山 行 記 録

【平成16年12月11日(土)〜12日(日)/安達太良山から和尚山



峰ノ辻から牛ノ背に向かう(二日目)


【メンバー】3名(伊藤、清水、蒲生)
【山行形態】冬山装備(アイゼン)、営業小屋泊(県営くろがね小屋)※自炊3,570円
【山域】奥羽山脈南部
【山名と標高】安達太良山 1,700m、和尚山1602m
【天候】11日(曇り)、12日(快晴)
【行程と参考コースタイム】
(1日目)奥岳登山口10:00〜勢至平分岐11:20〜峰ノ辻12:20〜牛ノ背12:50〜峰ノ辻13:00〜くろがね小屋13:30(泊)
(2日目)くろがね小屋7:30〜峰ノ辻8:00〜牛ノ背8:30〜安達太良山8:45-9:00〜和尚山10:30-50〜安達太良山12:00-15〜ゴンドラ分岐13:30〜五葉松平13:40〜奥岳登山口14:30

【概要】
冬の安達太良山は我が山の会の事業としては今回で3回目となった。しかし、過去2回とも風雪や悪天候に阻まれて、くろがね小屋や峰ノ辻で引き返している。夏山ならばハイキング程度の山であっても12月の安達太良山はなかなか手強く、簡単には山頂を踏ませてもらえなくていた。

あだたら高原スキー場に着いてみると、雪はどこにも見あたらず、今日から運行するはずだったゴンドラも、一週間延期になっていた。今年の異常なまでの暖冬にはがっかりするばかりだが、今日も雪の降る気配はなく、朝から青空の広がる空模様には、素直に喜んで良いのか複雑な心境であった。保険のつもりで一応アイゼンをザックにいれ、勢至平をめざして林道を登りはじめる。山道に入ると半分ぬかるみとなっていて、たちまち登山靴がドロだらけになって閉口した。雪は勢至平が近づく頃から少しずつ現れ始めた。いつのまにか薄雲が広がり始め、冷たい風が吹き始めたのを機に、ウインドブレーカーを羽織った。勢至平からは峰ノ辻経由で山頂に直接向かうことにした。見上げると安達太良山は厚い雲に閉ざされて中腹から上は全く見えなかった。

峰ノ辻までくると、くろがね小屋を発ってきたと思われる登山者の往来が目立ち始めた。みんなザックを小屋に置いてきたのか空身であった。視界が効くのは峰ノ辻付近だけで、牛ノ背の稜線や山頂付近は相変わらずガスに覆われたままである。私達はどうするか迷ったが、まだ正午を過ぎたばかりなので、取りあえずゆけるところまでいってみることにした。峰ノ辻からは積雪は少ないながらも完全な雪道となった。冷え込みはさすがに厳しくなり、両手の指先の感覚が半分なくなっていた。牛ノ背が近づくとさらに風が強まり、吹き飛ばされそうなほどの強風に体が煽られる。どうにか牛ノ背にたどりついたものの、濃霧が吹き荒れる中では方角がまるでわからなかった。少し山頂方向に進んでみたが、目も開けていられないほどの強風に何回も立ち止まったりした。こういう場面を想定してGPSを持っては来ていたのだが、全く視界がない状態では楽しみもあったものではなく、今日の山頂はあきらめて牛ノ背から引き返すことにした。

峰ノ辻まで戻ると強風も治まり、ようやく視界が戻った。くろがね小屋では、まだ昼を過ぎたばかりというのに、大勢の登山者でごったがえしていた。団体がいくつも入っているのか、テーブルには缶ビールや日本酒のパックが多数並べられ、傍らでは大勢の人達がストーブを囲んで、早くも宴会がたけなわのようであった。今日の山小屋は満員のため私達は部屋に入ることができなかった。そのかわり2階部分の廊下をあてがわれたのだが、そこは私達だけの貸し切りであり、狭い部屋で窮屈な思いをするよりも、のびのびとくつろぐことができたのはかえって幸いであった。

受付を済ませれば私達も宴会の準備である。今日はいつになく大量の食材をザックに詰め込んできていて、食べきれるかどうかさえ不安になるほどであった。まず、昼食と酒の肴を兼ねて、熱々のおでんを作り、ステーキを焼き、せっせと食材の消費に精力を注いだ。そして明日の好天を祈って早速乾杯をする。ほどよく酔いがまわったところで、宴会は一時中断とし、次はお待ちかねの温泉である。今回は(今回も?)全く何をしに山にきたのかわからないような状態であった。入浴後は夕食までの間、しばらく布団に入ってひと眠りした。眠りから覚めれば、夕食の宴会第2回戦である。今度は魚介類盛りだくさんの寄せ鍋を囲みながら、気付いてみれば持参したウイスキーや焼酎の瓶はほとんど空になっていた。周りの宿泊者達もすっかり出来上がっており、みんな底なしのように飲み続け、そして食べ続けているかのようであった。かなり酔いも回った頃、団体の中の一人がケーナの演奏を始め、酒の勢いもあってか、この日の山小屋がさらに盛り上がった。私は就寝前にもうひと風呂を浴びてくることにした。その夜は満点の星空が広がっていて、翌日の好天を確信しながら床についた。

翌日は予想通り、朝から雲ひとつない快晴であった。馬ノ背が朝日を浴びてまぶしいほどに光り輝いている。冬の安達太良山にきてこんな日は滅多にないだろうと思われるほど晴れ渡っていた。同宿した人達は、こんな天候に待ちきれないのか朝食を終えると、7時前後には次々と小屋を出ていった。私達はのんびりと朝食を済ませて小屋を7時半に出た。峰ノ辻からは昨日と同じコースをたどることにして牛ノ背に向かった。昨日の悪天候がまるでウソのように今日は快晴の空が広がり、苦労しながら牛ノ背を往復したことが信じられないほどであった。牛ノ背からは真っ白に輝く飯豊連峰がさっそく目に飛び込んできた。そして荒涼とした沼ノ平を久しぶりに眺めた。

安達太良山の山頂からは360度の展望が広がる。蔵王連峰や吾妻連峰、磐梯山など、ここから見える山を数え上げればきりがないほどであったが、北の空にポッカリと浮かぶ、ひときわ白い飯豊連峰が特に目立った。見上げれば広い青空に雲ひとつ見あたらなかった。天候の崩れはなさそうなので、私達は予定どおり和尚山を往復してくることにした。コースはいったん大きく下り、鞍部からは和尚山の南の肩まで200mほど登り返す必要がある。和尚山までは登山道が白い道となって山頂まで続いていた。しかし下り始めのガレ場はどこが登山道なのかはっきりとしなかった。分かれ道を半信半疑になりながら進むと、ついにはヤブ漕ぎをするはめになってしまい、本来の登山道に戻るまでに30分近くロスをしてしまった。登山道に出てしまえば何ということもないのだが、マイナーな山ゆえか、この出だしが核心部みたいになってしまった。鞍部付近からは雪道となったが、風もないので暑さに耐えられず、途中でアウターを脱ぐ。和尚山をめざす人は私達3人の他にはなく踏み後もなかった。安達太良山の賑わいとは対照的に、この和尚山はすぐ近くにありながらも意外と歩かれない山なのかもしれなかった。

和尚山の南の肩に立つと、磐梯山の左手には大きな猪苗代湖があり、安達太良山もこれまで何回も仰いでいる姿とは様子が違っている。今日は眺める風景が新鮮であった。肩からは稜線沿いに進むと思われた登山道が次第に右に逸れて行き、石がゴロゴロする箇所をトラバースしなければならなかった。ちょうど日陰に入ってしまい体が冷えてしまったが、再び稜線に飛び出すと強い日射しが戻ってホッとする。左手には安達太良山の山頂と、稜線の先にはゴンドラ乗り場が小さく見えた。この付近の積雪は20cmほどで、季節外れの陽光の下では、まるで春山を歩いているような快適さであった。気持ちの良い稜線を進むとまもなく石筵への分岐に到着した。昨日の登山者なのか、まわりには踏み後が散乱していたが、三角点へと歩いた形跡はなく、みんなここから石筵口へと引き返していったようであった。分岐から三角点へ向かうと登山道は少しずつ下り始めた。道は極端に不明瞭になり、ついには途中からヤブ道となってしまい、道がなくなってしまった。私はGPSをたよりに強引にヤブを漕いでみたが急に嫌になってしまい進むのをやめた。GPSでは三角点まで残り140mほどだったが、私は三角点へのこだわりはないので、石筵への分岐まで引き返して休むことにした。和尚山は「福島県の山」(山と渓谷社)に60名山の一つとして載っているにもかかわらず、三角点までの道がないのはどう考えても寂しかった。標高は三角点よりも分岐点のほうが30mほど高いので、私達は分岐点を和尚山の山頂と決めてザックを下ろした。そして熱いコーヒーを飲みながらこの和尚山からの展望をこころゆくまで楽しんだ。

安達太良山へは正午ちょうどに戻った。安達太良山を9時に発っていたので、和尚山の往復にはちょうど3時間かかったことになる。腰をおろし、登ってきたばかりの和尚山を眺めていると、今まで燦々と降り注いでいた日射しは少しずつ陰り始めていた。安達太良山の山頂からは五葉松平経由で下ることにした。このコースは久しぶりであった。ゴンドラ乗り場まではいつのまにか登山道がきれいに整備されていて驚いた。木道や階段が以前よりも格段に歩きやすくなっていた。途中、仙女平への分岐付近でカップラーメンを作り昼食兼休憩をとる。今日はさすがに長い行程を歩き続けてきただけにこのラーメンが極上のような味がした。ゴンドラ乗り場への分岐を右に見て、五葉松平へは左へのコースを下って行く。薄雲が広がりだしたとはいえ見晴らしは良く、下界を見下ろしながら下るのは快適であった。まもなくゲレンデに飛び出し、途中から往路の林道に出ると、あだたら高原スキー場の駐車場まではまもなくであった。雪のないゲレンデには人気もなく寂しいばかりであった。今回は冬山とはとてもいいがたいような山行だったが、予想以上の好天に恵まれたことでよしとしようか。考えてみればこのメンバーでは6日目にしてやっと天候に恵まれたのである。しかし、雪がこんなに待ち遠しく感じられたことはなく、私は祈りにも近い感情が募るばかりであった。


安達太良山山頂



和尚山(奥)を背に下り始める
(安達太良山山頂)


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