地竹原の台地付近から幸いに雪渓が続いているのをみてやっとシール登高が可能となる。今日はGWも最後というのに全く登山者がいない。稜線から下りてくる人も見あたらなかった。滝川の出会い付近は6月になってもまだ厚い雪渓に覆われているはずだったが、今年は異様に雪解けが早いのか、至る所に大きな口を開けて奔流がのぞいていた。
2時間20分ほどで石転ビノ出合に着く。ここで今日のコースを決めなければならなかったが、石転ビ沢を滑るのは今度の日曜日にということで3人の考えが一致し、今回は門内沢の滑降ということに決定する。門内岳に直接突き上げる門内沢を登るのは全員初めてである。石転ビ沢と似たようなものだが、それでも微妙に風景は違うので、新鮮な驚きに心が弾むようであった。しかし最初はなだらかな雪渓も徐々に傾斜が増してくる。ちょうど雪渓の真ん中に稜線まで突きあげている尾根があり、私達はこの尾根の左手の沢へと入った。柴田氏と山中氏はスキーアイゼンを装着したが私はシールのまま登ってゆく。40度もあるような斜面が続くようになると徐々にシール登高も困難な状況となってゆく。私は途中でシール登高を断念し、足場を確保してからアイゼンを装着する。ピッケルはないのでストックでバランスをとるしかなく、かなり緊張する場面だったが先に進むしかなかった。転倒でもすればどこまで滑落するかわからないような状況であった。
柴田氏と山中氏の二人は尾根に取り付いていったが私は二人からはかなり離れてしまっていた。追いつくためには長い距離をトラバースしなけばならず、私はそのまま稜線へと直登することにした。尾根に登った二人はいつのまにか遠く離れてしまい、豆粒ほどにしかみえなくなっていた。そこからは足がすくみそうな急斜面がずっと続いた。稜線直下はかなりの勾配であった。なんとか稜線まで上がりきってみると左手に北股岳が異様に近いので驚いた。そこはちょうど北股と門内の中間地点のようであった。二人もほとんど同時に稜線に上がりきったようだったが、私が門内岳に向かって戻る分だけ時間がかかった。稜線にのぼってしまえば滑落の心配はない。無事に稜線に登り切ったことでひとり安心感に浸った。
夏道から少し離れた雪渓の上を休憩場所と決めてザックを下ろす。すぐ目の前には門内岳、そして右手には門内小屋が見えている。後方には飯豊本山や北股岳の山並みが続いていたが、どこを見渡しても人影は見あたらず今日の飯豊連峰にいるのは私達3人だけであった。日射しはなかったがいわゆる高曇りの天候で視界は良好だ。素晴らしい展望に満足しながら早速ビールで乾杯をする。
昼食を終えると門内岳までひと登りし、山頂からの風景を写真に撮ったりしてしばし展望を楽しむ。門内沢は山頂のすぐそばまで雪渓が伸びている。もちろん山頂から滑り出そうということで3人は一斉に滑降を開始する。二人ともスキーの達人なのでなんの問題もなさそうだったが私のテレマーク技術では不安が募るところだ。石転ビ沢を凌駕するような50度近い勾配に、思わず足がすくんでしまいそうだったが、しかし一旦下り始めると雪面がよいのか安定したターンが続いた。さすがに急斜面での滑りは足にくるので、途中で小休止を兼ねて何回か立ち止まった。そして二人の写真を撮ったりしながらなおも滑降を再開する。滑っても滑っても斜面は続いた。門内沢の核心部を滑り終え、途中で休憩をとると山中氏のザックからは再び缶ビールがでてきた。
石転ビノ出合を過ぎると滑降もようやく終盤となる。黄色い旗の立つ地竹原まできたところでスキー滑降は終了となった。ここからは約2時間、スキーを再び担がなければならない。重荷に耐えながらだらだらとした荒れた山道の上り下りはつらいものだ。しかし、いつかは滑りたいと思っていた懸案の門内沢を滑ることができて、私は心地よい達成感に浸りながら飯豊山荘に向かった。