山 行 記 録

【平成17年10月29日(土)/十部一峠〜村山葉山】



葉山奥ノ院をバックに(トンボ沼にて)


【メンバー】3名(伊藤孝、清水、蒲生)
【山行形態】秋山装備、日帰り
【山域】出羽三山
【山名と標高】葉山1,461.7m、奥ノ院1446m
【天候】晴れのち曇り
【行程と参考コースタイム】
 十部一登山口8:55(1087m)〜奥ノ院(1446m)10:15〜村山葉山10:35〜奥ノ院(昼食)10:50-11:30〜十部一登山口12:20
  
【概要】
 今年の秋は勤め人にとってはとても不遇な天候が続いている。平日は秋晴れが続くのだが、週末になると決まって雨が降るというサイクルがもう何週間も続いていた。今日も山形県内では昼前後に雨が降り出す予報が出ていたため、私たちの山の会の計画であった二王子岳は早めに中止の決定をし、代替案として比較的、短時間で登れるコースをということで決まったのが十部一峠から村山葉山であった。もちろん、山の天候は予想通りにはゆかないので、雨を半分覚悟しての、希望者だけによるプライベート山行となった。

 奥ノ院を経て葉山山頂に向かうコースは、まるで前回、個人的に登っている勧進代尾根経由の長井葉山とそっくりだが、今回は村山の葉山であり、十部一峠からのコースは初めてである。寒河江市畑から葉山へは何回か登っているが、ガイドブックによると十部一峠コースは距離が短いだけで他に見るべきものがないと書かれており、さして興味がなかった。しかし紅葉の時期ならば楽しめるのではないかと、いつか妻を連れてでも登るつもりで以前から考えていたコースだった。寒河江市幸生(さちう)を通り、大蔵村の肘折温泉に抜ける国道458号線は、頻繁に土砂崩れなどがあったりして、時々通行不能となるので不安であったが、途中から少し道幅が狭くはなったりしたものの、アスファルト舗装のりっぱな道路が続きびっくりする。最高地点の峠からは登山口まで約9kmほどの林道となったが、これも砂利道ながらよく整備されていて少しも心配することはなかった。

 林道終点の登山口はわずかに広くなっていて、駐車中の車は軽トラックが2台。しかし2台ともキノコ採りのようで、今日の登山者は私達の他にはいないようであった。林道の終点には登山口を示す比較的新しい標柱が立っていた。登山口の標高は1080mほどだが、10月下旬というこの時期にもなると紅葉もすっかり里まで下りてきてしまい、登山口周辺ではすでに盛りは過ぎているようであった。登山口から山頂までの標高差は約400m。ゆっくりと歩いても1時間ちょっとのコースであり、ハイキング気分で登って行く。

 登り始めは涸沢のような石積みの緩い坂道だったが、やがてしっかりとした山道となった。しかし、天候は早くも下り坂なのか、いつのまにか陽射しはなくなっており、上空にはすでに薄雲が広がっていた。急坂を登り終えると付近は見事なブナ林となり、斜度も弛んでなだらかな尾根歩きとなった。やがて前方に奥ノ院と葉山本峰のピークが見えてくる。標高は1300mをすでに超えており、周辺の潅木類は落葉が進み、すでに晩秋の雰囲気が漂っていた。

 奥ノ院が近づくと小さな湿原のまっと沼とシャクナゲ平を通過する。シャクナゲ平の標柱には標高1355mとあり、この付近はほとんど平坦な山道が続いているところだ。どうたん坂からはわずかに登ってトンボ沼に着く。ここには美しい池塘があって、周囲を回れるように木道がめぐらされていた。トンボ沼からは奥ノ院が目前で、右手には葉山本峰も見えている。トンボ沼の一角には分岐点を示す標柱も立っており、北への道は肘折温泉へのコースのようであった。湿地帯の草紅葉はすでに枯れ始めていて、陽射しがない中では輝きを失った草紅葉が寂しく、秋の深まりをいっそう感じさせた。

 奥ノ院の山頂には登山口から1時間20分で着いた。山頂では冷たい風が吹いていて、本格的な冬がすぐ目前に迫っているようであった。振り返ると月山の大きな山容を仰ぐことができた。雪のない月山の緩やかな斜面はまるで大きな牛の背中を見ているようでもある。その月山にも先週の寒波によって初雪があったはずだが、広大な東斜面はただ茫洋としているだけで、雪はすでに解けてしまったのか、冬枯れの褐色の斜面が横たわっているだけであった。時間はまだ10時を少し過ぎたばかりで昼食にはまだ早く、私達は葉山本峰を往復してくることにした。私はいつも訪れている方向とは逆の方角から登ってきたこともあって、葉山本峰への往復がいつになく新鮮な感じがした。前方には大増森や小僧森といった外輪山の稜線が続いている。左手を見れば山ノ内コースが尾根を縫うように一本の線となっているのが見えて、急峻な懸崖の向こう側には村山市の市街地がうっすらと霞んでいた。

 葉山本峰には奥ノ院から20分ほどで到着した。ここにはりっぱな一等三角点があるのだが、潅木が取り囲んでいるために見晴らしはあまり楽しめない。今日は月山が見えるだけで赤見堂岳やその背後に続いているはずの朝日連峰も雲に隠れて見ることができなかった。
奥ノ院に戻って山頂神社の裏で昼食とする。大した距離を歩いたわけでもないのに、それでもみんなの背中は汗でじっとりと濡れているようであった。山頂の冷たい風に触れているとたちまち体が冷え切ってしまい、3人ともあわてて防寒着を羽織って車座になった。早速、お湯を沸かして暖をとるものの、気温が低くてなかなかお湯が沸かなく、こんな時のガスコンロがもどしかった。お湯が沸くまでの間、ビールで祝杯をあげ、しばしの休憩を楽しむことにした。3人ともコンビニで仕入れてきた簡単な食事だったが、熱い味噌汁が出来上がると、それだけで体の芯から温まり、ようやくホッとひといきをつくことができた。奥ノ院では天気予報が悪かったせいもあるのか、他に登ってくる登山者もなく、私達の貸切状態であった。これで陽射しが戻れば最高の秋山となるはずだったが、それは無い物ねだりというもので、こういう時は雨が降らないだけでも感謝しなければならないのだろう。のんびりとした山頂での休憩だったが、結局休んでいる間も陽射しが戻ることはなく、西から吹き渡ってくる風はすでに初冬を思わせるようであった。

 下山を始めると雲の割れ目から一瞬だが陽射しが降り注いだ。すると周辺の景色はまるで見違えるような明るさにつつまれて、紅葉がひときわ輝いた。しかしそれはほんの僅かな時間であり、秋の空のつかの間の戯れのようであった。まだ昼前だというのに陽射しが失われると再び夕暮れのような沈んだ風景に戻った。しかし、その一瞬の輝きを眺めることが出来ただけですごく満足した気分になったのは確かだった。あらためて眺めてみると、内陸側の最上地方は割合に視界が良好だったが、庄内側は一面、雲海に覆われていて、同じ県内でも天候の違いが歴然としているのがあらためてわかるようでもある。庄内地方では早くも雨が降り出しているようであった。

 距離が短いということもあって奥ノ院からは登山口までは50分で戻った。意外にも登山口の近くでこれから登ってゆく一組の夫婦連れとすれ違ったが、今日の登山者はそれだけであった。山頂は冬の木枯らしが吹くような空模様だったが、登山口まで下りてくると気温が少しだけ上昇し、周囲にはまた紅葉の華やかさが戻った。しかし山の稜線を見上げるとブナ林は灰褐色に変色し、わずかに残っている葉もすでに枯れ葉色で、どうにか枝にしがみついているだけという格好のようであった。駐車場で後かたづけをしていると、私達の下山を待っていてくれたかのように、雨が静かに降りだし始めていた。


紅葉の登山道


inserted by FC2 system