ラッセルを覚悟して登り始めてみると、最近の好天で雪はかなり締まり、スキー靴程度しか沈まなかった。これならば楽々と登って行けそうだと安心したのもつかの間、最初の急斜面の登りはさすがにきつくて、稜線までは結構時間をとられてしまった。尾根に登ってからは一転してなだらかなシール登高となった。カミさんは広々とした緩斜面を歩きながら、今から下りの滑降が楽しみのようであった。しかし順調だったのも最初の1時間ぐらいで、春先を思わせるような気温の上昇に、次第にスキーが重くなり気づいた時にはシールに巨大なダンゴが張り付いていた。途中でシールワックスを掛けてはみたものの、いったん濡れてしまったシールにはほとんど役立たずであった。こうなると快適なはずのシール登高も地獄のようなものになる。ストックで雪を叩いたり、灌木にスキーを擦りつけたりしながら、あれこれ試してみるものの効果はなかった。山頂まではまだ距離はだいぶ残っており、カミさんはもう引き返してもよいような事をいい始めていた。
稜線にようやく登り着くと、目の前に突然磐梯山の山塊が現れる。疲れ切っていたカミさんもこの光景を見て表情が少し明るくなったようである。振り返れば吾妻連峰が大きく、右手には安達太良山、そして左手には飯豊連峰が聳えていた。前方のピークを越せば雄国山ももうまもなくだ。雄国山の山頂にはちょうど4時間かかって到着した。今日は予想外の長丁場であった。しかし、登ってしまえば快晴の空と見渡す限りの展望には何もいうことは無かった。スノーシューできた登山者が一人いるだけの静かな山頂であった。ラビスパから登ってきたのは私達だけであったが、雄国沼からの登山者で賑わったのか、踏跡が山頂の至る所に散乱していた。
登りでは苦労させられたが、シールを剥がせば快適な滑降が待っている。山頂からは適度な斜度と柔らかい新雪が続き、まるで山スキーのためにあるような斜面を満喫する。ブナの疎林も美しく、途中で何度も立ち止まっては春のような景色を堪能した。広々としたブナ林を下って行くとたちまち鞍部に着いてしまい、ここからは再びシールを貼って、1102mピークまでの登り返しとなる。この登り返しさえなければ、といつも思うのだが、これはないものねだりというものだろう。ピークから少々込み入った樹林帯を抜け出ると最後の急斜面となる。この斜面もテレマークスキーにはちょうど手頃ともいえるパウダーだったが、カミさんにとっては斜度が少しきつかったこともあり、横滑り、キックターンなどで凌いだ。この区間で少し時間をとられたものの、慎重に下れば特に問題はなく、潅木帯を抜け出るとラビスパの駐車場は目前であった。今日はまだ1月だというのに、まるで春山を感じさせるような暑い一日が終わった。