山 行 記 録

【平成17年8月21日(日)/吾妻連峰 立岩〜弥兵衛平小屋



弥兵衛平湿原(遠方は西吾妻山)


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】東大巓 1928m(弥兵衛平小屋まで)、弥兵衛平小屋1830m
【天候】曇り時々晴れ
【行程と参考コースタイム】
自宅=大沢集落=駐車地点(45.2km)
駐車地点11:15(1260m)〜立岩登山口11:50〜弥兵衛平小屋(明月荘)13:25-14:20〜立岩登山口15:15〜駐車地点15:45
  
【概要】
体調が今一つのため、1時間程度で登れる山を探していたら、吾妻連峰の立岩コースが浮かんだ。冬の大沢下りでは何回も下っている明月荘からの下山コースの一角だが、夏道としては初めてのコースとなる。天元台などから比較すると、あまり歩かれていないコースとも聞いており、静かな山歩きができそうであった。

大沢集落を過ぎて、林道を走っていると、途中で土砂崩れの箇所があった。四輪駆動車なので無理すれば先にゆけそうだったが、単独では不安感が先立ってしまい、今回は安全策を優先し、崩落箇所手前からは徒歩でゆくことにした。地形から判断すると、駐車地点は砂盛を回り込む、ちょうど手前のようであった。その先も林道が深くえぐれていて、最近の豪雨の影響が激しかったことが伺われた。周囲の風景は大沢下りで見慣れている筈だったが、夏場に見る風景は冬山のそれとはかなり違っていて、そんな事を眺めながら歩くのは結構新鮮だった。林道の中央部分にはおびただしいほどのマツムシソウが盛りであった。しかし、登山口まではどのくらい歩かなければならないのかちょっと不安といえば不安で、下界の好天とは違い、山並み一帯に薄雲が広がり始めていることも、時間を考えると気掛かりなところだった。

駐車地点から登山口までは2kmほどあって35分もかかった。
弥兵衛平にはそこから左手の山道に入って行くらしく、林道をせき止める形でロープが貼られ、登山口を示す杉板の標識が道路に横たわっていた。登山口には予想外にも車が1台止まってあり、入山者は少なくとも一人以上はいる様子であった。しかし、この林道歩きで私はかなり疲れてしまい、今回は登山口を確認しただけで良しとしようか、といささか気弱にもなっていた。雨が降り出しそうな空もちょっと心配だったが、躊躇っているよりも、とりあえずゆけるところまで登ってみようかと、自らを励ましながら樹林帯に入っていった。

山道は最近刈り払いされたばかりらしく、歩きやすいのが心強い。途中で二つの小沢を渡る箇所があって、予備の水筒を一杯に満たした。ところどころには冬山で見覚えのある菱形の黄色い標識がいたるところにあって迷う心配はなかった。太い倒木が塞いでいたらしいところもチェーンソーを使って取り除かれていて、登りにはなんの支障もなかった。登山道は次第にオオシラビソからダケカンバ林となり、周囲の明るさが増した。そして、途中からはヤセ尾根となり、急に見晴らしが良くなった。まるで霧ノ平を思わせるような山肌がむき出しとなっているところだ。稜線は疲れを一瞬忘れさせるような清々しい風が流れていた。私は異常ともいえるような疲れとともに、おびただしい汗が全身から噴き出しており、しばらくこのピークで休憩をとった。曇りがちの今日は遠方の飯豊や朝日連峰は霞んでいたものの、一方だけ開けた方角を見下ろすと大沢の集落や米沢市の市街地の一角が見えた。近くには山スキーで何回か訪れている砂盛や栂森があり、その左手奥には吾妻山麓放牧場のながらかな丘陵地帯が広がっていた。ここからはいったん沢に下りたりしながら、徐々に傾斜が増して行く。いつのまにか周囲は再びオオシラビソの樹林帯となっていた。この急坂の途中でカタツムリ山荘のご夫婦が下ってくるところに出会った。二人は山荘から8kmほどある林道を登山口まで歩いてきたらしく、その健脚ぶりにはただ驚くばかりであった。

丸太で土止めされた階段が現れると、弥兵衛平もまもなくとなる。ほどなく樹林帯から抜けだし、潅木もなくなるとようやく広々とした弥兵衛平の一角に飛びだした。ここからは木道がずっと続いていて、茫漠と広がる弥兵衛平の池塘と湿原には、ただただうっとりとするばかりである。すでに標高は1800mを超えており、湿地に生えるスゲなどの草花は黄ばみ始めていて、すっかり秋めいた感じが漂っていた。湿地帯を吹き抜ける風は死んでいた細胞が生き返るほどの爽やかさだ。かなり疲れていたが、無理をして登ってきてよかったとしみじみと思った。ここからは明月湖を眺めたり、湿地帯に残っている可憐な草花を眺めたりしながら静かな湿原歩きが続く。今の時期はオヤマリンドウやキンコウカ、花の終わったチングルマなどが目立つ。湿原の前方には東大巓やその右手奥には西吾妻山や中大巓のなだらかな峰峰が見えた。

木道をしばらくたどるとようやく
弥兵衛平小屋に到着した。小屋には登山者が一人いて、聞いてみると登山口まで車で入っていた持ち主であった。米沢市内の人だというからお互いに同じ地元である。その単独行氏も立岩コースは初めてらしく、昼食をしながら休んでいるところであった。この弥兵衛平小屋ではつい今し方まで多くの登山者で賑わっていたらしく、その人達はみな、滑川温泉へと下っていったのだと話をしてくれた。私もこの地元氏と一緒にしばらく山の話などをしながら1時間ほど休んだ。

小屋からは単独行氏よりも一足早く出た。見上げると小屋に到着したときの青空はすっかり消え失せて、今は上空を薄雲が覆い、早くも小雨が降り出していた。時間次第では東大巓までもとは考えていたものの、その気力がどうしても湧かず、往復はあきらめることにした。木道が途切れる辺りから少し大粒の雨となったため、ザックにカバーだけをかぶせた。ここ数日は天候が安定していなくて、午後からは連日のように雷雨が続いており、今日も大降りになりそうな空模様であった。体調が悪いだけにのんびりと下りたかったのだが、西側に広がりつつある雷雲が気にかかり始め、休憩は取らずに下り続けた。途中のピークを通過する頃には再び全身汗まみれとなっていた。最後の小沢を渡るところでは、タオルを冷水にひたし、体の汗を少しだけ拭った。そこから立岩の登山口まではまもなくであった。登山口に降り立ったところで、早くも単独行氏が追いついてきたので驚いた。小屋を出るときはかなり離れていたはずなのに、この人もかなり健脚の持ち主のようであった。登山口からは駐車地点まで再び、30分程の林道歩きだ。単独氏からは途中から一緒に乗って行かないかと誘われたが、日頃の運動不足にはこの平坦な道歩きはちょうどよいからと、気持ちだけありがたく受け取り、しばらくうねうねと曲がりくねった砂利道の林道をのんびりと歩くことにした。


弥兵衛平と東大巓


弥兵衛平小屋(明月荘)


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