山 行 記 録

【平成16年11月22日(月)〜23日(火)/朝日連峰 古寺鉱泉から大朝日岳



小朝日岳山頂から大朝日岳を望む


【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備、避難小屋泊
【山域】朝日連峰
【山名と標高】古寺山1,501m、小朝日岳1647m、大朝日岳1870.3mm
【天候】(22日)晴れのち曇り(23日)晴れ
【温泉】西置賜郡白鷹町 鷹ノ湯温泉「パレス松風」300円
【行程と参考コースタイム】
(22日)古寺鉱泉8:50〜一服清水10:00〜三沢清水10:30〜古寺山10:50-11:00〜小朝日岳11:30〜銀玉水12:30-40〜
    大朝日小屋13:10(泊)
(23日)大朝日小屋7:10〜大朝日岳〜大朝日小屋発7:50〜小朝日岳9:00-25〜古寺山9:45-55〜古寺鉱泉11:15

【概要】
11月上旬に続いて二週間ぶりの朝日連峰である。前回は楽しみにしていた雪景色などどこにも見あたらなくてがっかりしたのだが、先週末登った人の情報ではハナヌキ分岐付近から積雪があったというから、今回は期待しても良さそうであった。さらに今日と明日の2日間は好天の予報が出ているのもうれしい。積雪量次第という面はあるものの、天候にさえ恵まれれば、古寺鉱泉からは比較的手軽に初冬の雪山を楽しめるコースである。

11月下旬の古寺鉱泉はすでに晩秋というよりも初冬の雰囲気に包まれていた。さすがにこの時期は冷え込みも厳しく、氷点下のような気温に体が震えた。駐車場には軽自動車が1台だけで登山者は見あたらない。古寺鉱泉に登山届を提出して裏手から登り始めると、樹林帯は以前よりもさらに葉を落としており、すかすかになった山肌にはまぶしい日射しが降り注いでいた。今日は小屋泊まりということもあり、昨日の慌ただしい山登りとは違って、どちらかというと骨休めの気分である。尾根に上がる頃には冷えていた体も暖まり、汗が流れたところで下着一枚になった。

紅葉は完全に終わりを告げ、裸になったブナの枝が初冬を感じさせたが、肝心の雪はハナヌキ分岐を過ぎても見えなかった。前回同様、最近の好天でほとんど解けてしまったようである。雪はようやく三沢清水付近から少しずつ現れたが、今日の陽射しでは残らず消えてしまいそうであった。古寺山近くからはいよいよ雪道が続くようになり、ひさしぶりの雪の感触にうれしくなる。雪道には昨日の日曜日のものと思われる足跡が古寺山まで数人分続いていた。古寺山からは一人分の踏跡となったが、良く見るとそれは今日の踏跡であり、小朝日岳直下の分岐からは巻道へと迂回している。小朝日岳を卷くところをみるとこの人も小屋泊りだろうか。小朝日岳山頂への急坂は北斜面ということもあって雪が堅く凍り、キックステップも効かなかった。小朝日岳の山頂からは冠雪した朝日の主稜線が正面に飛び込んできた。あいにく稜線は雲に隠れていたものの、ようやく新雪に覆われた朝日連峰を目にすることができて何となくほっとした気分であった。

銀玉水は雪に埋もれていたが水はまだ豊富にでており、4リットルほど水筒に汲んでから小屋に向かった。銀玉水からは雪はさらに多くなる。アイゼンは必要ないものの、キックステップもきかないのがちょっとつらいところだ。振り返ると雪道が小朝日岳から一本の白い線となって続いているのが見えた。しかし晴天に恵まれたのもこの辺りまでで、最後の急坂を登っている途中から雲の中に入ってしまうと、視界がほとんどなくなってしまった。雪こそ降らないものの、まるで吹雪を思わせるような予想外の悪天候である。早くも冬山の洗礼を受けたような形になり、この天候の急変にはさすがに気持ちが萎えてしまった。小屋まではいくらもないので不安は少なかったが、大朝日避難小屋はガスの中から突然目の前に現れた。

大朝日避難小屋の入口付近には雪の吹き溜まりが少しある程度であった。こんな天候の時の山小屋ほどありがたいものはなく、小屋に入るとさすがに安心感に包まれた。小屋では地元の人だという先客が一人シュラフに入って休んでいた。小屋の中は冷え込みが厳しく、気温を測ってみると2度しかなかった。私もシュラフに入りながら昼食の準備を始めたが、指先の感覚がなくなるほどの寒さに、フリースの手袋はその後もずっとはずせなかった。まだ昼を過ぎたばかりというのに小屋の中は薄暗くて日没後のようであった。しばらく本を読んだりしながら晴れるのを期待していたが、結局この日は天候が回復することはなかった。この日の小屋泊りは、山形のKさんという地元の人と二人だけであった。

夜、大きな風の音で目が覚めると、凍り付いた小屋の窓からは煌々とした月明かりが漏れていた。雲に隠れるたびに小屋は再び暗闇に包まれる。それはまるで台風の夜に、裸電球が風に大きく揺れながら、明滅しているような情景を思い起こさせた。朝方にはもっと寒くなるだろうと、水筒をザックに入れたりして凍結に備えたが、その夜は氷点下2度まで気温が下がった程度で、コッヘルに入れて置いた水は凍ることはなかった。

翌日も荒れ模様は治まらなかった。しかし、朝食の準備をしている頃からようやくガスが晴れ出し、オレンジ色に輝く朝日が時々雲の間からのぞくようになった。時間が経つにつれ、鳥原山の山並みも見えるまでに回復したのを確認すると、私はとりあえず大朝日岳を往復してくることにした。強烈な風はまだ治まらないので完全防備で出発する。登山道はけもの道にもなっているのか、様々な動物たちの足跡が山頂まで続いていてなんとなく楽しい。山頂からは朝日の主稜線をはじめとして大展望が広がっていた。鳥海山や飯豊連峰は雲に隠れていたが、月山や祝瓶山がすぐに視界に飛び込んできた。早朝の山々の神々しさには言葉もでてこない。冬山はただそれだけで美しく、眺めていると飽きることがなかった。まもなく山形のK氏も三脚やカメラを担いで山頂へ登ってきた。

小屋に戻ってザックをまとめ、下山に取りかかる。風はまだ冷たかったが、銀玉水からは穏やかな天候が戻り、防寒着などは不要となった。早くも古寺鉱泉から登ってくる登山者がちらほらと目立ちはじめ、熊越から小朝日岳へ登っていると、二週間前、山小屋で一緒だった鶴岡の佐藤さんに出会った。熊越で佐藤さんと出会うのはこれで3回目となり、なんとも不思議な縁だなあとお互いに笑ってしまった。古寺山山頂では最後の展望を楽しみながらのんびりと休憩をとった。ここでも休んでいる間に日帰りの登山者が次々と登ってきたが、まもなく山形のK氏が早くも追いついてきたのを機に一緒に下ることにした。この頃になると、少しだけ残っていた薄雲もすっかり消えてしまい、上空は小春日和のような快晴の空が広がっていた。古寺山から古寺鉱泉までは小一時間もあれば下ることが出来る距離である。先を急ぐ必要は全くなかったが、私は冬山の一端を味わったことで、すでに思い残すことはなくなっていた。



大朝日岳山頂から祝瓶山を望む



大朝日岳山頂



山頂直下から


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