山 行 記 録

【平成17年12月29日(木)/吾妻スキー場〜慶応山荘】



慶応山荘分岐点


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】五色沼周辺
【天候】晴れ時々風雪
【行程と参考コースタイム】
吾妻スキー場第2リフト終点(1180m)10:30〜慶応山荘分岐13:30-14:15(休憩)〜吾妻スキー場駐車場15:40
  
【概要】
東北地方は連日の寒波到来によって今日も山形県内は大荒れの天候であった。国道13号線を走っていると栗子峠も猛吹雪だったが、飯坂町に入ると少しずつ青空が広がってくる。峠を境にしていつもながらこの天候の違いには驚くばかりである。しかし吾妻連峰を見れば白い雲がかかっていて、吾妻小富士も一切経山も見えない。山の中腹から上は強風に雪煙が舞っているようであった。そのためか吾妻スキー場に着いてみると第2リフトまでしか動いておらず、リフト1回券は2枚だけを購入し、早速リフトに乗り込んだ。天候は風雪に見舞われている山形県とは雲泥の差があるが、それでも強風はすさまじくスキー客はまばらである。最近の私は気持ちに盛り上がりがなくて、敗退や山行の取りやめなどが結構続いているので、今日は無理してでも五色沼まで行こうという意気込みを持っての出発だった。

第2リフトリフト終点からは早速シールを貼って、第3リフト下の急斜面を登って行く。先日の降雪直後の深雪とは違って雪がだいぶ締まっており、スキー靴が埋まるぐらいなので、これならば楽勝だろうと考えながらシール登行を続ける。しかし、年末ともいうのに誰も山に登ってはいないらしく、トレースは全くなかった。リフト下の雪が締まっていたのは強風で飛ばされるためであって、第3リフト終点を過ぎ、樹林帯に入ると風が弱くなった分だけ、積雪が増し、徐々に深いラッセルと変わってゆく。今日も太板(121-88-109)だがスキーでも膝近くまで潜った。しかし、樹林帯の平坦なシール歩きはネイチャースキーのようで、それほど難儀というほどではない。雪を被ったオオシラビソやナナカマドの赤い実が陽光を浴びて光り輝き、その美しさは言葉にもならないほどで、物音ひとつ聞こえず、誰もいない静かな雪山はただそこにいるだけで心が癒されるようであった。

楽勝だと思われた今日の登りは、やはり単独では結構きつく、ラッセルを続けているうちにいつのまにか汗が噴き出していた。冬山では汗は厳禁なのだが、それでも今日は天候が良いだけに、頬を伝ってくる汗に何ともいえない心地よさがある。最近は悪天候で山に行けな日も多く、消化不良のような状態が続いていたので、あちらこちらの筋肉が少しだけ喜んでいるようでもあった。しかし、膝までのラッセルというと簡単そうだが、スキーを雪から引き抜くのが結構たいへんで、時間がかかる割合に距離はそれほど稼げない。特に第2リフトから登ってきているのでなかなか慶応山荘までが遠く感じた。まだ予定していた距離の半分も歩いていないのにすでに正午を過ぎており、この分だと五色沼までは届かないかもしれないと、少しずつ弱気の虫が出始めていた。

慶応山荘分岐には登り始めてからちょうど3時間で到着した。休みも取らずにラッセルのしどおしだったのだが、時間はすでに1時半を過ぎている。汗をかいただけに喉がカラカラで、ポカリスエットを一気に飲み干すとようやく人心地がついた。正面には家形山や一切経山が見えるはずだが強風に雪が舞っていて、吾妻の稜線は見えなかった。それでも上空には青空が見えているので、ここでゆっくりと昼食休憩をとることにした。五色沼まではここからいささかの距離もないのだが、急坂が続くのでラッセルはもっと深くなるだろうと思うと、今日の行動はここまでにしようと思い始めていた。スキーを外してみると積雪はかなりあって、股下を超えて腰まで体が沈むのでびっくりする。ツェルトを貼るためにスキーをもう一度履かなければ作業ができなかった。ツェルトの片方をシラビソの枝に引っかけ、強風に飛ばされないようにするだけでも一苦労だった。

ツェルトに入るとようやく気持ちが落ちついた。スキーを椅子代わりにしてカップラーメンを作りながら疲れた足を休めた。青空が出ているとはいえ気温は低く、温度計をみると氷点下10.6度である。樹林帯にしてこの気温では、無木立の大根森付近ではかなりの体感温度だろうと思った。せっかくラッセルをしたのに、いくら待っていても誰も後を追ってくる者はいなかった。

ゆったりとした休憩を終え、下山を始める頃には午後の2時をとうに過ぎていた。強風は相変わらずでツェルトから出ると、自分の歩いた深いラッセル跡はほとんど消えかかっていた。平坦地のためしばらく自分のトレースをたどるのだが、最初はほとんど滑りにならない。ちょっとした小さな登り返しでは足が攣ってしまい、少し痛みが治まるまで両足を揉んだりした。たいした行程ではなかったが、最近の運動不足が祟っているのか、筋肉はかなり弱っているようであった。それでも少し斜度がでてくると気持ちの良いツリーランが楽しめるようになる。樹林帯のちょうど中間地点まで滑ってくると、別のトレースが直角に交差しているのに気づいた。深々としたラッセルなので初めは坪足の登山者の踏跡と思ったのだが、底の方を良く見てみると人のものではなく、どうやらカモシカの踏跡ようであった。そのラッセル跡は左手の沢下から登ってきて、右手奥の樹林帯へと続いていた。

第3リフト終点まで戻ると、下界の風景が目に飛び込んできた。そこからは福島市街地がきれいに見渡せ、平地では穏やかな冬日に包まれているようであった。しかし、この標高1330m地点では強烈な風が舞っていて、登ってきたときの自分のトレースは全くなくなっている。もちろん周囲には人影はなく、第3リフトは止まったままであった。樹林帯を抜けてリフト下まで降りてくると、そこには手つかずのパウダー斜面が待っているところだ。しかし、この最後の楽しみにしていた急斜面も、あまりの深雪のためスピードに乗れず、直滑降のようなターンしかできなかった。振り返るとあまり格好の良くないシュプールが残っていたが、それでも写真にだけは撮っておくことにしてシャッターを切った。

ゲレンデに戻るとなるべく樹林帯を選んで、少しでもツリーランを試みながら下って行く。すでに午後3時を過ぎており、日差しは西にかなり傾き始め、あづま高湯の山麓にも夕暮れが迫ろうとしていた。今日は出発時間も遅く、またまた五色沼までも届かなかった一日だったが、深雪の滑走をそれなりに楽しめたので良しとしようか。時間を考えると慶応山荘で引き返した判断は間違っていなかったということだろう。久しぶりに気持ちのよい汗をかき、それなりに満足した吾妻の一日が終わった。


第2リフト終点からシール登高開始


カモシカのラッセル跡が横切っていた


第3リフト終点付近
ラッセルの跡が跡形もなく消えていた


第3リフト下のシュプール
急斜面だが深雪のためほとんど直滑降のよう
すでに日影に覆われている


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