八合目から月山山頂までの標高差は約600m。今日はのんびりとしたハイキング気分で、ゆるやかな木道をのんびりと登って行く。弥陀ヶ原の湿原は早くも草紅葉が始まっており、青空とのコントラストの美しさにみんな感激する。湿原の先には月山の山頂が遠望できるほどで、月山に来てこんなに好天に恵まれるのは久しぶりのような気がした。登山道の周辺ではオヤマリンドウやミヤマアキノキリンソウが盛りだった。途中では山頂小屋に泊まったという人達と大勢すれ違った。澄み切った青空と清々しい風の吹く山道は歩いているだけで心が癒されるようである。ちょうど中間地点に建つ仏生池小屋を過ぎ、途中の行者返しの岩場を通過するといよいよ山頂も近くなる。左手の緩やかに広がる湿地帯は広大な月見ガ原だ。高山植物ではハクサンイチゲはまだ大分残っていたが、イワイチョウやハクサンフウロなどはすでに盛りは過ぎていた。2時間も登ると展望がますます開けてくる。右手を見れば庄内平野を隔てて日本海が広がっていた。
月山神社の建つ山頂は大勢の登山者で混雑を極めていた。私達は姥沢側まで進み、広々とした山頂の一角に車座になると早速登頂を祝って乾杯だ。涼しさを求めて登ってきた月山だったが、意外にも山頂は風もなくて暑いくらいである。半信半疑で持ってきたビールがとてもおいしくて、中には缶ビールだけでは物足りない人もいるようであった。食事が終われば横になってみんなはお昼寝モードとなり、まわりからはたちまちいびきが聞こえ始めた。休んでいる間も登山者は次々とやってきては月山神社に向かって行く。ガイドを伴ったツアーも多く、牛首から登ってきたという寒河江からの小学生の団体140名というのにも驚かされた。これではリフトも大渋滞だったのではないだろうかといささか心配になる程であった。
アルコールのおかげで2時間近くも休憩していると動き出すのも億劫になっていた。まだほろ酔い気分だったが、いつまでも寝ているわけにも行かなかった。下山する前に月山神社の裏手に登って記念写真を撮った。穏やかな天候に覆われていたが、残念ながら鳥海山は靄に隠れて結局見ることはなかった。正午を過ぎると午前中よりも薄雲が広がり始めている。さきほどまで見えていた姥ケ岳や牛首の稜線はすでに雲海に隠れてしまっていた。姥沢側から次々と尾根を乗り越えてくる滝雲は見ていて飽きることがなかった。今日はこの月山の山頂を境にして内陸と庄内の天候が二分されたようである。往路を戻るだけだったが、このコースは下りの方が高原漫歩を楽しめそうである。私達は伸びやかに広がる月見ガ原やオモワシ原を眺めながら月山の山頂を後にした。