梵天岩からも先行者のトレースを追った。小屋が近づくに連れて右手の飯豊連峰が徐々に大きくなってゆく。小屋に着いてみると、幕営していたという7人組が昼食を終え、早くも出発の準備をしているところだった。パーティのメンバー達にラッセルしてくれたお礼をいいながら話を聞いてみると、7人は栃木からきた大学の山岳部のようであった。私は気持ちの良い日射しがあるのにわざわざ薄暗い小屋に入ってゆく気分にもなれず、そのまま外で休憩をとる。カップラーメンを食べている間に、7人はまもなく天元台に戻っていった。
30分ほどの休憩を終えて小屋の窪みから出てみると、抜けるような青空を背景にして、樹氷に覆われた西吾妻山が眩しい。梵天岩からはシールをはずし、大凹までの深雪の滑降をのんびりと楽しんだ。カモシカ展望台でザックをおろして一休みしていると、今度は米沢からきたという3人組に出会った。3人はこれから西吾妻小屋泊まりらしく、翌日若女平を下るのだという。まもなく3人は大きなザックを背負って大凹に下っていった。
テルモスに残っていたお湯で作ったホットレモンを飲みながら、なだらかな吾妻の山並みを眺めていた。厳冬期の真っ直中なのにまるで春を思わせるような午後のひとときだった。白一色の西吾妻の山々と、黒い山肌を見せる東吾妻の山並みは、そのまま山形と福島との積雪の違いなのだろうか、なんて至極当たり前のことを考えたりした。たおやかな山並みが連なる吾妻連峰を眺めていると、気持ちも自然と穏やかになるから不思議だった。ささくれだった感情が癒されてゆくようでもあった。しまいには下るのが嫌になってしまい、先の7人組のように、このまま山中にテントを張って一晩過ごしたくなってしまった。