山 行 記 録

【平成15年12月6日(土)/朝日連峰 鈴振尾根〜祝瓶山】



一ノ戸を過ぎるとようやく祝瓶山(左奥)が現れる


【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備(ワカン)、日帰り
【山域】朝日連峰
【山名と標高】祝瓶山 1,417m
【天候】曇りのち雨
【温泉】西置賜郡小国町五味沢 白い森交流センター「りふれ」500円
【行程と参考コースタイム】
登山口(大石橋)10:45〜鈴出の水11:20〜一ノ戸12:40〜祝瓶山13:15-13:20〜登山口15:20

【概要】
今日は朝から厚い雲に覆われ、昼前から雨が降り出す予報がでていた。当然、山は休みの予定でいたところ、窓辺からまぶしい日差しが降り注ぐのを見てあわてて自宅を出た。当初は新潟の山に登る予定で出発したのだが、小国町から仰ぐ祝瓶山を国道から眺めて、急遽行き先を変更したものである。

林道終点の駐車場には新しい案内標識ができていた。この時期は入山する人もなく、辺りはひっそりとしている。好天に誘われてきたにもかかわらず、いつのまにか陽射しは失せて、空全体には厚い雲が広がっていた。登山計画書を出してゆくつもりでいたら、いつもの小屋は冬支度のため堅く閉ざされて中に入れなくなっている。誰にも告げず行き先を変更しただけに不安だったが、今日は気を付けて登るしかないだろう。厚手のスパッツをつけ、冬山装備に加えて念のためにワカンをザックにいれた。大石橋に架かる吊り橋はすでに板が取り外されていたが、幸いに一枚だけ板が残されており、ワイヤーの綱渡りは必要なかった。もしかしたら途中から雨が降り出すことも考えて早足で歩く。時間はすでに11時近い。悪天候になればいつでも引き返すつもりであった。

大朝日岳との分岐から右手に伸びる鈴振尾根に取り付くとすぐに急登がはじまる。まわりは冬枯れの寂しい光景だが、松の葉が積もった尾根道は柔らかくてとても歩きやすく、こんな小さなことが今日は慰めになりそうだった。鈴出の水を11時20分に通過する。雪は700mを超える付近から少しずつ現れた。まだ周辺にうっすらと残る程度だが登るにつれて雪も多くなる。そうしているうちにまもなく小雨が降り出してきた。まだ歩き出して1時間も経っていないのに、この天候の急変にはさすがにがっかりする。自宅を出るときのあの晴天はいったい何だったのだろうと、気分は一気に落ち込んだ。しばらくザックカバーだけでしのいでいたが、次第に雨足が強くなり、我慢しきれず途中で上下とも雨具を着る。11時43分、817m峰通過。左手には大玉山が大きく、その奥には朝日の稜線も見えていたが、雪空に背にして聳える大朝日岳は、妙に寒々として淋しい光景であった。

いったん下って登り返すと、勾配は一気に増してゆく。12時18分。地形図にある1068m地点を通過する。前方には一ノ戸のピークがそびえ立つ。雪道には初め兎の足跡が現れ、次第にいろんな動物の足跡が合流してくる。動物達も一緒に山頂を目指しているようでもある。心配した熊の足跡はなさそうだったが、途中から念のために熊鈴をザックにとりつけた。積雪は10cmから20cm程度だが、雪の下に木の根っこが隠れていて、何度もスリップするので登りもなかなか捗らない。あまり飛ばし過ぎたのだろうか、両足が異様に重く感じていた。

ようやく森林限界を越えて一ノ戸の岩場につく。一ノ戸の標高は1239m。祝瓶山まではもう200m足らずだが、雨は音を立てながら降り続けており、山頂まで行こうという気力ががなかなか湧いてこないのが正直なところだ。しかし視界ははっきりしているので少しずつ先に進むことにした。小ピークを越え10分ほど登るとようやく前方に祝瓶山のピークが見えてくる。なんとも荒涼とした冬の風景に寂しさだけが募ってくる。雪道の急峻な箇所は思わずアイゼンが欲しいところだ。ストックだけでは不安になり、潅木の枝をつかみながらナイフエッジを慎重に登る。この辺りはむしろ下りに注意が必要な箇所だろうか。13時02分。大玉山分岐の標識を通過。大玉山へと続く赤鼻尾根への、新雪で薄く覆われた稜線が美しい。山頂付近をガスが卷きはじめており、天候が悪いだけに不穏な雰囲気が漂っていたが、めざす祝瓶山まではもうひと登りだ。

13時15分。ようやく祝瓶山山頂に到着した。ほとんど休まずに登り続けて背中は汗でびっしょりと濡れている。両足はすぐにでも攣ってしまいそうなほど疲れていた。苦労しながらたどりついた山頂だったが、朝日連峰の山並みは四方とも雨に霞み、長井の木地山ダムもうっすらとしか見えなかった。写真を数枚撮影し、とりあえず自宅に携帯をかけてみる。カミさんには新潟の山にゆくとだけ伝えてあって、行き先を変更したことをまだ連絡していなかったのだ。途中のピークで連絡する予定だったが、ここまでずっと携帯が通じなかった。ここでようやく携帯から「圏外」の表示が消え、さっそく祝瓶山の山頂にいることを伝えた。

雨は止むことなく降り続いており、この雨が雪に変わったらと考えると、夏山のようにのんびりと休む気持ちにはなれなかった。小さなアンパン1個だけを食べてすぐに下山を開始する。雪道は滑るように下れるから楽なのだが、一ノ戸までは滑落の危険もあるところなのでそうもゆかない。細い木の枝をたよりにヤセ尾根を慎重に下って行く。稜線は雨に加えて風も吹き始めていた。足はわずかな登り返しでも攣りそうな状態のため、いつものペースでは下れない。両足をなだめすかしながら下り続け、大石橋の登山口に戻る頃には、日も半分暮れかかっていた。今日は気持ちが高揚することもなく、この時期の風景を眺めることができたという、小さな達成感だけが残った。



大玉山分岐から赤鼻尾根への稜線



雨の祝瓶山山頂
背後に聳える大朝日岳の稜線はほとんど見えなかった


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