに、ショートカットしながら若女平のいつものコースに真っ直ぐ向かうことにする。コースに出るまではトップで深雪を漕いで行くが、足が徐々に疲れだしてくる。スキーを履いても膝上以上の激しいラッセルが続き、なかなか距離を稼くことができなかったが、斜度さえ出てくれば楽しいパウダーが待っていると思うとラッセルにも力がこもった。しかし、なかなか本来のコースに出ないのに辟易してしまい、私は少し斜度が出た付近でシールを外し、そこからはスキーで滑ってゆくことにした。こんなに深いラッセルは西吾妻界隈ではあまり記憶になかった。いつもならばその地点からも快適に下れるはずだったが、今回の深雪ではいくらも滑らなくて焦った。滑り始めてもすぐにスキーは止まってしまい、再び深いラッセルをしなければならなかった。

当たり前だがそれでも少しずつ斜度は増していった。しかし今回だけは少々の斜度ではスキーはいささかも滑らず、いわゆる下りもラッセルという奴で、激ラッセルは変わらなかった。私の後続ならばスキーは走るのだろうが、トップでは少し急斜面がでてきても、すぐに膝上か股下までの雪に埋まってしまうのですぐにスキーは止まってしまうのだ。せっかくこのパウダーを楽しむために、今年は太板を新調したというのに少々の急斜面ではいくらもスキーは浮いてはくれそうになかった。また私のトレースがある筈なのに、この深雪に手間取っているのか、後続の4人はなかなか追いついてこなかった。みんなを待つために何回か休みながらポカリを飲んだり軽食を取って昼食代わりにする。私のトレースがあるから迷うことはないだろうし、それぞれに二人組なので他人の心配はする必要もなさそうであったが、それでもまとまってゆくに越したことはない。後続が追いついたところで私はまたラッセルを開始し、ちょっとした急斜面が現れると少しだけ滑っては、再びラッセルといった行動の繰り返しがその後も続いた。

標高1600m付近まで下ったところで、トラバース気味に若女平に向かうことにした。若女平にさえでれば後はそんなに距離はないので、そこまではがんばらなければと両足を踏ん張った。しかし、ここでもラッセルに時間だけがかかり、また後続は相変わらず遅れ気味で、すぐに追いついて来ることはなかった。途中で細くて深いトレースを見つける。登山者のものならばと、淡い期待はしてみるものの、それはカモシカらしい動物のラッセル跡のようでがっかりした。トップばかりではさすがに疲れていたので、このカモシカのラッセルでも良いから、それを利用して少しでも楽をしようと滑走を試みる。しかし、当然ながら全く違う方向に向かうので何の足しにもならなかった。今回はこうしたラッセルだけで時間がどんどん過ぎていった。山形のスキー組が追いついてきたところで確認すると、スノーボーダー組はとっくにスノーシューに履き替えて、歩いて下っているとのことであった。

ようやく若女平に出たときには早くも日没が訪れようとしていた。1月になっていくらか日が延びたとはいえ、冬至からまだいくらも経ってはいないので、日が落ちてしまえば秋のつるべ落としのようにたちまち闇夜がやってくることだろう。すでにサングラスでは暗くてよく見えなくなっていたので普通の眼鏡に取り替える。そして後続を待ちながら、私は早めにヘッドランプを装着した。5人そろったところで小休止を取り、水分などを補給する。よくよく聞いてみると山形組のうち一人は今回の山スキーが初めてであり、さらに靴が合わないのか足先が痛み出しているのだという。どおりで遅れる訳であった。その上、二人はヘッドランプも持っていないということを聞いて驚いたが、こうなったら絶対に怪我をすることもなく、全員の安全を最優先で下るしかない。あまりに下山が遅いと思ったのか、ここで突然カミさんからの携帯が入った。現在地がまだ若女平だと告げるとさすがにびっくりしていたが、5人一緒だと話すと安心したのか、すぐに電話が切れた。若女平のダケカンバ帯からは西の稜線がオレンジ色に染まっているのが見えて、太陽はすでに山陰に隠れてしまっていた。見上げれば月が昇り始めていた。冬山では予定通りとは行かず、遅くなってしまう程度はアクシデントというほどでもないのだが、今日は風雪にならないだけありがたいと思うべきだろうか。風雪ならば雪洞でも掘って早めにビバークする時間帯なのかも知れなかった。厳しい冷え込みが周りを覆っていたが、幸いに月明かりがあって、最悪の場合はみんなで歩いて下れるというのは深い安心感があった。

唯一、テレマークスキーの滑走が楽しめたのは若女平からヤセ尾根までの急斜面だけであった。福島の二人もスノーボードに履き替え、最後の滑降を楽しむものと思っていたのだが、そのままスノーシューで下るようであった。山形組はかなり疲れている様子なのが少し気になったものの、福島組の二人はヘッドランプを装着しているので、二人に最後尾を来てもらえばお互いの位置をヘッドランプで伝え合うことができるのでそれほど心配することはない。私はなるべく後続からは離れないようにして、強清水のヤセ尾根手前で待つことにした。若女平のツアーコースで危険地帯といえばここだけだろう。ヤセ尾根はいつも安全策をとってスキーを担ぐところだが、今回の豪雪では難なく滑ってゆけるようだった。ただし、右側は雪庇が大きく張り出しているので、再三にわたってみんなに注意を促す。何しろ明るい時でさえ緊張するところなのに、もう周りは真っ暗なのである。ちなみにヘッドランプを消してみると暗闇に杉林やダケカンバが黒く浮かんで見えた。そして暗闇のかなたには天元台ロープウェイの湯本駅と山頂駅の灯りが見えて、見上げると月夜に星空が美しい。遠方には米沢市の夜景がまるで宝石を散りばめたかのように目映く煌めいていた。ここからの写真は絶対に残しておきたいとカメラを取り出したが、こんな時に限ってバッテリーが動かない。今回はいくらも枚数は撮っていないのに、かなりの低温に予備のバッテリーも使い果たし、シャッターは作動しなくなっていた。バッテリーを脇の下にでもちょっと入れて温めれば、1枚ぐらいは撮れそうだが今はたったその数分がもったいない。福島組もカメラを持っているようなので、ここの光景は彼らの撮影に期待をすることにして先を急いだ。

ヘッドランプの灯りだけを頼りにしながら強清水のヤセ尾根を快適に滑り杉林へと下ってゆく。ここは幾分積雪が少ないのでスキーは適度に走ったものの、ヘッドランプがない後続のために、やはり途中で何回も立ち止まらなければならなかった。ヘッドランプを再び消してみると、いくらトレースがあるといってもこの暗闇の中、ヘッドランプ無しでたどってくるのはやはり難しいだろうと思った。ここの杉林はいつもならば一気に滑って植林地に出るところなのだが、少しずつ下るために予想外に時間がかかり、この区間はいつもよりもかなりの距離を感じた。やっと杉林帯が終わると最後のトラバース箇所だ。ここまでくれば後は林道も間近で、ようやく下り着いたという実感がこみ上げてくる。ここで足が痛んでいる人には、スキーを相方に担いでもらい、最後尾を坪足で下ってもらうことにした。いつもならばここの植林地の急斜面はあまり滑りには向かないのだが、今回の豪雪のおかげで、私は短い区間ながら最後のテレマークターンを楽しみながら下った。林道に出る手前は細い杉林が混んでいるところで、ここはゆっくりと後続を照らしながら密林を抜け出すと、ようやく林道らしき平坦地に出た。すぐ目の前には対岸の斜面が迫り藤右エ門沢の流れが聞こえている。そして対岸への橋を渡ったところで、最後のスノーシューと坪足の3人組を待って安全を再確認し、私は西吾妻スカイバレーの入り口まで滑降していった。皮肉にも、この最後の林道はスキーがよく走った。時計をみると到着時間は18時40分であった。

有料道路の入り口では全員無事に下ってこられたことをみんなで喜び合った。私は記念に写真を撮ってもらうことにした。いつもは自分の写真などはほとんど撮らないのだが、今日はめったにない夜行の山スキーになってしまったので、いつもよりも感慨深いものがある。これも何かの縁だろうとそれぞれに名前を最後に名乗り合って私はここでみんなと別れた。スキーを背中に担ぎながら坂道を登り、湯本駅へと戻るとすでに19時を過ぎていた。真っ暗な駐車場には私の車が1台残っているだけであった。

この日の記録が福島のCCめろんさんのブログに「修行僧の若女平ムーンライトスノーシューイング」
として載せられていますのでご覧下さい


氷結している天狗神社に向かう筆者(福島、香川さん撮影)


天狗岩付近で青空が顔を出した頃
福島のスノーボーダー


下りもものすごいラッセル


残照に輝く西吾妻山と明月 
(若女平から福島の香川さんが撮影)


若女平の上部付近で日没となる


有料道路入口に下山した直後、福島、香川さんに撮影してもらう


駐車場に到着(19時10分)


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