山 行 記 録

【平成16年9月5日(日)/鴛泊から利尻岳】



長官山から利尻岳を望む(10時30分)


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、車中泊(山行は日帰り)
【山域】利尻島
【山名と標高】利尻岳(りしりだけ)1719m
【天候】晴れ
【温泉】利尻富士温泉 500円
【行程と参考コースタイム】(FT:フェリーターミナル)
(3日)新潟FT 23:50(新日本海フェリー)苫小牧東FT着(4日:17:15)=R294=岩見沢IC(道央道)深川西IC=R233=留萌=稚内FT 23:50(車中泊)(5日)稚内FT発6:30(フェリー:1880円)鴛泊着8:10(タクシー:1170円)利尻北麓野営場8:25

利尻北麓野営場発8:30(225m)〜甘露泉8:35〜五合目9:20〜長官山(八合目)10:25〜利尻山避難小屋10:35〜利尻山11:30-12:00〜長官山12:25〜野営場14:30〜利尻富士温泉15:00着/16:00発〜鴛泊FT着16:30着(0m)

鴛泊FT17:30発(フェリー:1880円)稚内FT19:10=(R40・道の駅「美深」にて仮眠・士別・旭川)=旭岳ロープウェイ(6日:6:00)

【概要】
急遽5日間の休暇が取れたので北海道の日本百名山を登ることにした。北海道には以前、ファミリーキャンプで何回か出かけたことはあったが、山となるとはじめてであり、まずは北海道北端の利尻岳から始めることにする。「利尻島はそのまま利尻岳であった」というのは深田久弥の日本百名山の有名な一説で、北海道の山といえば真っ先に思い浮かぶ山であった。一方では利尻岳は北海道で唯一、熊と蛇の心配のない山ということで気分的には楽であったが、遠隔地に加えて離島とあってはそう簡単に登れる山ではなく、他の山をあきらめてもこの利尻岳だけは最初に登らなければならないと以前から考えていた。利尻岳はその端麗な容姿から利尻富士と愛称されてはいるが、上部は急峻な岩壁や鋭い岩稜を形成しており、天空に屹立する姿は、近くから見るとまるで北アルプスの槍ヶ岳を髣髴させるようであった。

新潟西港の出航は9月3日の23時40分。フェリーに乗っている時間が約18時間もあるとあって、限られた日数のなかではもったいないほどだが、北海道の山をいくつか登ろうとすればマイカーは必需品であった。フェリーに乗り込むと、長時間、船内に拘束されるとはいえ、1週間の仕事の疲れをとるのにはいい骨休めになった。本州の天候は今ひとつのようだったが、日本海の航行中は好天に恵まれた。翌朝、デッキに立って青い海原と青い空を眺めていると、旅に出た実感が湧いてきて、これからの行程に胸が膨らんだ。苫小牧東港着は翌日の17時20分。すでに北海道の大地は薄暗くなりかけていた。ナビで表示された稚内までの距離は約390km。その内、高速を使えるのは70km足らずしかなく、ほとんど一般道を走らなければならないことを考えると、北海道南端の苫小牧から北端の稚内までは気が遠くなるほどの距離があった。途中のコンビニで食糧を仕入れ、燃料を補給して一路、稚内に向かった。約7時間の長距離ドライブを終えて、稚内に着いたのはまもなく日付が変わろうとする23時50分であった。フェリーターミナル近くの全日空ホテル前には広い駐車場があって、この日はこの駐車場で車中泊をすることにした。

翌日は4時半に起床した。まぶしいほどの朝の日射しが全日空ホテルに反射して建物が黄金色に輝いていた。鴛泊行きのフェリーは稚内港発6時30分で、早めに乗船手続きをして乗り込んだ。利尻島の鴛泊港までは1時間40分の船旅だ。日差しは暑いくらいだが、船上は風が強く、半袖では寒いほどだった。自宅を出てからすでに2日が経過している。つくづく利尻は遠いなあと溜息が出たが、一方では、近づくに連れて少しずつ大きくなる利尻岳に、登行意欲が沸々と湧いてくるようであった。フェリーから下りるとすぐにタクシーに乗った。登山口までは4kmほどの距離だが、今日は最終便のフェリーで稚内までもどらなければならないので、タクシーを使って時間の節約をはかる必要があった。タクシーに乗り込むと、運転手からは「内地の人はよく日帰りで登るようだけど、利尻山は北海道でも厳しい山だから、無理だとわかったら早めに途中から引き返した方がいいよ」とか「帰りのタクシーは当てにしないほうがいい。空港へ出払って行けないこともあるからね・・・」等々の忠告を受けた。

利尻北麓野営場は時間も遅いせいか閑散としていた。早速登山届をポストに入れて登り始めると、ほどなく三合目の甘露泉に着く。甘露泉は利尻岳からの伏流水で冷たくておいしい水だ。水筒にたっぷりと補給して四合目に向かった。登山道は始めなだらかだったが徐々に勾配がきつくなってゆく。六合目の標識には第一見晴台とあって、振り返ると鴛泊の街並みや礼文島が見えた。辺りはほとんどハイマツ帯だったが、途中からはダケカンバも目立ち始める。七合目からはジグザグの急坂となり、やがて樹林が切れて、岩尾根が現れるとまもなく八合目の長官山に着いた。長官山とは、当時の北海道長官が視察のために利尻岳を登ろうとしたときに、ここまで来て諦めたことから名前が付けられたピークだが、ここからながめる利尻山は天に向かってそそり立ち、その迫力には圧倒されるほどだ。同時に山頂まではまだまだ遠いなあと思わずため息が出るほどであった。標柱のそばでは一人の女性が疲れ切って大の字になって寝ていた。山頂からはひとくだりすると利尻岳避難小屋で、これから登ろうとする人達が一休みをしていた。小屋からは深くえぐられた登山道を進み、灌木のトンネルをくぐったりして登ってゆくと山頂がいよいよとなった。しかしホッとしたのもつかの間で、九合目の「ここからが正念場」という標識に気を引き締められた。ここには携帯トイレのブースが設置されているところだ。この付近まで高度が上がると風は涼風というよりもかなり冷たく感じた。上からちらほらと下ってくる人が目立ち始める。ガレ場を進み、フィックスロープのあるザレた急坂を上りきると利尻岳山頂はまもなくだった。時間は11時30分。登り始めてから2時間50分と予定よりも早く着いてしまったが、しかし両足の筋肉は相当疲れていた。早速山頂神社に手を合わせ、写真を撮ったりしながらしばらく大休止をとることにした。山頂では十数人の人々が休憩中であった。神社の向こう側には南峰が聳え、すぐ目前には有名なローソク岩がそそり立つ。洋上に浮かぶ礼文島は意外なほどに小さかった。はじめ、東側がガスで見えなかったが、まもなくそれも晴れ渡り360度の大パノラマが広がった。地元の人によれば、この利尻岳でこんなに晴れ渡るのは極めて珍しいのだという。本州の紅葉はまだ一月も早いのだが、利尻岳山頂の周辺ではすでに紅葉が始まっており、その美しい光景を眺めながら今日の好天に感謝した。北の方角をみれば遠くサハリンの大地がうっすらと望め、今、日本最北の山頂に立っているのだと思うと感無量であった。

山頂ではのんびりと大展望を楽しみ、30分の休憩を終えると下山にとりかかった。下り始めるとこれから山頂をめざす何人かの人達と行き交った。下りでは涼しい風が気持ちよく、つい最近までの暑さがウソのようであった。山頂からは長官山で一息を入れた程度で快調だったが、八合目から六合目へと続く狭い道は意外と長い道のりだった。三合目まで降りたところで、携帯でタクシー会社に電話すると、「今、空港に出払っているのですぐにはゆけない」と断られた。利尻北麓野営場の登山口には2時半に戻った。ほとんど休憩をとらなかったのだが、予想外に下りの時間を要した感じだ。登山口には残念ながら客待ちのタクシーは見あたらず、しかたがないのでフェリーターミナルまでは歩くことに決めた。予定よりも時間には余裕があるので、特にあせることもなく、そのまま暑い日射しが降り注ぐ車道を歩いた。

途中にある、日帰り入浴施設「利尻富士温泉」には15時に着いた。ここまで下ればフェリー乗り場まではもう30分ほどの距離であった。時間的には最終便より一便前の16時発のフェリーにも間に合う時間だったが、かといって急いで利尻島を離れる気持ちにはなれず、この利尻島には目一杯滞在していようと思った。休憩もとらずに歩き続けてきただけに「利尻富士温泉」は快適で、汗を流してさっぱりとした後に飲む生ビールは格別であった。さすがに疲れが出たのか一杯のビールでいっぺんに酔いが回る。すぐには動けそうもなくなってしまい休憩室でしばらく横になった。利尻富士温泉は午後4時に出て、再びフェリー乗り場に向かって歩いた。最終便の17時30分まではまだ1時間も残っていた。フェリーターミナル前には食堂や土産物店が立ち並び、生ウニ丼やラーメンなどの幟が立っている。名物の生ウニ丼は値段が2500円と高かったが、せっかくの機会でもあり利尻岳登頂を祝って食べてゆくことにした。何しろ山頂から0mまで歩いてきたのだから、これくらいの贅沢は許してもらえるだろう。利尻岳を登り終えて、温泉に入って生ビールを飲み、生ウニ丼まで食べたことでもう心残りはなかった。短い一日であったが利尻島を味わい尽くした気分であった。鴛泊港からは最終便が定刻にフェリーが出航した。私はザックを部屋においてすぐにデッキに出た。往路とは違って帰りはフェリーの船尾から利尻島を正面に眺めることができるのだ。眺めているとちょうど礼文島に日が沈むところだった。利尻島が両側に長い裾野を引いていて徐々に遠ざかる姿はその後もずっと心に残った。稚内に到着したときは既に夜になっていた。駅前で燃料を補給し、一路、次の大雪山をめざし国道40号を南下する。ナビによると稚内から大雪山の麓の旭岳温泉までは310kmもあるので驚いた。この日はさすがに疲れが出てしまい、美深町の道の駅でしばらく仮眠をとることにしたが、再び国道を走り出したのは午前3時を過ぎてからだった。


鴛泊に向かうフェリーからみる利尻岳(7時55分)



礼文島に陽が沈む(帰りのフェリーから)
(17時55分)


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