山 行 記 録

【平成16年5月2日(日)/湯ノ台から鳥海山】



滝の小屋と鳥海山


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】出羽山地
【山名と標高】鳥海山(伏拝岳2120m、行者岳2159m)
【天候】快晴
【温泉】鳥海山荘500円
【行程と参考コースタイム】
大台野駐車場(路上)6:40〜伏拝岳10:15〜行者岳10:30〜伏拝岳10:40-11:30〜滝の小屋11:50-12:05〜駐車場(路上)12:50

【概要】
久しぶりに湯の台口から鳥海山を登る。八甲田山からは夜遅く帰宅したばかりだったが、今日も好天が予想されることから、午前3時に目覚ましをセットして八幡町に向かった。大台野の牧場を過ぎ長野台付近で雪が現れたところから歩き出しとなる。すでに路上には車が溢れていてその数はおよそ30〜40台もあるだろうか。ナンバーをみるとこのGWを利用して全国各地からやってきているようであった。

少しスキーを担いで進むと雪が続くようになりそこからはシールを装着する。車道沿いに登って行くとまもなく宮様コースの入口であった。ここはブナ林が密集しているのだが、ちょうどゲレンデのような切り開きが続いているところだ。大勢の人達が登っていたがほとんどの人達はスキーを担いで坪足で登っている。急斜面にあえいでいる先行者を追い越してしまうと前方には誰もいなくなってしまった。ブナの芽吹きには早くまだまだ新緑はみられない。グレーと褐色のブナ林の後方には豊富な残雪を抱いた鳥海山が雲一つない快晴の空をバックにしてくっきりとそびえ立っていた。雪面には多くのシュプールが散乱し、それはまるでスキー場のゲレンデのようでもあり、昨日も多くの人達が山スキーを楽しんだようであった。

順調に高度をあげてゆき、森林限界を越えると滝の小屋はもうすぐだ。しかし手前が潅木のヤブとなっているために、小屋へは帰りに寄ってみることにして右手の斜面を直登して行く。その滝の小屋も左手下方に見えるようになるとまもなく滝の小屋を発ってきたと思われる人達が列をなして左手の急斜面を登ってくるのが見えた。その向こう側には青みがかった庄内平野、そして日本海が美しい。この付近の大雪面は勾配もきつく思わず喘ぎ声がもれてくるところだ。登り切ると前方にはいよいよ鳥海山が正面に見えてくる。見えている外輪山は今日の目的地の伏拝岳だろうか。最後の急斜面を見るとすでに何人か取り付いているところだった。

平坦地にでると風の吹きさらしに出た。快晴とはいえ今日はまだ気温は低いままである。風も氷点下を感じるような膚寒さで雪面はアイスバーンであった。途中、滝の小屋に泊まったという4人のファミリーが休んでいたので聞いてみると、昨日はこの4人だけだったというから、宿泊者は意外と少ないようであった。見下ろすと15人ほどが見えているが、みんなの足も遅々として進まない。最後の急斜面は勾配もあってなかなか容易に高度を稼げないのがつらいところだ。私はシール登高にこだわってどこまでも直登して行く。1800mを超えると風がなくなり、日焼け止めクリームを塗り足す。おもわず、暑い!と大声で叫びたくなるほどの気温の上昇であった。この分だとザラメになるのは時間の問題のように思えた。見上げれば紺碧の空と新雪の白さは強烈で、それはサングラスをしていても眩しいほどであった。後ろを振り返ると白い月山が青空の上にぽっかりと浮かんでいた。

ひとり黙々と登っている途中、左手の急斜面を何気なく眺めていると、突然、登山者がひとり50mほど回転しながら滑落していった。40度もあろうかという急斜面である。その光景はまるで映画のワンシーンを見ているようで妙に現実感がなかった。幸いにその人は何事もなかったようだったが、目の前で滑落シーンを見せつけられたことで急に自分の足元が不安になってしまった。当然だがアイスバーンは一歩間違えれば危険なのだ。さすがに残り100mぐらいになるとシール登高も限界と感じ、途中でスキーを担いで坪足で登ることにした。今日は確実にアイゼン、ピッケルが必要な雪面であった。

伏拝岳には歩き出してからおよそ3時間半で登り着いた。山頂にはまだ誰も見あたらず、まだ時間が早いのでスキーをデポしてから行者岳まで足をのぼしてみることにした。さすがに今日は七高山まで行く気にはなれず行者岳からは引き返す。伏拝岳まで戻ると7・8人ほどが休憩していた。風もようやく穏やかになり、休憩場所を確保したところで早速ビールを冷やす。まだまだ時間は早いので、横になってのんびりとしたひとときを過ごす。千蛇谷を俯瞰すると多くの登山者やスキーヤーがまるで蟻の行列のように連なっていた。七高山の山頂では大勢の登山者達で賑わっているようであった。陽射しは強く、草むらに放っておいたシールはいつのまにか乾き始めていた。休んでいると鉾立てからも次々と登山者が登ってきたが、ほとんどアイゼンを履いた坪足組で、山スキーを担いで来る人は全く見当たらなかった。

11時30分、伏拝岳山頂から滑降を開始する。滑り出しこそ横滑りで降りたが、すでに雪は柔らかくなっていて、私の下手なテレマークスキーでもターンが可能になっていた。斜面を一気に滑り降りて滝の小屋に着く。所要時間は約20分。900mの標高差を一気に下ってきたことになるのだが、スキーは実に早いなあと思わずにはいられない。滝の小屋ではすぐ脇にテントが一張り設営されていて1人が銀マットを敷き昼寝をしている。小屋の周囲では雪があらかた解けてしまい、まるでキャンプ場の一角のようになっていた。小屋をちょっとのぞいてみてから滑降を再開すると風は全くなくなっている。宮様コースの切り開きの雪面は完全な腐れ雪になっていて、快適なスキーとはほど遠い状態であった。この時間になっても一人、二人と登山者が登ってくる。しかし他には人の気配はなく、周囲は小鳥のさえずりが聞こえるだけの静かな春山の雰囲気に満ちていた。12時50分。車に戻ってみると、路上にはさらに多くの車で溢れていた。新潟から来た人達が路上の終点付近でテントを設営中だった。これから食事の準備を始めるところをみると明日にでものんびりと登るのかもしれなかった。私は後かたづけを終えると、新しくなった鳥海山荘で汗を流し、手打ち蕎麦屋で遅い昼食を食べてから帰宅の途についた。



大台野の車道終点から歩き始める



滝の小屋付近の急斜面を登る



伏拝岳山頂
無風快晴の穏やかな山頂だった


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