この週末に予定していた山の会主催の飯豊縦走は台風のため中止となり、その代替案として急遽、この南会津の秀峰、会津朝日岳に登ることになった。台風一過とはいえ、今日の東北地方は雨模様のところが多く、予報によると快晴に恵まれそうなのはこの南会津だけであった。私は2年前の6月、一度この会津朝日岳に登っているが、今回は紅葉の時期に登れるとあって、まるで初めて登るような期待感がある。駐車場に着いてみるとすでに10台ほどのマイカーでスペースは一杯になっていて、そのほとんどが関東圏からのものであった。準備をしているとさらにマイクロバスまでがやってきて、20名ほどの団体が一団となって登っていった。やはり東京からの人達であったが、この会津朝日岳は唖然とするほどの人気ぶりであった。
昨日の台風の影響だろうか。急坂の取り付きまでは登山道に沢水が溢れ出していて、まるで沢歩きのような状態になっていた。最後の赤倉沢の渡渉地点もかなり水量が増しており、今回はストックを補助にしてかろうじて渡渉できるような状態であった。しかし尾根に取り付くと今日の好天に早くも登山道は乾き初めており、「人見の松」からは快適な稜線歩きとなった。かなり色づき始めた潅木は暑いくらいの陽射しを受けて眩しいほどに輝いている。この鮮やかな紅葉を眺めているだけで先週末、悪天候の朝日連峰で鬱積していた気持ちがすっかり消え去ってしまうようであった。
その後、私達3人はマイクロバスの団体達と抜きつ抜かれつしながら、紅葉に彩られた山道をのんびりと登った。「叶ノ高手」を過ぎるとコースはいったん大きく下るようになり、前方にはようやく会津朝日岳の姿が現れるようになった。下りきった熊ノ平から少し登るとこのコース唯一の山小屋である熊ノ平避難小屋がある。そこでは私達より1時間ほど早めに登った5、6人の人達が最後の急坂を前に休憩をとっているところだった。熊ノ平避難小屋からは急坂をひと登りすると「バイウチの高手」というピークで、ここから会津朝日岳の山頂まではまもなくだ。急峻な岩場を登り切り、稜線から北に少し進むと、ようやく三角点と会津朝日岳の標柱の立つ頂上に到着した。
山頂では早めに到着していた大勢の登山者で賑わいを見せていた。山頂は狭いものの360度の大パノラマが広がり、会津や越後の名峰が一望のもとであった。この会津朝日岳の魅力はこの抜群の展望の良さに極まる、といってもいいだろうか。あいにく遠方の飯豊連峰や吾妻連峰は雲に閉ざされていたが、田子倉湖の背後に聳える秀麗な浅草岳を始めとして、越後三山から荒沢岳、守門岳、那須岳、博士山、御神楽岳などの会越の名山がずらっと並び、名前を上げていけばきりがないほどの大展望であった。私達は山頂の一角に陣取り、伊藤さんが持参してくれたビールのお裾分けを少しずついただいて乾杯をする。休んでいると先ほどの20名の団体達も加わって山頂はさらに大賑わいとなり、私達は会越の名山をのんびりと眺めながら、山頂での休憩を心ゆくまで楽しんだ。
下山はもとの道を引き返すコースとなる。午前中にもまして澄み切った青空が広がり、風もなくなったせいか、まるで9月のような陽射しが降り注ぐ。汗を拭いながらひたすら尾根を下っていると、徐々に赤倉沢の沢音が大きくなり、三吉ミチギの水場で乾ききった喉を充分に潤した私達は、下山後の温泉を楽しみに登山口をめざして下り始めた。