山 行 記 録

【平成16年9月23日(木)〜24日(金)/肘折温泉〜月山〜湯殿山神社】



紅葉の千本桜付近から月山を仰ぐ


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(念仏ヶ原避難小屋)
【山域】出羽三山
【山名と標高】月山 1,984m
【天候】23日(晴れのち曇り)、24日(晴れ)
【温泉】
山形県東田川郡朝日村大字田麦俣 湯殿山温泉「湯殿山ホテル」400円
【行程と参考コースタイム】
    長井(車)赤湯6:26(JR)6:56山形7:04(新幹線)新庄8:35(バス)肘折温泉9:30
(1日目)肘折温泉9:40〜登山口10:45-11:00〜大森山(標識)11:20〜ネコマタ沢12:15-25〜赤砂山南肩12:45〜赤砂沢13:10〜小岳14:15〜念仏ヶ原小屋15:00(泊)
(2日目)念仏ヶ原小屋5:30〜立谷沢橋6:20〜千本桜8:10〜月山山頂9:15-30〜牛首分岐9:52〜金姥分岐10:05〜装束場10:37〜湯殿山神社11:00
    湯殿山神社11:10(バス)11:20湯殿山ホテル12:01(高速バス)13:20山形1337(JR)赤湯(車)長井
  
【概要】
肘折温泉から念仏ヶ原を経て月山へと至るコースは、数ある月山の登山ルートの中でも特に長大で、出会う人も稀なほど静寂なコースとして知られている。また念仏ヶ原は弥陀ヶ原湿原と並んで月山の二大湿原といわれており、山の奥地にポッカリと浮かんだ桃源郷のような台地は、秘境と呼ばれるに相応しい知る人ぞ知る景勝地でもある。このルートは積雪期において、月山から肘折温泉へテレマークスキーでは何度か下っていたが、肘折温泉からの逆コース、それも夏道を歩くのは初めてであった。本音を言えばスキーと同様に月山から下るルートの方が体力的にもずっと楽なのだが、やはり登ってこその肘折ルート。折しもちょうど紅葉の時期を迎えて、長いコースを歩くには最高の季節でもある。

赤湯駅に車を置いて、そこからはJRとバスを乗り継いで肘折温泉までゆく。山形始発の新幹線にはザックを持った乗客がかなり乗り込んだが、新庄で下りたのは私一人だけで、肘折温泉行きのバスも私以外に乗客は見あたらなかった。ロングコースのため早立ちをしたかったが、新庄からはまだ1時間ほどバスに乗らなければならず、肘折温泉のバス停から歩き出した時は、すでに10時近い時間になっていた。車が2台あれば前日のうちに下山口に回したりして早朝の出発も可能だったのだが、単独ではそうもゆかず、交通機関を利用するとどうしてもこんな時間になってしまった。心配していた空模様は、曇り空ながらもときどき陽も射すまずまずの天候であった。肘折温泉のバス停からは4kmほどの林道歩きが続く。途中で栗拾いをしながらのんびりと道中を楽しんだ。約1時間で登山口に到着すると、そこにはりっぱな標柱が立っていた。標柱には「念仏ヶ原避難小屋まで9km、月山山頂まで17km」書かれてあり、ここまで4km以上も歩いてきたのに小屋まではまだずんぶん遠いなあと気が遠くなりそうであった。登山口からは本格的な山道となり道はしっかりとしていたが昨夜の雨だろうか。道は草露に濡れているので途中からスパッツをした。

杉林の急坂を登るとまもなく大森山の南西斜面をトラバースするようになる。スキーでは大森山の山頂を経由するので、この巻道はとても新鮮であった。大森山の標識付近で見晴らしが利くところがあり、正面奥には赤砂山らしきピークが見えた。鞍部からは尾根の北側をトラバース気味に登って行くのだが、道が傾いているためかこの付近はとても歩きずらく感じるところだ。途中、道端に一面キノコが生えているのをみて少し採ってゆくことにした。キノコはほとんどわからないのだが、食べられそうなものだけ選んで3種類ほど採ったところ、ビニール袋一杯となってしまいザックがかなり重くなってしまった。ミズナラとブナの樹林帯が続いたが、まもなくブナだけが目立つようになり、道はまもなくネコマタ沢へと下って行く。ネコマタ沢は小さな流れであったが、スキーで下ったときの割合に広々とした感じとは全然違っていて、鬱蒼とした樹林に囲まれていて方角さえよくわからない。小休止後、赤砂山への急坂が始まったが、ここも鬱蒼としたブナ林に覆われていて、初めてであればとても不安にかられそうである。赤砂山の南側を卷くようになると道は少し平坦となり、「一の地」と一緒に「赤砂山」の標識が現れる。ここは大蔵村と立川町の境界となっているようでもあった。気温はそれほど高くはないのだが、蒸れるためか汗が止まらず、シャツはびしょ濡れになっていた。やがて立谷沢川の支流である、赤沢川へと下ってゆく。標高差にして120mほどだが、このもったいないほどの下りにはがっかりした。赤沢川を石伝いに渡渉すると対岸からはふたたびダラダラとした登りとなった。展望もないので意外とこの区間は長くてうんざりした。

小岳の直下までくるとようやく「登山道入口」と大きく書かれた見覚えのある国立公園の標識が現れた。ここから念仏ヶ原避難小屋までは2.3kmとあり、長かった行程もようやく先が見えてきた感じがした。小岳までは階段が設けられていて一気に登ると、まもなく視界が広がり、木道と共に湿地帯が現れた。今まで薄暗い樹林帯の登山道が続いただけに、この小岳の湿原には感激した。特に小岳の標柱が立っている一帯は草紅葉の草原となっていて、オヤマリンドウの枯れかかった渋くて美しい色合いと相まって見飽きることがなかった。小岳から下った鞍部には三ケ月池という池塘があり、ここは月山がちょうど正面に見えるところで、休憩するにはちょうどよい場所であった。鞍部からはなだらかな傾斜となり、高みから緩やかに下ってゆくとようやく念仏ヶ原の避難小屋に到着した。小屋は樹林帯に囲まれていて、春山の開放的で広々としたイメージとは全然違っていて意外であった。雪によってこの大きな樹林や灌木が跡形もなく埋まっていたのだと知り驚くばかりである。小屋到着はちょうど15時で、肘折温泉から14.5kmの距離を5時間20分かかった計算であった。

誰もいない山小屋はひっそりとしていた。今日の念仏ヶ原小屋は貸し切りのようであった。小屋の雑記帳を見ると、一昨日、関東からの登山者が一人泊まっていたが、他のページにもそれほど記載はなく、このコースを歩いている登山者はやはり多くはなさそうであった。ザックを入口に置き、さっそく水汲みなどをしながら小屋泊りの準備を始める。水場の下流が有名な外トイレとなっているところだが、小屋の裏側には新しいトイレも出来ていた。日が暮れかかっていたが、夕食前に木道を少し歩いてみることにした。あいにく雲に閉ざされて月山は見えなかったが、念仏ヶ原の湿原を実際に見るのは初めてで、黄金色に染まった湿地帯は美しく、ここまで歩いてきた疲れも吹き飛びそうであった。しかし、湿原にたたずんでいる間に濃い霧が少しずつ舞い降りてしまい、いつのまにか小雨が降りだしていた。念仏ヶ原からの展望は明日に期待するしかなさそうであった。小屋に戻って濡れたものを乾かし、小屋から布団を借りたりしながら寝具の準備を終えると夕食の準備をした。この山奥の山小屋にたった一人というのはさすがに不安が募ったが、すっかり暗くなったところでローソクに火を灯すと、不思議と気持ちが落ち着いた。私は缶ビールをあけて一人祝杯を上げた。その夜はラジオを聴きながらいつのまにか眠った。

翌日は4時半に起床した。まだ真っ暗だったが5時を過ぎると少しずつ明るさが増した。外に出てみるとガスはすっかり晴れていて、念仏ヶ原の湿原の向こうには褐色に色付き始めた月山が見えた。昨夜の雨もすっかり上がって、今日は好天に恵まれそうであった。カップラーメンで朝食を軽く済ませ、小屋を5時半に出る。すぐに木道となったが、濡れた木道は恐ろしいほど滑りやすくなっており、私は不覚にも数回転んでしまった。念仏ヶ原は潅木に仕切られた小さな湿原がいくつもあるところで、まるで尾瀬のような雰囲気が漂っているところだった。渋い色合いに包まれた草原と、朝のしっとりとした風景には言葉もでてこない。花々の咲き乱れる時期も華やかでよいものだが、草紅葉に包まれた念仏ヶ原は燻し銀のような美しさを感じさせた。その美しい風景を今日は独り占めなのだからこれ以上の贅沢はないだろう。ふと見上げると月山の山並みに朝日が差し、美しい茶褐色の山肌が輝き始めていた。

念仏ヶ原を抜けるとヤセ尾根の下り坂となり、やがて鎖のある急坂となって立谷沢へと下りて行く。立谷沢橋は新しくてしっかりした橋であった。立谷沢川からはかなりの急坂となった。台風でくずれたのかガレ場もあって結構難儀しながら登った。途中、ウメバチソウの群落があって、その瑞々しい花を眺めているだけで疲れていた体が癒されるようであった。急坂に汗が止めどなく流れたが、朝の清々しい風は涼しくて心地よいものだった。日の出から1時間もすると、太陽はかなりの高さまで昇っていて、頭上からはまぶしいほどの陽射しが降り注いでいた。立谷沢川の沢音が徐々に小さくなってゆき、やがて勾配ががくんと落ちると湿地帯にでた。ここはちょうど千本桜の急坂の直下付近であった。朝の陽射しを浴びて湿原は黄金色に輝き始めていた。急坂を登ると千本桜の湿地帯だ。ここはすでに大雪城の一角であったが雪渓はどこにも見あたらなかった。千本桜を過ぎると紅葉はさらに鮮やかさを増し、賽の河原へとなだらかな湿原が続いた。正面にみえる月山の山頂小屋が徐々に大きくなってゆく。山頂付近ではヘリコプターが何回も往復しており、その爆音が大きくなるに従って、念仏ヶ原から続いていた幸福な気分が殺がれるような気がした。どうやら何かの工事のための資材を運搬しているらしく、ヘリは八合目から往復しているようであった。

月山の山頂には9時15分に着いた。山頂小屋ではすぐ隣に新しいトイレを建築中で、ヘリはこの工事の資材を運んでいるようであった。さすがに肘折コースとは違って、姥沢口や羽黒口からは早くも登山者が何人も登ってきていたが、月山神社の営業はすでに終了しており、先日までの喧噪がまるでウソのように静まりかえっていた。山頂神社に参拝をしてから神社の裏側に回ってみると、鳥海山は雲に隠れて見えなかったものの、山頂からは360度の展望が広がっていて、久しぶりの眺望をしばらく楽しんだ。山頂から下ると牛首付近や紫灯森付近では平日にも拘わらず大勢の登山者に出会った。金姥からは姥ケ岳の北面を卷きながら装束場をめざして下って行く。この付近もスキーでは下っているものの夏道は初めてのところだ。途中、美しい湿原と池塘が現れたものの、月山の東斜面とは違って紅葉にはまだまだ早い感じがした。装束場からは月光坂の難所と呼ばれる長い鉄バシゴを下り、まもなく前方に湯殿山神社が見えてきたところで今回のロングコースは終了となった。今回はGPSで記録を取ってみたが、肘折温泉から湯殿山ホテルまではちょうど27kmの山旅であった。

湯殿山神社からはバスで湯殿山ホテルに向かい、ホテルではのんびりと温泉に浸って2日間の汗を流した。温泉から出てバス待ちの間に生ビールを飲んでいたが、ふとザックに入れたままになっていたキノコが気にかかり、湯殿山ホテルの女将さんやご主人にみてもらうことにした。するとその大半が食べられないものだとわかって非常にがっかりしてしまった。やはり慣れないことはするものではないなと反省したものの後の祭りであった。私はビニール袋一杯に膨らんだキノコを全部ホテルの近くに捨てた。無駄な荷物を2日間も延々と担いできた自分に腹が立ち、ビールのほろ酔い気分が一気に醒めてしまった。それからしぱらくすると急に疲れを感じてしまい、山形に向かう高速バスの中ではほとんど眠ったままであった。



肘折温泉から歩き出す



草紅葉に包まれる小岳の山頂付近



念仏ヶ原避難小屋から朝の月山(午前5時20分)



念仏ヶ原の湿原




千本桜付近の紅葉



賽の河原
月山の頂上小屋がまもなく



鍛冶小屋付近から牛首や姥ケ岳



紫灯森から金姥付近
右に下るコースは湯殿山へ続く



湯殿山の分岐と姥ケ岳



装束場付近の湿原と池塘
背後に聳えるのは品倉山


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