山 行 記 録

【平成16年2月22日(日)/吾妻連峰 峠駅〜栂森〜大沢駅



栂森が正面に


【メンバー】2名(柴田、蒲生)
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】栂森1,628m
【天候】晴れ(快晴)
【温泉】米沢市「鷹山の湯」500円
【行程と参考コースタイム】
米沢市「鷹山の湯」6:30=(車)=大沢駅7:29発=(JR)=峠駅7:34
峠駅7:50〜886m8:45〜1133m9:25〜1203m10:00〜小栂11:00〜栂森11:30-13:00〜放牧場14:00〜大沢駅15:10

【概要】
今回は奥羽本線の峠駅前でスキーを履き、ツアー終点の大沢駅でスキーをはずすという、文字どおり駅前から駅前への縦走である。数ある吾妻連峰のツアーコースでもめずらしい部類に入るコースだ。峠駅の標高は約630m。栂森までの標高差1000mを全て自分の足で稼がなければならないが、それだからこそ山スキーらしいコースともいえそうである。

今日の天気予報では大荒れとなるはずであった。ところが峠駅に降り立ってみると眩しいほどの快晴の空が広がっており、少なくとも雪空を覚悟してきた私達には嬉しい誤算であった。山はどちらにしても現地に来てみなければわからないものだとつくづく思うばかりだ。また毎年恒例となっている、吾妻山の会主催の栂森ツアーもあるはずだったのだが、下りの電車からは誰も下車した人もなく、今日の栂森ツアーは私達二人だけであった。悪天の予報をみて山の会主催のツアーは延期をしたのかもしれなかった。

峠駅の周辺は人影も見あたらず静まりかえっていた。長い登りの始まりだが、今日のような目の覚めるような好天に恵まれれば、長時間登れるのがむしろうれしく感じられるほどだ。シールを貼って峠の餅屋の裏手から登り始めると、準備をしている時から近くをうろうろしていた犬が二匹、私達の後ろを付いて登ってきた。以前に誰かの記録で読んだことがあったが、これが例の山越えをするという峠の餅屋の”名物犬”なのだろうか。記録では確か1匹だったはずだが、いつのまにか二匹に増えているようだ。私達は無碍に追い立てるわけにも行かず、そのままほおっておくことにした。

雪面には一本のトレースも見あたらなかった。昨日も好天の一日だったはずだが、いくら一般的なルートではないにしても誰も登った形跡がないというのは予想外であった。もしかしたら私達が今シーズン始めての栂森ツアーかもしれないぞ、とは同行の柴田氏の弁。登り始めから気温が高くて、帽子も手袋も外してシャツ一枚となる。早くも雪はザラメを通り越して腐れ始めていた。まるで4月の陽気の中を登っているような暑さであった。急いで登るのがもったいなくて、なるべくゆっくり登ることに気を配る。それでも二人きりではペースも早くなりがちであった。そのうち左手眼下には滑川温泉が現れ、さらに進むと滑川大滝も遠くに見えてくる。厳冬期のこの時期であれば氷曝となっているはずなのに滔々と滝が流れているのが意外だった。1133mピークから下った鞍部では雪が一部切れていて、そこだけはスキーを一時担いで通過した。まもなく白樺林が美しい1203m地点の平坦地で一本とることにした。行動食を食べながらのんびりと休憩していると、犬が近くの雪面を掘り返している。何事だろうと近づいてみると、”名物犬”は雪の中からちぎられたような兎の足を掘り出していたのである。さすがに犬の嗅覚はすごいものだ。最初は食べるわけでもなくただ遊んでいるだけだったが、私達からは行動食を簡単にはもらえそうにもないと思ったのか、結局”名物犬”達はその骨付きの肉を腹の足しにしていた。

小栂の急斜面を登り切ると目の前には栂森が大きく迫った。昨年は目の前の尾根を直登したのだが、今回は正規のルートをとることにし、右の尾根にトラバースしてゆく。途中には古いツアー標識も残っているのでルートはわかりやすい。ただ無木立の急斜面は雪崩の危険もある箇所なのでここは慎重に通過した。雪は結構重く締まっているのでそれほど危険な状態ではなさそうだったが、降雪直後であればここの通過は明らかにヤバそうである。トラバースが終わるともう栂森まではまもなくで、緩斜面の樹林帯を抜けると山頂直下のコルに出た。時間は11時30分。のんびりし過ぎるくらいに休憩をとりながらの登りだったが、それでも昨年より30分も早く着いてしまった。今日はここを山頂と決めてザックを下ろした。

暑い陽射しを浴び続けてお互いに額からは汗が滴り落ちている。すぐにでも缶ビールをあけたかったが、ザックの中で温まってしまったので雪の中に突っ込んでおく。冷えるまでは5分ほどの我慢だ。ところで犬達は?と振り返ると少し離れたところで横になり眠っていた。山慣れしているとはいえ、さすがに1000mの山登りは”名物犬”達にもこたえたのかもしれない。シールはびしょ濡れの状態なので近くの枝に乾かしておいた。天候は崩れるどころか、陽射しはますます強くなっている。樹林に積もった雪が解け出し、大量の雫となって滴り落ちていた。全く2月の厳冬期とはとても思えないような日差しには唖然とするばかりである。びしょぬれだったシールも下山を始める頃にはすっかり乾いていた。

休憩が終わればいよいよ栂森からの滑降が待っている。昨年はバリエーションルートを下ったが今回は正規のルートをたどることにした。東大巓からの斜面には誰も滑ってくる人影は見あたらず、静かな吾妻連峰である。青く澄んだ空と輝くばかりの白い世界がどこまでも広がっていて、全てが見渡せるといってもよいほどの展望には言葉も失ってしまうほどだ。今日の吾妻連峰は私達二人の貸切のようであった。最初の急斜面を横滑りで下り、樹林帯を横切って行くと広々とした斜面に出た。しかし雪質はすっかり腐れ雪となっていて、思わぬところでブレーキがかかったりするので大きく転けてしまった。柴田氏はシールを剥がしたときの糊が少し残っているらしく、スキーが滑らないとしきりにぼやいている。それでも春のような天候の中を滑って行くのは爽快の一言だ。私は途中で何度も立ち止まりながらデジカメのシャッターを押した。

砂森のピークを過ぎると、昨日のものと思われる大沢下りのトレースが現れた。気温が高くてほとんど消えかかっていたが、しばらくすると比較的新しい2人分のトレースにも出会った。誰もいないだろうと思っていたのだが、明月荘から下ってきた人が二人だけいるようであった。その後も重く湿った雪に辟易しながら下って行き、林道からは吾妻の放牧場へと飛び出して行く。ここも快適なターンをするにはほど遠く、ほとんど直滑降で凌いだ。広々とした放牧場の中間地点で一休みをしていると、二匹の犬が走りながら追いかけてくる。スキーに追いつくのはたいへんらしかったが、確実に後ろからピッタリと付いてきていた。さすがにここまで付いてこられると愛着も湧いてくる。柴田氏がこらえきれずにチーズを食べさせている。結局、栂森までの長大な尾根を登りきり、さらに大沢下りをやってしまうこの犬はやはり名物犬なのだなあ、とあらためて感心してしまった。

牧場の滑走が終わり、再び林道にでると大沢駅までは残すところ3km余りとなる。長かった行程も終幕が近づいていた。これだけ天気に恵まれるとツアーが終わってしまうのが淋しいような感情に襲われるところだ。これは祭りの後にやってくる寂しさにも似ていた。滑るには雪質がいまひとつだったが、これもよくいえば天候が良すぎたことの裏返しであり、今日も雪山の大自然を思い存分楽しんだ一日であった。大沢駅では峠の餅屋の”名物犬”達に残った行動食を最後に分けてやった。道もないところをどうやって峠駅まで戻るのだろうかと心配だったが、きっと何回も往復しているのだからそれは杞憂に過ぎないのかもしれなかった。私達は心地よい疲れを感じながら大沢駅を後にした。


栗子の山並みをバックに
尾根上で



峠の餅屋の犬達も山越え



小栂からのトラバース箇所



栂森の山頂で
犬達も疲れはてて仲良く昼寝



栂森からの下りの途中で
置賜の山並みの奥には蔵王連峰が見渡せる




栂森を下る途中に「栂森〜大沢」への古い標識が残っている


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