はじめは機動力を利用してロープウェイ、リフトと乗り継いで時間の節約をはかるつもりであった。しかし、今日のような寒空では、ただじっとしてリフトに乗っているというのがかなりつらくて、第1リフト終点からはゲレンデを歩いて登ることにした。それでも寒くて、途中から防寒着を着込み、冬用のタイツをはいた。今日はどう考えても冬山用のアウタージャケットが必要な空模様であった。この時点で今日の谷地平は断念することに決めて、後はゆけるところまでいってみることにした。ゲレンデはうっすらと雪化粧をしており、絶えず小雪が舞うなかで視界は50mもなかった。好天に恵まれれば紅葉狩りの観光客で溢れるところだろうが、今日のこんな天候では登山者がちらほらと数える程度であった。
北望台から人形石までの間は、凍った石の上に雪が薄く載っているので、非常に滑りやすく慎重に登った。樹林帯を抜けると吹きさらしの稜線となった。標柱は凍りつき、モノトーンの風雪模様は完全な冬山の風景を示している。それでも人形石では写真を撮ったりしている登山者が数名いたが、ホワイトアウトのような悪天候ではとても休憩するような気分にはなれず、すぐにカモシカ展望台に向かった。木道は雪で白く覆われ、潅木にはエビのシッポがびっしりと張り付いていた。
北望台から少し下ると、雪雲からようやく抜けだして、下界の見晴らしが利くようになる。しかし、ゲレンデを歩いているのは誰も見あたらなかった。眼下に天元台のペンション村が見えてくると、ようやく日差しも差しはじめて、周りの景色にも色彩が戻ってきた。上空にはまだ雪雲が居座っていたが、米沢市内は晴れ間が広がっているようであった。さて、新高湯温泉への登山道はどこだろうか?と探してみると、半分朽ちかけたような「至 新高湯温泉」という標柱が、しらかばゲレンデの末端近くにひっそりと立っていた。この下山口は探す気にならないとなかなかわかりずらい場所にあって、見つけたときはちょっと不思議な感動さえ覚えた。標識によると温泉までは800mとあった。
新高湯温泉までは石が積まれただけの急勾配の登山道だったが、「新高湯〜人形石」と書かれた古い標識も何枚か残っており、ここは古くから歩かれているしっかりとした山道であった。苔に覆われた大きな石とまわりの雑木林の紅葉が鮮やかで、このしっとりとした美しさに何度も感激しながら下った。やがて車の発着する音が聞こえると、まもなく眼下に新高湯温泉の一軒宿である「吾妻屋旅館」の建物が見えてくる。旅館の前には何台もの車が停まっていて、県内外からたくさんの観光客や入浴客が訪れているようであった。
新高湯温泉からは舗装された車道歩きとなる。いつもならば閉口しそうな舗装道路も、今日は紅葉を眺めながらだから苦になることはない。路上にはいつのまにかまぶしい日差しが降り注いでおり、周囲の紅葉にも鮮やかさが戻っていた。大樽川源流の沢音が響く中を30分ほど歩いてゆくと、終点、ロープウェイ湯本駅まではまもなくだった。今日は約500m登って1050m下るという変則的な山登りだったが、以前から気になっていたコースを歩けたことで、普通ならば初級者向けのハイキングコースが、予想外に充実した山歩きとなった一日であった。