今日の天気予報では快晴のはずであった。しかし磐梯山一帯は広く薄雲に覆われていて、一向に薄日も射さない上空を見上げてはため息をつくばかりだった。長袖シャツを着ていても膚寒く、今日は始めから防寒着まで着込んで歩き出した。歩き始めこそ登山者は数えるほどだったが、まもなく団体の登山者達で渋滞気味となり、これからの道中を思うと気が滅入った。
このところの冷え込みで紅葉は一気に進み、裏磐梯一帯では紅葉が盛りを迎えていた。周囲のブナ林は日差しがないだけにかえってしっとりとした秋の風情を感じさせるようであった。中ノ湯を過ぎると、左手に裏磐梯の湖沼群が見えてくる。急ぐ必要もないので私達は見晴らしのよい場所に出たところでのんびりと休憩をとった。樹林帯を歩いているうちにいつのまにか汗も噴き出し、途中からは二人ともTシャツ一枚になった。まもなく樹林も低くなると、猫魔ヶ岳の後方には冠雪した飯豊連峰が見えるようになった。飯豊には明日登る予定をしていたが、早くも多くの雪で覆われた稜線をみて驚くばかりだった。
弘法清水までくれば山頂まではもうひと登りだ。猪苗代コースとの合流点ともなっている弘法清水では、2軒の売店もあるので今日も大勢の登山者で賑わっていた。上空には相変わらず厚い雲が居座り日差しはなかったが、北側を見下ろすと磐梯高原口からも次々と登山者が登ってくるのが見えた。山頂からは早くも下ってくる登山者が目立ちはじめ、ここではすれ違いに時間がかかった。最後の急登に再び汗が流れたが気温は少しも上がらず、Tシャツ一枚ではさすがに膚寒さを感じるようになっていた。
磐梯山山頂には2時間15分かかって到着した。岩場の至るところに大勢の登山者が張り付いているといった状態で、今日の異常ともいえるほどの混み具合では、ザックをおろす場所を探すにも苦労するほどであった。山頂では今にも雪が舞いそうなほどの冷たい風が吹き、猪苗代湖を見おろせる奥まで進むと、二人ともすぐに防寒着を羽織った。そしてこんな寒い日には温かいものが一番と、早速ガスコンロをザックから取り出してお湯を沸かした。
天候はいまひとつだったが、飯豊連峰や、吾妻連峰、そして安達太良山、那須岳、燧ヶ岳といった、通常、この山頂から見えるはずの山々はほとんどを見渡すことができて、今日の展望はまずまずといったところである。猫魔ヶ岳から猪苗代湖にかけて麓を覆っている一面の雲海も美しく、この展望を楽しむことができただけで今日は満足であった。しかし、日差しがないだけに紅葉にはいつもの華やかさがなく、周囲の山々にはまるで晩秋の寂しさが漂っていた。1時間近く山頂で休憩していたが、体はいつのまにか冷え始めていて、私達は下山後の温泉を楽しみに磐梯山の山頂を後にした。