ロープウェイの終点からは展望が素晴らしい。天候がよいだけに八甲田連峰の山々は全て見渡すことができ、また西の方角には白い岩木山がぽっかりと雲に浮かんでいた。登る前に早速八甲田山大岳などをバックに記念写真を撮る。すでに何回も見慣れてしまった風景だが、それでも遠路はるばるとやってきたという思いが沸々と沸いてきて、つい旅情に誘われてしまいそうになる。軽く登ると田茂萢岳山頂では大勢のスキーヤーで溢れていた。ここからは八甲田温泉コースや銅像コース、あるいは酸ヶ湯温泉や八甲田大岳を直接めざす人など様々なコースに散って行く。山頂から緩斜面を下りきった地点からは早速シール登高だ。赤倉岳の山頂を見上げるとすでに何人か登っている人達が見えた。雪山とはいっても快晴の空のもとでは何の不安もなく、私達は休み休み、のんびりと山頂をめざした。鞍部からは1時間ほどの登りだが、この登りがあるからこその箒場岱コースである。
陽射しが心地よいだけに樹林帯を縫ってのシール登高は楽しいものだったが、山頂では予想外の強風が吹いておもわず吹き飛ばされそうになる。片側は絶壁になっているので思わず近くの柵につかまらなければならないほどだった。私達は赤倉岳山頂の東斜面に少し下った地点で昼食とする。ここでは何人か風を避けるようにして休憩中であった。正面には小岳、高田大岳、雛岳がそびえ立ち、眼下には八甲田温泉が遠くに望めた。のんびりとした休憩を終えるとシールをはがしていよいよ滑降の開始だ。最初の滑り出しは少し勾配がきついのでカミさんは慎重に降りてくる。しかし斜度が緩んでくるとボーゲン程度でも難なくターンが可能となり、カミさんは広い斜面を有効に使って優雅に下っていった。風があるとはいえ気温は高いので、最近降ったばかりの新雪が徐々に重くなってはいたが、今日の展望と好天があれば文句はない。ツアーの標識をたどりながら山裾を縫って行くと明るいブナの林間に出た。箒場岱は数ある八甲田の山岳スキーコースの中でも一番長い滑りを楽しめるのだがそれでもスキーで下れば瞬く間にバス停まで着いてしまう。急いで下ってもツアーはつまらないので、私達はコースの途中で何回かザックを下ろして、コーヒーを淹れたり果物を食べたりしながら山の時間をのんびりと楽しんだ。銀マットを敷きザックを枕にして横になっていると、すぐ近くをいくつかのグループが通り過ぎてゆく。雪の量は意外と豊富で道路までは快適に滑って行くことができた。ブナの疎林を縫うように下って行くと循環バスの待つ田代平バス停まではまもなくであった。