この天候では予定していた猫魔ヶ岳をあきらめるしかなく、リフト終点からは雄国沼に向かってまっすぐに滑り出した。樹林帯に入ると風は少し弱まったが、雪面は堅くクラストしていた。いわゆるモナカ雪の悪雪で、気合いをいれてターンを続けようとすると2、3ターンであえなく転倒した。考えようによっては悪雪のちょうどよい練習にはなるのだが、雄国沼においてこんな雪質は初めてだけに落胆した。まもなく雄国沼の湖畔に出たが、雪原も沼も空との境界がまるでわからない。それでも何回も来ているだけにチラチラとみえる風景は見覚えがあり、それほど不安感はないのがせめてもの救いだろうか。
猫魔ヶ岳を省略したためにリフト終点からは40分ほどで雄国沼の休憩舎に到着した。雄子沢口からの踏跡もなく、10時を過ぎたばかりではまだ誰も小屋にはいないようであった。昼食にはまだまだ時間が早かったが、持ってきた食材を拡げ、さっそく山中さんのテレマークデビューを祝って缶ビールで乾杯した。汗をかいたおかげで、寒い中でも冷たいビールはなかなかに美味しい。まもなく4人の山スキーが到着してきて、小屋内は少しにぎやかになる。その4人組は雄子沢に下る予定らしかったが、まもなくすると雄国山へ往復するといって空身で出かけていった。その4人組とは入れ違いに7、8人のテレマーカーがやってきて、山小屋は急に騒々しさを増す。1時間ほどの休憩を終えると、私達も雄国山へシール登高を開始した。視界は相変わらず50mぐらいしかなかったものの、全くのホワイトアウトというほどではないので気分的には楽であった。
途中、急斜面の取付で先行の4人組を追い越すと、私達はトラバース気味に山頂へと直登した。稜線に出るとやはり風がすごい。なにも見えない中を少し進み、まもなく見晴台のある山頂に到着する。悪天の中を登ってきた山頂であったが、今日は展望も何もあったものではなく、早々にラビスパに向かって滑降を開始する。しばらくクラスト気味の斜面を手探りのような状態で慎重に下った。しかし、いったん樹林帯に入ると風がなくなり、雪質も若干だが柔らかくなったのを確認すると、そこからはブナ林をポールに見立てて快適に下って行く。とはいえ、雪質は結構重く、思わぬ所でバランスを崩して何回か転倒した。テレマークスキーをはじめてまだ3回目という山中さんも、ところどころで雪と仲良しになっているようだ。鞍部からはシールを貼り、1102mピークまできたところで小休止をとることにした。ツェルトに入ると山中さんはまたもや缶ビールをザックから取り出していた。
1102mピークからラビスパ裏磐梯まではもういくらもない。樹林帯を楽しみながら下って行くと、まもなく夏道の標識があり、そしていつもの急斜面に出た。この斜面は最後の楽しみともいえるところだが、昨日のトレースがかなり散乱していて、雪面はかなり荒れていた。雄国山からはほとんどトレースがなかっただけに、10数人ものトレースには驚いたが、しょうがないので、この沢沿いの急斜面はキックターンや横滑りで慎重に下った。今日は悪天候の中、なんとか無事にラビスパまでたどりつけたという、小さな達成感だけが残った一日であった。