吾妻小舎ではストーブを囲みながら大勢の先客で賑わっていた。小林さん5人組は2時過ぎに到着したらしく、缶ビールを並べて早くも窓際で盛り上がっている。私達も濡れたものをひととおり吊し終えると早速缶ビールで乾杯をした。菊池氏はさすがに今日の行程はきつかったのか、小屋に入ってきても生気を失ったような状態だったが、アルコールが入るといつもの元気を取り戻していた。二宮氏は今日の疲れなどなんともないような涼しい顔をしている。夕食はそれぞれに持ち寄った食材とアルコールでいつにない楽しいものになった。私はいつものように缶ビール1本で簡単に酔ってしまい、8時前には布団に潜り込んだ。その夜は温かい布団とストーブのおかげで下界で眠るよりも快適な一夜を過ごすことができた。
早朝、まだ暗いうちに起き出してみると空は満天の星空であった。天候は心配なかったが、私は不覚にも軽い二日酔いになってしまい、朝から頭が少し重かった。賑やかな朝食を終えると、小林さん達は東吾妻経由で高山を下るとのことで7時には出発してゆき、私達は7時20分に小舎を出た。しばらく東吾妻から野地温泉へ下るという人達のトレースがあったが、途中でその人達を追い越すと踏跡もなくなる。小屋を早くでたおかげで今日の高山下りは私達が一番乗りになったようである。今日は昨日の悪天候がウソのように晴れ渡り、堅く締まった雪に10〜20センチ程度の新雪が積もっているので快適なシール登高だ。ラッセルに汗が流れたが、意外とペースは早くて鳥子平からは40分程で高山の山頂に到着した。東の空に雲が多く、残念ながら安達太良山方面は見えなかったが、雲の間から土湯温泉が見え隠れしている。振り返ると東吾妻方面は晴れており、しばらくは天候の心配はなさそうであった。
小休止後、シールをはずしていよいよ高山からの滑降となる。山頂から樹林帯に入るまでの急斜面は一番乗りだけにノントラックであった。この手つかずの斜面をスキーで下る快適さを何に例えたらいいのだろうか。予想以上の深雪に二宮氏もめずらしく転倒していたが、ここでの雪との戯れはいつもながら楽しいばかりだ。樹林帯にはいると適度なパウダーとなり、このコースがはじめての二宮氏もあまりの快適さに快哉を叫びながら下ってゆく。それでもコースは長いので下っても下ってもツリーランが続く。菊池氏がどうしても遅れがちになるので、途中で何回か待つこととなったが、好天に恵まれた今日はそんなのんびりとした時間も楽しい。長い行程もスキーで下れば早く、高山からは1時間ほどで中間地点の通称「フンドシ」まで下りてきてしまった。振り返ると高山の山頂はすでに遠く離れていた。「フンドシ」で小休止後は一気に林道まで滑降して行く。さすがに標高が低くなると雪面は堅く荒れたものになり、快適さとはほど遠いものになったが、幸いに林道はまだ除雪されていないので、土湯温泉まではスキーで下って行くことができたのは幸いであった。ただし、先を飛ばして行った二宮氏が、林道の終点まで滑走してしまい、温泉街に出るまでにはいつもよりも2kmほど余計に歩かなければならなかった。