北望台では多くの山スキーヤーが準備している。西の方角には飯豊連峰が浮かび、今日は全く天候の心配がなさそうであった。30分ほどのシール登高で中大巓付近を通過する。中大巓からは人形石が目前で、絵の具を塗りたくったような白い飯豊連峰や朝日連峰、さらには葉山や蔵王連峰が置賜平野をぐるっと取り囲んでおり、快晴の青空に白い山並みがくっきりと鮮やかだ。月山や鳥海山はあいにく雲に隠れていて見えなかったが、この大展望は見ていても飽きることがなかった。人形石からはシールをはずして東斜面のパウダーをひと滑りした。ここはいつもクラストのないパウダーが残っているところで、久しぶりの感触に満足しながら鞍部に下った。それからはのんびりとした弥兵衛平の大雪原が続く。振り返れば西吾妻山や中大巓、藤十郎といったなだらかなピークや、右手には一切経山や東吾妻の峰峰が横たわる。たおやかな吾妻連峰を眺めながらの快適なスノーハイキングがしばらく続いた。藤十郎を過ぎると最低鞍部からは再びシールを貼って明月荘をめざした。明月荘では入口が雪で埋まり、そのドアも一部が壊れていて小屋には入れなくなっていた。内部には大量の雪が入り込んでおり、みんなでザックからスコップを取り出し、しばらく入口の掘り出し作業に精を出す。作業が終わるとさっそくビールで乾杯、楽しい昼食時間となった。
1時間以上の大休止を終えると滑降にとりかかる。こんな好天の時の大沢下りについては、何の説明も不用だろうと思う。「クジラの大斜面」からは栂森を右手に、爽やかな風を楽しみながらの快適な滑降に浸った。2カ月前の栂森に苦労した、あの時の風雪や深雪が、今では遠い昔のことのようだ。大斜面が終ると通称「忠ちゃん転ばし」から砂森のコルにトラバースとなる。このコルからもしばらく斜度もあって気持ちの良い滑降を楽しんだ。平坦部まで降りてくると、福島からきた山スキー二人組が休憩をとっているところで、しばし一緒に小休止をとった。再び滑走を開始する頃には、気温の上昇とともに雪は腐れはじめていた。しばらくブレーキのかかる林道を滑走してゆき、途中から放牧場の最上部に出ると、ここでは最後の滑降とばかり、全員がラッカーをたっぷりと擦り込んでモチベーションを高める。しかし、効果があったのは最初の1ターンか2ターンだけで、あとは湿雪にブレーキがかかってしまい、元の黙阿弥に終わった。牧舎からは先行者のトレースがあって、林道は予想外にスキーが走った。カタツムリ山荘を通り過ぎると大沢駅まではまもなくだ。振り返ればこれ以上の好天はないだろうというほどの天候に恵まれた一日だったが、厳冬期のパウダーなど望めるはずもなく、最後は悪雪に苦労させられてしまい、季節はすっかり春スキーに移っているのをあらためて感じた一日であった。