山 行 記 録

【平成17年9月29日〜30日/朝日連峰 泡滝ダム〜以東岳




以東岳山頂から以東小屋
(29日)


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(以東小屋)
【山域】朝日連峰
【山名と標高】以東岳 1,771m
【天候】29日(晴れ)、30日(晴れ)
【行程と参考コースタイム】
29日)
6:30-9:00(126km)
泡滝ダム9:15〜冷水沢吊橋10:05〜七ツ滝沢吊橋10:35〜大鳥小屋11:15-30〜東沢〜以東小屋13:50(泊)〜以東岳往復
30日)
以東小屋5:15〜以東岳〜オツボ峰6:20〜大鳥小屋8:20〜七ツ滝沢吊橋9:35〜冷水沢吊橋10:10〜泡滝ダム11:00

【概要】
9月29日
久しぶりの以東岳であった。先日の大朝日岳は苦しかったが、一応自分の体力を取り戻した気がして、今回は小屋泊りを計画した。小屋泊りといっても日帰りの大朝日岳よりは、体力的にはずっと負担もかからず気も楽である。体調が悪いときには途中の大鳥小屋泊という選択肢もあるし、荷物が増えるのはシュラフと食糧ぐらいなものである。冷えてきた時期ではあるが、シュラフは夏用とし、食糧も軽いアルファー米などにしたので、ザックの重量は日帰り装備とそれほど変わりはなかった。

泡滝ダムを出発するとしばらく渓谷沿いの平坦な道が続いた。空の片隅には申し訳程度の雲がひとつふたつあるだけで、快晴の秋晴れの青空が広がっている。むしろ夏の名残をまだ十分に感じさせるような、強い陽射しが頭上から降り注いだ。冷水沢と七ツ滝沢にかかる二つの吊橋を渡ると、そこからはジグザグの急坂となる。この付近は紅葉にはまだまだ早いが、良く見ると色づき始めた木々も目立ち始め、山の麓にも少しずつ秋が忍び寄っているようであった。

大鳥小屋へは泡滝ダムから2時間で到着した。小屋の外では四人の女性グループがテーブルを囲んで食事中であった。私もザックを下ろして軽い昼食をとることにした。見上げると草紅葉に染まる山頂付近が見えたが、大鳥小屋の周辺はといえば、本格的な紅葉までにはまだ1週間以上も早いようであった。休憩を終えると以東岳をめざして直登コースを進む。東沢を渡るとしばらく樹林帯の急坂が続いた。すでに真夏の暑さはなくなり、山を登るには最適ともいえる気候になっていたが、樹林帯は風がないのですぐに上半身から汗が噴き出した。首に卷いたタオルはすでに汗が絞れるほどにぐっしょりと濡れていた。高度が1400mを超えると潅木もなくなって、一気に見晴らしが利くようになる。辺り一帯は黄金色の草原が広がり、山頂までは緩やかな登山道が続いていた。草原では涼しい風が流れ、その心地よさに浸っているだけで心が癒されるようであった。つらい登りに耐えてきた者だけが味わうこのひとときは無上の山の喜びだった。以東小屋手前で休んでいる夫婦連れが一組いたが、二人はこれから狐穴に向かうという新潟からきた人達であった。

以東小屋に着いてみると登山者の姿はなく、管理人も不在であった。私はザックを二階に下ろして、とりあえず水汲みに出かけた。ここの水場は小屋から少し下りなければならないが、山頂のすぐ直下にもかかわらず、手が切れそうな程の冷たい水が年中豊富に湧き出しているところだ。最近この水場に「碧玉水(へきぎょくすい)」という名前が付けられているのは聞いていた。大朝日岳の「金玉水」や「銀玉水」に合わせた名前なのだろうが、ちょっと馴染みにくいと思うのは私だけだろうか。いっそ「銅玉水」とでもつければよかったのに、とぼやいてみる。「金、銀、銅」と朝日連峰の名水が揃い踏みとなり、その水の美味しさについては多分、名前とは逆に「金」よりも「銀」、「銀」よりも「銅」と順位がつけられることだろう。「金玉水」より「銀玉水」がはるかに美味しいのは周知の事実であるのだからこのほうが話題性に富むだろうに・・・。しかし、それにしてもここの水の冷たさ、おいしさは相変わらず一級品だな、などと考えたりしながら小屋に戻った。

夕食まではまだ時間があるので防寒着や行動食等を持って山頂で休憩をすることにした。久しぶりに見る以東岳からの展望は遮るものがなく、しばらく写真を撮ったりしながらのんびりと過ごした。山頂付近の潅木はすでに紅葉に染まり、午後の陽射しを受けてひときわ鮮やかだ。見下ろすと朝日連峰の稜線付近も色付き始め、褐色の縦走路が遠方の大朝日岳まで続いていた。山頂の風はさすがに冷たく、私は大鳥池を見おろせる岩陰に腰を下ろしてしばらく横になって休んだ。

小屋に戻り、缶ビールを飲みながら夕食の準備を始めていると、4時過ぎになって女性が四人ほど小屋に入ってきた。話をしてみると先ほど大鳥小屋で休んでいた女性達であった。四人は東京から来たという人達で、明日は大朝日岳に泊まり、明後日、古寺鉱泉に下るらしかった。質素で簡単な夕食を終えると私は何もすることがなくなり、日没までは文庫本を読んで過ごした。しかし、5時を過ぎる頃から急にガスが吹き上がってきてしまい、小屋の周囲は何も見えなくなるほどの濃霧に包まれてしまった。私は防寒着を着て、小屋前のベンチに座りながら雲が切れるのをしばらく待っていたが、結局この日は日没を見ることができず、その後はラジオを聴きながらシュラフにもぐった。

9月30日
翌日は4時に起床した。階下からは食器の触れあう音や忍びやかな話し声が早くから聞こえていた。女性達も早立ちするのかすでに起きだしていて、朝食の準備を始めているようであった。私はインスタントのスープで軽く朝食を済ませ、5時過ぎには小屋を出た。まだ外は薄暗かったが、すでに東の空がオレンジ色に染まりはじめ、まもなく稜線の一点から鋭い閃光が目に飛び込んでくる。日の出は5時36分。しばらく振りに見る朝日連峰からのご来光であった。曙光は一面に広がる雲海を斜めから照らしながら、朝日の山並みを赤く染め上げてゆく。朝の空気は寒いほどだったが、冷気は適度な緊張感を体に与えてくれるようで、身が引き締まる思いがした。私は三角点に腰を下ろして、荘厳で厳粛な朝のドラマをしばらくのあいだ一人で眺めていた。

山頂からはオツボ峰経由で下山することにした。このコースは久しぶりで三角峰の巻道が新しい石畳の道として整備されていたのには驚いた。途中の急坂も丸太で土止めされたりしていて、すっかりここの登山道も様変わりしていた。朝の清々しい空気を味わいながら、緩やかな山道をのんびりと大鳥小屋へ向かって下りていった。この夏は暑さと体調不良で気分的に参っていたが、二週続けて朝日連峰をどうにか登れたことで私はすごく満足していた。しばらくぶりに来てみるといつのまにか季節が大きく移り変わっていて、一日一日山の秋が深まって行くようであった。



以東岳と以東小屋が目前(29日)


以東岳山頂から大鳥池を俯瞰
(29日)


以東岳山頂からのご来光(30日)


inserted by FC2 system