山 行 記 録

【平成16年9月7日(火)/十勝岳〜美瑛岳縦走】



十勝岳避難小屋


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、車中泊(山行は日帰り)
【山域】大雪山(十勝連峰)
【山名と標高】十勝岳(とかちだけ)2077m、平ヶ岳(ひらがだけ)2008m、美瑛岳(びえいだけ)2052m
【天候】晴れ
【温泉】トムラウシ温泉「東大雪荘」(日帰り入浴350円)
【行程と参考コースタイム】
望岳台5:30(930m)〜美瑛岳分岐6:15〜十勝岳避難小屋6:25〜十勝岳8:00-20〜平ヶ岳8:30〜鋸岳〜美瑛岳9:55-10:05〜ボンピ沢11:05-15〜雲ノ平〜美瑛岳分岐12:00〜望岳台12:45
望岳台=(R38・富良野・狩勝峠・新得町)=トムラウシ温泉「東大雪荘」(泊)

【概要】
十勝岳は今も噴煙を上げ続ける現役の活火山である。荒々しく削ぎ取られた崩壊斜面や稜線の無機質な景観と山容は、昨年登った浅間山を思い出すところだ。本来なら隣接するトムラウシ山から縦走したいところだが、マイカーの山旅ではそうもゆかず、白金温泉コースの往復となる。しかし美瑛岳を周回することで縦走気分はどうにか味わえそうでもあった。

昨夜は吹上温泉保養センター「白銀荘」前の駐車場に車を停めて寝た。台風18号が日本海を北上しているということで、天候が心配だったが、昨夜の雨はすでに上がっていて上空は晴れていた。4時30分に起床し、キャンプ場で水を補給してから望岳台へ向かった。望岳台の駐車場には車が4台だけで、岐阜ナンバーや水戸ナンバー、それに旭川ナンバーのレンタカーであった。昨夜は夕食もろくに食べていなかったので、レストハウスの軒先でインスタントの焼き蕎麦を作った。朝食を済ませると駐車場を5時30分に出発した。望岳台から十勝岳までの標高差は約1200m。午後から天候が悪くなるということで早立ちしたが、いまのところ視界も良好ですぐに崩れる心配はなさそうであった。ガイドブックによると、望岳台からは登山リフト沿いに登るとある。しかし、そのリフトは5年も前に取り壊されていてしまい、今は跡形もなくなっていた。高度が上がるにつれて、紅葉の色合いが増してゆく。秋がだんだんと深まって行くという感じであった。振り返ると雲海が麓の集落を一面に覆っていた。この時期、高山植物はほとんど見あたらず、登山道の周辺にエゾリンドウやシラタマノキが咲いている程度であった。むしろ紅葉の方が盛りといった感じで、早くも晩秋の雰囲気さえ漂っている。美瑛岳分岐を過ぎるとまもなく十勝岳避難小屋につく。もちろん誰もいなかったが、中を覗いてみると全くの避難小屋という感じの山小屋だった。携帯がつながったので、カミさんに台風状況などを聞いてみると、まだ山形では空模様に変化はないということを聞き安心する。小屋からはガイドロープにそって左手の尾根に登って行く。前十勝へ直登してゆくコースは1985年に閉鎖されたままで、現在はロープが張られて通行禁止となっていた。小沢を渡って石や岩のペンキ印を目安に登るとまもなく台地の一角に登り着く。一角からは火山灰が降り積もった、平坦な台地状の尾根が十勝岳の直下まで続いている。右手には前十勝岳があり、中央からはモクモクと噴煙が上がり、まさに生きている火山に圧倒されるようだ。草木など一本も生えていなかったが、荒々しくも素晴らしい光景であった。左手には美瑛岳が荒々しい山肌をみせて聳えていた。十勝岳に向かって平坦な稜線をゆくと取付からは最後の急坂だ。風向きが変わって硫黄臭が時々漂ったりしたが、それはどことなく懐かしい爆竹の匂いがした。山頂へ向かっている途中から日が昇りはじめ、予想外の上天気に思わずうれしくなった。

十勝岳山頂からは文句無しの大展望が広がっていた。平ヶ岳の向こう側に聳える美瑛岳の迫力がすごい。その荒々しい山容には思わず気押されるようだ。しかし今日の好天ならば美瑛岳への縦走も問題なさそうであった。山頂では望岳台を4時30分に出たという6人グループと一緒になり、お互いに写真を撮りあったりした。この6人組は愛媛からきたという人達で、みんな女性ばかりのグループであった。山頂を下るとしばらく快適な稜線歩きが続いた。平ヶ岳の広々とした頂稜は平坦な稜線だけにガスられると迷いそうなところだが、ここは歩いていて一番楽しい区間でもあり、十勝岳までの登りの苦労が報われる思いがした。鋸山からは火山灰のザレた急斜面となっていて、下るたびに大量の砂が崩れていった。美瑛岳とのコル付近は紅葉が見事で一休みをとる。リンドウやシラタマノキの群落となって、それがみな紅葉しているのだから美しい。コルからは一転して、爆裂火口縁をたどる岩稜歩きが続いた。薄雲が大きく広がり風が強まっていた。小さなアップダウンを繰り返しながら岩場を登り切ると美瑛岳だった。近くには美瑛富士が秀麗な姿で聳えている。明日のぼる予定のトムラウシがオプタテシケ山の背後にうっすらと空に浮かんで見えた。いつのまにか今にも雨が降り出しそうな空模様に変わっていた。

美瑛岳では休憩もそこそこに10分ほどで下山とする。山頂からは十勝岳を正面に見ながら下ってゆく。途中で二人の登山者が登ってきたのでしばらく立ち話をする。二人とも地元のひとで、今日は美瑛岳までの往復らしかったが、私が十勝岳から縦走してきたことを話すと、ずいぶん早いなあと驚かれてしまった。美瑛岳の南斜面は紅葉が盛りで、途中で立ち止まりながら何回も写真を撮る。分岐からは潅木の中の下りとなった。最近、草の刈払いがされたばかりらしく、夏はかなりの伸び放題になるようなところに思われた。一気に下って行くと沢底のポンピ沢の渡渉点に降り立った。雪渓の融雪水なのか水が冷たくておいしいかった。すぐ先で深くえぐれた箱状の沢が現れたが、降雨直後でもなければ特に問題はなさそうである。ロープで体を引き上げながら乗り越えて行くと雲ノ平だった。足は疲れていたが、雲ノ平は四方に広がるパノラマを満喫しながら歩くことができるので快適であった。正午になるとどこからともなく大きなオルゴールのメロディが流れてきた。はじめは無人の十勝岳避難小屋からだろうかと思ったのだが、よく聞いてみるとそれは山小屋からのこだまであって、オルゴールはどうやら白金温泉から聞こえてくるようであった。十勝岳美瑛岳分岐点からは朝登ってきた道を望岳台めざして下った。ゆるやかなゲレンデのような登山道をダラダラと歩いて行き、望岳台には1時前に戻った。

望岳台の駐車場には観光客が次々と登ってきては近くを散策していたが、これから十勝岳に登って行く登山者は一人も見当たらなかった。台風の影響なのか、気温が異様に高くなっていた。濡れたTシャツなどを着替えて、とりあえず次のトムラウシの登山口であるトムラウシ温泉「東大雪荘」に向かうことにした。望岳台からトムラウシ温泉までは185km。一般道しかないので着くのは夕方になりそうであった。台風状況が気になり車のラジオを聞いてみると、明日の朝方、北海道に上陸する恐れがあるらしく、今晩からは道内全域で大荒れの天候になるだろうという予報であった。

途中、上富良野のレストハウス「想いでのふらの」に立ち寄り、富良野ラーメン800円を食べて遅い昼食にした。レストハウスの駐車場には平日にもかかわらず大型バスが何台も止まっており、数え切れないほど大勢の観光客で賑わっていた。ここは十勝連峰の展望台になっているところで、何年か前にファミリーキャンプに来たときに立ち寄ったのを思い出していた。十勝岳からは大展望を楽しんできたばかりだったが、その十勝岳はすでに雲に隠れ、全く見えなくなっていた。懸念していた雨は狩勝峠に向かう途中から本格的に降り出した。新得町に入るとさらに雨風が強まり、台風がすぐ近くまで迫っているのを感じた。トムラウシ温泉には新得町からさらに50kmほど山奥に入らなければならず、うんざりするころになってようやくトムラウシ温泉の一軒宿、「東大雪荘」についた。すでに6時を過ぎており山間の宿には夜の帳が降りていた。何となく明日は停滞になるのかなあと考えると気持ちが沈んだ。今日はこの「東大雪荘」で車中泊の予定だったが、台風が目前に迫っていることもあって、入浴中に急遽、温泉泊に切り替えることにした。



前十勝岳付近から美瑛岳を望む



十勝岳目前(火山砂礫の登山道をゆく)




平ヶ岳からの十勝岳




美瑛岳(鋸山付近から)




オプシタテ山とトムラウシ山(右奥)
美瑛岳山頂近くから


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