山 行 記 録

【平成11年12月23日〜25日/南アルプス 塩見岳(3,047m)】



塩見小屋前から天狗岳(右)と塩見岳西峰(1999.12.24撮影)



【概要】
広大な南アルプスのほぼ中央に位置する塩見岳。この山は鳳凰三山や白峰三山縦走の時や甲斐駒、仙丈岳の山頂でも常に気になる存在だった。南アルプス南部の他の山についてはすぐにわからなくともこの塩見岳だけは容易に見つけることができる山である。それほど目立つ存在で、特に冬の塩見岳はアルピニストの心を惹きつけてやまない秀峰である。
甲府の友人、宮本氏と昨年の12月に北岳登頂をはたした我々は、冬季の塩見岳を次の目標として今年の1月、2月にそれぞれ計画をしたが、天候や日程の都合などにより今回の山行となった。

【メンバー】宮本氏@富山と2名

【山行形態】冬季小屋泊

【装  備】テント、登攀用具、無線他、冬山装備一式

【天候と参考コースタイム】
[1999.12.23](快晴)
塩川 10:45〜三伏峠小屋 17:00

[1999.12.24](快晴)
三伏峠小屋 6:00〜本谷山 7:10-7:30〜塩見小屋 9:45-10:00〜塩見岳 11:30-12:00〜三伏峠小屋 17:00

[1999.12.25](曇りのち晴れ)
三伏峠小屋 9:45〜塩川 12:45

[1999.12.23](快晴)
12月23日の未明、甲府駅で宮本氏と合流する。9月の飯豊以来、ちょうど3カ月ぶりの出会いである。甲府駅からは宮本氏の車により中央道を経て塩川へ向かう。ガイドブックには積雪状態によっては塩川までゆけないこともあり、と書かれており心配したが途中の道路には雪はほとんどない。駐車場近くになって道路が凍結しているところが何カ所かあってヒヤッとする。午前5時、塩川の駐車場に到着したところで積雪があらわれる。しかし数センチ程度だ。他には車が1台もなく寒々とした感じだった。お互いにしばらく車の中で仮眠をとる。

朝食後準備を終えるとすでに10時近くになっていた。登山届けを塩川小屋に提出後、河原伝いに歩き始める。比較的新しい1〜2名の先行者の足跡が先へと続いている。標高は駐車場付近で約1300m。尾根の取り付きが約1500mでほとんど水平な歩きが続く。何度か木橋を渡る箇所があって凍結していれば怖い思いをしそうだ。

水無沢出合の先で尾根に取り付いた後はジグザグに登り次第に標高を上げて行く。積雪は次第に増してきたが比較的少なく、また先行者のトレースがあるのでかなり楽な方だろう。アイゼンは必要なくツボ足で十分。しかしこの登りは急登の連続で思わず飯豊の梶川尾根を髣髴させるようだった。一歩一歩あえぎ声を発しながら登る。標高2200m付近でテントが一張り幕営中だった。そこからはトレースが消えているのでどうやら先行者のテントのようだった。小屋は間もなくだったがこの急登にバテたのだろうか。何度か休憩をとるものの私も久しぶりの重荷でほとんどバテバテの状態で三伏峠小屋にたどり着く。

小屋付近の積雪は30〜40cm程度と少ない。テントを張るつもりで担ぎ上げてきたが冬季小屋が空いているので利用させて頂くことにした。既に日は落ちていて中は真っ暗。部屋の角の方に先客のテントが張ってあったが人の気配はなかった。我々は早速夕食の準備を始める。この辺の地域は平地でさえも氷点下と寒さが厳しかったが、この三伏峠は標高が約2600mである。冷え込みは一段と厳しくマイナス20度近くまで下がっているようだった。ザックに忍ばせておいたシャンパン用サイダー(?)や先ほどまで飲んでいた水筒の中のポカリがすでにシャーベット状態である。寒さに耐えきれず、途中で我々も小屋の中にテントを張ることにした。しかし、この小屋の天井が低く首辺りまでしかないので何度か頭を打ちつける。
外は満天の星空と煌々とした月明かり。放射冷却現象も重なり気温はもっと下がる気配だった。コッヘルで山形版、芋煮を作り、ホットウィスキーで冷え切った体を暖めた。

夜中の8時半頃になって先客が小屋に戻ってきた。聞いてみると早朝3時起床し、4時出発で塩見岳をピストンしてきたらしかった。往復に16時間以上もかかっている。トレースもなく1人でのラッセルは厳しかったようだ。
しかし、1人でもトレースが付いたと知り、翌日は我々も取りあえず塩見岳ピストンということに決定した。

[1999.12.24](快晴)
翌日は4時半に起床。一応、登攀装備などをザックに背負い、ヘッドランプをつけて小屋を出発。三伏山を過ぎても積雪20〜30cm程度と少ない。本谷山への登りの途中で日が昇り始める。

本谷山までくると塩見岳がグッと迫ってきた。北アルプスや中央アルプスが朝日を浴び輝いていて美しかった。本谷山から塩見小屋までも積雪は30〜40cm程度とやはり少なく、また昨日のトレースがあるので下りでは滑るように歩くことができ快適だった。権右衛門山のトラバースを過ぎてから樹林帯の急坂を登り返すと塩見小屋に到着。もう塩見岳は目前だった。

塩見小屋で休憩をした後、天狗岳、塩見岳へと向かう。ここからは岩稜と雪のミックスで本コースの核心部といったところだったが、雪が少なく夏山の岩登りの感じでいささか拍子抜けをする。ただし、稜線では樹林帯が切れたために、吹きさらしの強風はハンパではなく、また顔や口が曲がりそうな強烈な冷たさだ。付近の岩など、いたるところについている長いエビのシッポが厳しさを物語るようだ。相変わらずアイゼンもピッケルも使わずラッセル用のストックだけを頼りに登る。塩見岳直下付近ではさすがにクラストしている箇所もあって慎重に登ると念願の塩見岳西峰山頂だった。三伏小屋から5時間30分、塩見小屋から約1時間30分である。山頂には三角点。目の前には少し標高が高い東峰が向かい合っている。
天候は快晴ということもあって、山頂からは南アルプスの展望がほしいままだ。とりわけ冠雪した仙丈岳や甲斐駒ガ岳、北岳、間の岳が美しい。振り向けば荒川岳や赤石岳がやはり雪をまとって大きく聳えていた。
我々は東峰でしばし休憩をしてから三伏小屋に引き返す。念願の山頂を踏んだ我々にとって下山路は快適なスノーハイキングの気分。のんびりと小屋に向かった。

三伏山では日が暮れ始めた塩見岳に夕日が当たり、つかの間だったが黄金色に輝いた。
冬季小屋の先客はまだ下山しなかったらしく、この三伏山で三脚を立て写真撮影をしていた。小屋に戻ってみると、冬季小屋の近くに昨日、尾根の途中で幕営していたものと同じテントが張られていた。

今夜はクリスマスイブ。サイダーにウイスキーを入れた即席シャンパンで今日の塩見岳登頂を祝い乾杯した。寒さは昨夜ほどではなくて、外にでてみると少し雪が舞っていた。

[1999.12.25](曇りのち晴れ)
朝、7時30分起床。テントから出てみると小屋の中は薄暗いが、外はすっかり明るくなっている。少し降雪があったようで5cm程度積もっている。若干の雪と風があり空は曇っていて全く見えなかった。先客の単独行者がテントを撤収して下山していった。我々は今日は下るだけなのでのんびりと朝食をとってから出発した。標高、2200m付近まで下がると風も雪も治まり、日が戻ってきていた。下界は明るく、晴れているようだった。途中で登山者2名、そして尾根の取り付き付近で外人3名のパーティに会う。塩川沿いの道を歩く頃は見上げれば快晴の空が広がっていた。天気予報では北日本は西高東低の冬型が強まっていると報じていたが、南アルプスにとってはほとんど関係がないようだった。三伏小屋からおよそ3時間で塩川小屋に無事到着した。結局、終始ツボ足にストックを使っただけで、ザイル、ハーネスといった登攀用具はおろか、アイゼン、ピッケル、ワカンでさえもザックにくくりつけたままだった。

この後、諏訪湖畔の民宿「すわ湖」で忘年会。3日間の汗を流しつつ、疲れをほぐすことにした。昨年の北岳に比較すればはるかに楽な行程でそれほどの疲れは感じなかったのだが、民宿でのわずかのビールに酔いがまわってしまい、思った以上に体力を消耗していることを知った。



権右衛門岳の巻道を行く。このあたりは立ち枯れが多い。


塩見小屋から天狗岳(右)と塩見岳西峰


塩見小屋付近から天狗岳を仰ぎ見る。


天狗岳をバックにして立つ宮本氏


塩見岳西峰から東峰のピークと富士


塩見岳東峰から見る北俣岳への稜線。右手奥には蝙蝠岳へと続く。


帰路、本谷山への尾根道から塩見岳を仰ぐ


三伏岳のピークから見る夕暮れの三伏小屋(右)


下山直前。新しい三伏小屋の前で(1999.12.25 宮本氏撮影)
(以前からの古い小屋はすぐ近くに立っていてその一角を冬季小屋として利用した)


尾根の取り付きでちょっと一休みである(1999.12.25 宮本氏撮影)


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