山 行 記 録

【平成16年3月14日(日)/南俣〜高知山〜二王子岳〜ニノックススキー場



場割ノ頭で小休止(※中央のピークは二本木山)
ここから七滝沢に下り二王子岳に登り返す


【メンバー】8名(埼玉「自然を滑る会」藤倉、藤倉(歌)、今野、今野(み)、木村(尚)、田中、牧野、蒲生)
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰周辺
【山名と標高】高知山1,024m、二王子岳1,421m
【天候】曇りのち晴れ
【温泉】
関川村 道の駅「関川」桂の関温泉「ゆ〜む」500円
【行程と参考コースタイム】
南俣林道入口6:30〜尾根の取付8:00〜675mピーク8:55〜高知山10:20〜鳥居峠10:40〜1142mピーク11:00〜場割ノ頭11:30〜七滝沢12:00〜二本木山とのコル12:45〜二王子岳13:00着/13:45発〜ワサビ沢〜ニノックススキー場15:30〜駐車場15:45

【概要】
飯豊連峰の前衛峰として知られる二王子岳は、いまや新発田市や新潟市民のみならず、県外からも多くの登山者が訪れる山として人気を博している山である。二王子岳の標高は高々1400mほどしかないが、登ってみればその理由は一目瞭然で、二王子岳山頂からの飯豊連峰の大展望には目を疑うばかりに圧倒されることであろう。

今日は埼玉の「自然を滑る会」のメンバーと一緒の山行で、昨年、悪天候により中止となっていた二王子岳である。計画書によると二王子神社を基点とする夏道とは違って、南俣から高知山を経由して二王子岳へ登り、山頂からはワサビ沢を滑降してニノックススキー場に下るものである。積雪期にのみ使われるというこの高知山ルートは私も含めて初めてであり、地形図をみてもどのルートをとるのかよくわからないほど地形が複雑そうであった。そしてコースが通常の夏道よりもはるかに長く、これをはたして一日で歩けるのだろうかという不安がまず頭をよぎるところだ。しかしこの高知山から二王子岳へと続く稜線から眺める光景は、予想もできないほどの絶景が広がっているのだというから興味津々でもある。また二王子岳へは七滝沢を遡行して二本木山とのコルをめざすもので、山スキーだからこそ味わえるルートともいえそうだが、今まで経験者においてのみ語り継がれてきた秘蔵のルートのようでもあった。そんな不安と興味が交錯するような今日の行程だが、今回は地元の田中勲氏が案内人となって同行してもらえるのだから不安はない。唯一天候が心配だったが今日は移動性高気圧に覆われる予報である。

下山予定地点であるニノックススキー場には6時に集合した。車を3台捨て置き、残り2台に8人が乗り合わせて登山口である南俣に向かった。夏道の登山口である二王子神社への分岐点には多くの車が駐車中で、夏道をたどる冬山登山者もかなりいるようであった。さらに南俣林道を進むと集落のすぐ先で除雪が終わっており、ゲートこそ開いてはいたものの、そこからは雪道のためここが今日の歩き出しとなる。ニノックススキー場から南俣までは車で約15分の距離であった。ここには6〜7台もの車がところ狭しと止まっており、登山者が数名準備中であった。みんなワカンによるツボ足組で私達の他には山スキー組は見あたらない。シールを貼り終えると、早速今日の案内者である田中氏を先頭にして高知川沿いの林道を歩き始める。正面には端正な高知山が望めたが、まだまだかなり遠いという印象しかない。歩き出しの標高は約125m。二王子岳までは1300mも登らなければならないのだと思うと気が遠くなるようである。ところどころで雪が切れているところはスキーを担いだ。

約1時間半もの長い林道歩きが終わるとようやく尾根の取り付きに着く。地形図で確かめると右手の杉林から南東に伸びる尾根を使うものらしかった。そこは何の標識もないのでわかりづらいが、左手の堰堤が目印になりそうである。杉林の急斜面をシールの摩擦力を効かせながらぐいぐいと登って行く。しかしあまりに急勾配のため、スキーで登るのは結構難儀するようなところだった。やがて雑木林となり両側が切り立ったヤセ尾根を登るようになると左手奥には雪を抱いた白い二王子岳が見えてきくる。ししし、それでもまだまだはるか彼方という感覚である。ヤセ尾根を登り切ると斜度も緩んでだいぶ楽になる。まもなく左手から尾根が合わさり、右手のなだらかな樹林帯を登ると675mピークに登り着いた。ここは稜線の分岐のようなところで、正面には飯豊連峰の前衛峰ともいわれる五頭連峰が大きく横たわっていた。五頭連峰はまだ多くの雪を抱いていて、1000mに満たない山とは思えないほどの堂々たる山塊である。ここは今までの急登の疲れも忘れるような見晴らしのよい休憩場所でもあった。

675mピークからは少し蛇行するような尾根道を登って行く。前方左手を見上げると高知山が大きく聳えていた。高知山の稜線直下は急斜面に加えて雪面が堅く凍っているためにシール登高がかなりきついところだった。登り切るとようやく広々とした稜線に出た。稜線からはなだらかに起伏する大雪原が見渡す限りに続いているのを見てみんなが一斉に歓声をあげた。樹林がひとつも見あたらない真っ白い雪原が二王子岳へと続いているのだから私は本当に驚いてしまった。最初の目標である高知山はそこから少し先にある高みの小ピークであった。五頭連峰を背にしながらひと登りで高知山の山頂に着いたものの、そこからは登山口から見上げたときのような山頂のイメージは少しもなく、単なる稜線上のピークに過ぎないところだった。とはいえ、展望は素晴らしく、右手に遠く聳えている端正な山は蒜場山で、縦走路の先のひときわ高いピークには何人かの登山者が張り付いているのが見えた。やっとひとつの目標にたどり着いたとはいえ、二王子岳まではまだまだはるかに遠い。しかし田中氏によるとこの先は割合に平坦な稜線漫歩を楽しめるので、二王子岳までは意外と時間がかからないのだと励まされる。なだらかなアップダウンを繰り返しながら進むとやがて三角錐のような高みの鳥居峠のピークに到着した。ここからは吾妻連峰でいえば、まるで弥兵衛平のような大雪原が広がっていた。アップダウンとはいっても下りはスキーで下れるのだから見た目ほどの時間はかからない。シールを貼ったままだが、はるか先を歩いていたツボ足の登山者達が徐々に近づいていた。

ひときわ高い1142mピークを登ると登山者3名が二王子岳を眺めながら佇んでいた。追い越してからも私達を追ってくる気配はなく、3人はそこから往路を引き返すものらしかった。この付近まで来ると二王子岳はもう正面である。見渡す限りの白い世界には圧倒されるばかりで、遮るものがない稜線なのに大量の積雪があるのが不思議なほどであった。まもなく1217mのピークが近づきつつあり、前方には二王子岳が圧倒的な迫力で迫っていた。先をゆくメンバーが豆粒のようにしか見えなくて、この素晴らしい光景にはただ絶句するばかりであった。1217mピークは別名「場割ノ頭」とも呼ばれているのだと田中氏が説明してくれる。ここからは二王子岳への尾根ルートから離れて私達は七滝沢をめざして下って行くのである。

小休止後、場割ノ頭からは150mほどの標高差を下る。雪は柔らかく斜面も適度な斜度があるのでみんな気持ち良さそうだ。無垢の白い斜面にはみんなの楽しげなシュプールが次々と刻まれてゆく。下りきった沢底からはシールを再び貼り、二本木山とのコルをめざして北上する。七滝沢の遡行は風もなくて気持ちの良いシール登高であった。しかし二本木山とのコルが近づくにつれて再び風が強まってくる。気温は確実に氷点下で、シャツだけだった人もみんな途中でアウターを羽織った。高度が増すと左手からはようやく二王子岳が姿を現しはじめる。なだらかな山頂付近ではツェルトを張りながら休んでいる登山者達が何人か見えた。コル付近は凍り付いた潅木が多いところで、少し日差しが陰っただけで荒涼とした風景を感じさせるところだった。コルから二王子岳の山頂まではもうわずか。登るにつれて背後に聳える飯豊連峰が徐々にせり上がってくる。晴れていれば感動的な場面だが、残念ながら飯豊の稜線は少しガスに隠れてすっきりとは見えなかった。

ようやく二王子岳の山頂に着くとみんなの顔は喜びの表情に溢れた。時間はちょうど午後1時。歩き出してからそれほどの休憩も取らずに登り続けて6時間30分が経っていた。長い縦走路をようやくたどり着いたという感じだった。みんなで記念写真を撮り終えると小屋に入って昼食となった。山頂付近では強烈な風が吹いていて小屋のありがたさが身に沁みてくる。小屋の中では10名前後の登山者で賑わっていたが、私達と入れ替わりに4、5名の人達が下山するために小屋を出て行った。

1時間足らずではあったが、小屋での楽しい昼食を終えるといよいよ山頂からの滑降である。もうシールを貼る必要もないのだと聞いてみんな安心する。あとはワサビ沢を下ってニノックススキー場をめざすだけであった。小屋の中でシールを外して外に出ると穏やかな日差しが再び戻っていた。山頂からは標高差1100m程の滑降が待っている。山頂を少し下ると雪も柔らかくなって快適な稜線の滑降が楽しめる。油コボシ付近からは急斜面だったが、適度な深雪と柔らかさがある斜面で、私の下手なテレマークスキーでもなんとかターンが可能だった。坪足組の観客が周りで大勢見守る中を一人一人さっそうと滑ってゆくのは、さながら円形劇場で舞う舞台俳優のような気分になるところだ。下ったところからは夏道を離れてワサビ沢沿いに下って行く。こんなところを下れるのも山スキーがあればこそである。下っても下っても気持ちの良い斜面が続いていて、このままずっと続いていてくれたらという思いが尽きなかった。しかし両足は確実に疲れていて、なんでもないところで私はつまらない転倒を繰り返した。大量の積雪に覆われたワサビ沢も下流まで来ると水流が顔を出しているところも増えてくる。対岸に渡らなければならない箇所もあって、時期的には今回がワサビ沢を下れる限界なのかも知れなかった。ワサビ沢の右岸側をトラバース気味に延々と下って行くと徐々にスキー場が近づいていた。小中入沢とワサビ沢との合流点までくるとさすがに雪はなくなっており、そこはスキーをはずして渡渉しなければならなかった。

林道の道形らしき雪面をなおも下って行くと、突然ニノックススキー場に飛び出した。ここは第1リフトの終点付近でスキー場のちょうど中間地点のようであった。振り返るとスキー場の背後には、まだまだ高い陽の光りを浴びて二王子岳の稜線が輝いていた。しかし、特徴がない稜線のために、どこが山頂付近なのかはよくわからなかった。ゲレンデを気持ちよく下りながらも、まもなく9時間以上もの長い行程が終わろうとしていた。今日は天候にも恵まれたおかげで、私は最近にはないほどの充実感に満たされていた。そして新潟の山深さをあらためて認識した一日でもあった。駐車場からは再び南俣に戻って車を回収する。すでに4時半を過ぎていたが南俣にはまだ他の車が多数残っており、ツボ足の人達や夏道のルートを使い山頂をスキーで下った人達はまだほとんど戻っていないようであった。

今回の高知山から二王子岳に登ってワサビ沢を下るルートは、単独ではとても実現しなかったものである。すばらしいコースを的確に案内してくれた田中氏に感謝しつつ私は南俣の駐車場を後にした。



今回のルート


高知山を正面に歩き始める(朝6時30分)



675mピークで(8時55分)
高知山は左手奥



高知山直前(10時10分)
稜線に飛び出したところ



高知山から鳥居峠に向かう(10時30分)
左奥は二王子岳



鳥居峠付近の平坦地を歩く(10時40分)




場割ノ頭と二王子岳(11時15分)
圧倒されるほどの光景が展開する



場割ノ頭から七滝沢への滑降(11時50分)



七滝沢を遡行(12時)
風もなく穏やかなシール登高だ



二本木山とのコルまではまだ遠い(12時10分)



ようやくたどり着いた二王子岳山頂(午後1時)



二王子岳から下る(13時55分)
三王子神社付近から複雑な稜線が伸びている



ワサビ沢を下る(14時43分)



ワサビ沢から見下ろす
ニノックススキー場方面(14時43分)



小中入沢とワサビ沢との合流点での渡渉(15時12分)



無事に
ニノックススキー場へと滑り降りる(15時30分)


inserted by FC2 system