山 行 記 録

【平成16年1月10日(土)〜12日(月)/吾妻スキー場〜吾妻小屋〜高山〜土湯温泉



陽射しが降り注ぐ吾妻小舎(三日目の朝)


【メンバー】単独
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、小屋泊
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】一切経山1,949m、蓬莱山1,802m、東吾妻山1,975m、高山1,805m、
【天候】(10日)晴れのち雪(11日)風雪(12日)晴れ
【行程と参考コースタイム】
     自宅700〜吾妻スキー場930
(10日)吾妻スキー場リフト終点10:20〜五色沼12:30〜吾妻小舎14:40
(11日)吾妻小舎9:00〜〜東吾妻山12:00〜鳥子平15:00〜吾妻小舎15:40
(12日)吾妻小舎8:40〜鳥子平9:30〜高山10:30〜林道13:00〜土湯温泉14:00
     土湯温泉(タクシー)吾妻スキー場

【概要】
吾妻小屋はちょうど1年ぶりである。昨年とは違って今年は雪が少ないので心配ではあったが、前日に管理人の遠藤さんに電話してみると問題なくスキーで登れる状態だという。9時半頃に吾妻スキー場に到着し、準備をしたり登山届を出したりして、リフト終点からの歩き出しは10時20分であった。登り口では山スキーの6名グループがシール装着の作業中だった。遠藤さん達は1時間も前に歩き出したらしく早速その後を追う。トレースがあるのでラッセルの必要もなくのんびりとしたシール登高である。スノーシューの踏跡などもあって結構登っている人がいるようであった。

今日は朝から快晴の空が広がっていたがそれだけに冷え込みが厳しかった。放射冷却のため平地でも最低気温が氷点下13度まで下がり、自宅の水道管などが凍結した。しかし昼前後から崩れる予報が出ていて、明日は典型的な冬型のため大荒れになる模様である。天候が悪化する前に大岩を越えたいのでほとんど休みなしに登った。途中早くも3人組が下ってきたので聞いてみると、沢の横断箇所で女性が脱臼してしまい、あきらめて下山する様子であった。吾妻山荘への分岐を過ぎると上空は早くも少し陰り始めてきた。大根森直下では酸ガ平避難小屋までだという4人組を追い越した。やはり山スキーのグループで、4人は大きなザックを横にして休憩中であった。大根森を過ぎると急に風が強まった。急斜面をひと登りして、まもなく大岩にたどり着いた。青空はすっかり消え失せ、強風が吹き荒れている。モノトーンの荒涼とした風景には寂しさが募るばかりだった。雪が少ないので五色沼の周りを大きく迂回し、一切経山の直下で昼食とした。

樹林帯をジグザグに登り、前大巓と一切経山との鞍部まで登り詰めたところで、ようやく管理人の遠藤さんに追いついた。遠藤さんはスタッフの女性を連れていて、二人はシールを外して滑降する準備をしているところであった。そこからは一緒に吾妻小舎へと下って行く。酸ガ平避難小屋までは快適なパウダー斜面が続き、登りの苦労をしばし忘れた。そして蓬莱山へとトラバースし浄土平へと下った。吾妻小舎の入口は半分雪に埋まっていた。早速雪を掻き出したり水作りなどを手伝いながら小舎に入った。すぐ後ろを追ってきているはずの6人組はなかなかやってこなかった。吾妻小舎の場所がわからなかったらしく、小舎に入ってきたのはわたしたちよりも2時間も遅い5時近くになってからであった。6人組は東京の「銀座山の会」の人達で、この日の宿泊は私とこのグループだけであった。

翌日は予報どおり未明から大荒れの天候だった。私はこの日予定があったため、悪天候ではあったが一応、高山を下るつもりで吾妻小舎を出た。しかしほとんど視界のない中を一人で土湯温泉まで下るのは無謀と感じて途中から引き返した。そして東吾妻山に向かっていた「銀座山の会」と合流して、その日はラッセルを手伝いながら一緒の行動をとることにした。合流後は深雪を交代でラッセルしながら山頂をめざした。少し晴れ間がのぞいたりしたものの、風雪は少しも弱まる気配はなかった。3時間をかけてようやく到着した東吾妻山の山頂は台風並の風が吹いていた。一歩も進めないほどの猛烈な風にほとんどの人が倒されたりした。リーダーによると、この日のコースはほぼ夏道沿いに下って行き、景場平を経由して鳥子平に出るものだった。いったん平坦な地点まで下ったところでシールをはずし、そこからは景場平をめざして深い樹林帯を滑って行く。深雪は適度にブレーキがかかるので快適な滑降だ。樹林帯では風も弱く、ここは今日唯一のハイライトであった。しかし潅木帯になると再び風が強まり、風雪の中で現在地を見失いかけたりして時間を浪費した。そしてなんとか景場平に飛び出したときはようやく胸を撫で下ろした。烈風が吹く景場平は雪がほとんど吹き飛び、ガリガリの雪原となっている。景場平からは夏道の見当をつけながら樹林帯を下って行き、まもなく観光道路のある鳥子平に滑り降りた。

吾妻小舎に戻ると早速ホットウィスキーを作りながらみんなと小舎のストーブを囲んだ。私はこの日顔に軽い凍傷を負ってしまい、皮膚の感覚が一部なくなっていた。厳しい天候の中での行動が続いただけにストーブのある山小屋のありがたさをしみじみと思った。私はよほど疲れたのか少しのアルコールですぐに酔いが回ってしまう。その夜、遠藤さんからは日本酒の差入れがあり、みんなでストーブを囲みながら二日目の山小屋の夜を楽しんだ。

風雪は三日目になってようやく収まった。朝のうちは薄雲りだったが時間とともに青空が広がった。今日は全員で高山を下って土湯温泉まで下る予定である。私は眩しいくらいに降り注ぐ陽射しをながめながら、昨日は無理をせずに途中で引き返してきたことを喜んだ。一日待てば天候は変わるものなのだ。6人組は早めに小舎をでてゆき、私は後かたづけを少し手伝いながら遅れて小舎をでた。高山までは2時間ほどの登りだが、正面には快晴の空を背景に東吾妻山がまぶしい。振り返れば一切経山と吾妻小富士が見送ってくれている。夏にはマイカーや大型バスが行き交い、多くの観光客で喧噪を極めるこのスカイラインも、この時期は静寂とした雪の世界に包まれていた。

高山からは遠藤さんを先頭にツアーコースを下って行く。降雪直後だけに最初の急斜面は雪崩が心配なところだが、その分ここは滑降も楽しみな斜面である。私は相変わらず途中で転けたりしながら後をついていった。みんなも歓声を上げながら下ってゆく。麦平からはほとんど勾配がなくなり、トレースがないだけに樹林帯をしばらく歩かなければならなかった。フンドシを過ぎると緩斜面が続くようになる。ブナ林を縫いながらの深雪の滑降は実に快適で、思わず自分の技量が上がったような錯覚をしてしまいそうであった。林道からはかろうじて残っている昨日の雪を拾いながらスキーで下って行く。しかし土湯温泉が近づけばその楽しい滑走も終了となる。スキーを担ぎながら登山道を降りて行くとまもなく懐かしい土湯温泉街が眼下に飛び込んできた。



陰り始めた五色沼
正面は一切経山
(1月10日12時30分)


吾妻小富士をバックに高山をめざす
(1月12日 午前9時)


inserted by FC2 system