山 行 記 録

【平成15年11月15日(土)/朝日連峰 古寺鉱泉から大朝日岳



大朝日岳山頂から望む祝瓶山


【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備、日帰り
【山域】朝日連峰
【山名と標高】古寺山1,501m、小朝日岳1647m、大朝日岳1870.3mm
【天候】晴れ
【温泉】西川町「水沢温泉館」(300円)
【行程と参考コースタイム】
古寺鉱泉8:30〜一服清水9:35〜三沢清水10:10〜古寺山10:40〜小朝日岳11:10〜大朝日小屋12:20(山頂往復)13:20発
〜小朝日岳14:20〜ハナヌキ峰分岐15:20〜古寺鉱泉16:20
  
【概要】
朝方、西川町の大井沢では最低気温が3度まで下がり、今年一番の冷え込みとなった。今日は移動性高気圧に覆われるとあって久しぶりに大朝日小屋に泊まる予定で自宅を出たものの、予報では今夜には早くも雨が降りだして、明日は大荒れの天候になるだろうというのが少し気がかりであった。この時期、大荒れということは山岳部では間違いなく風雪を覚悟しなければならない。そう考えると不安が募るばかりで、古寺鉱泉の駐車場に到着してから、急遽、小屋泊りのザックを日帰り用に入れ替えた。

駐車場には車が7台も停まっている。ずいぶん多いなあと思ったら、古寺鉱泉には何人か宿泊している人達もいて、全てが登山者の車ではなさそうであった。古寺鉱泉の裏手から登り始めると10分ほどで尾根に上がる。葉をすっかり落としたブナ林には眩しいほどの日差しが差し込み、見上げると快晴の空が木の枝から透けてみえた。朝方こそ冷え込みが厳しかったが、登るに従って気温がどんどん上昇している。日溜まりの山道を歩いているとサクサクとした枯れ葉の音が心地よく耳に響いた。この時期の好天は何にも代えがたいほどで、この貴重な一日を大事にしなければと、意識してハイペースにならないようにと心がけた。

ハナヌキ峰分岐を過ぎると登山道には霜柱が目立ちはじめた。登山道は堅く凍っており、昨夜からの冷え込みの厳しさを感じるばかりだ。三沢清水で一服をしていると登山者が一人下ってくる。京都から夜行バスとレンタカーを乗り継いでやってきたという人で、昨日の夜の大朝日小屋では二人だけだったらしく、夜には雪も降りだし、寒くてとても眠れる状態ではなかったという。また昨日は曇り空で展望もあまりよくなかったらしく、終日快晴だった下界の天候を考えると意外であった。

古寺山から振り返ると冠雪した月山が見えた。その左手には雪をいだいた白い鳥海山がぽっかりと青空に浮かんでいる。小朝日岳に向かうとゴオーゴオーといううなり声とともに強風が吹きつけるようになる。秋風というにはちょっと冷たすぎるほどの風が稜線を通過しており、ちょうどこの付近が風の通り道になっているようであった。小朝日岳に到着するとディバックを背負った人が反対側からちょうど登ってくるところであった。私と同じように日帰りの人だろうかと尋ねてみると、鳥原小屋泊まりで大朝日岳を往復してきた人であった。昨日の鳥原小屋は一人だけで、やはり寒くて眠れなかったようである。小朝日岳からは褐色にくすんだ朝日連峰が一望できる。今日はさえぎるものがないので展望は思いのままであった。

小朝日岳から大朝日に向かうと、今度は熊越の鞍部付近で登山者と出会う。6時半に古寺鉱泉を出たという日帰りの人で、早くも山頂から下ってきたところであった。実に早いなあと驚いたが、山頂で1時間ものんびりしてきたというから計算してみると大朝日岳を3時間ほどで登ったことになり、この人はかなり健脚の人と思われた。さらにその先で今日4人目の人とすれ違ったが、その後は誰とも出会うことはなかった。大朝日岳がいよいよ近くに迫り、山肌にはうっすらと白いものが見えた。銀玉水までくれば大朝日小屋はもうまもなくである。久しぶりに立ち寄ってみた銀玉水は、周辺がコンクリートで固められ、以前の岩から滴り落ちる清水といった雰囲気はなくなり、すっかり様変わりしている。銀玉水からの急坂もいつの間にか整備されて石を敷き詰めた階段に変わっていた。

大朝日小屋がまもなくと思われる頃、上空には急に薄雲が広がりはじめ、辺りはいつのまにか薄暗くなっていた。早くも天候は崩れ始めたのだろうかと心配になり思わず急ぎ足になる。避難小屋はひっそりと静まり返り、中をのぞいてみたが誰もいない。私はひとまずザックを玄関に置いて山頂に向かった。山頂付近は霧氷がびっしりと張り付いていて、寒々とした初冬の佇まいを見せている。崩れるかと思われた天候は、登っているうちに薄雲は消えてなくなり、明るい日差しが戻っていた。山頂からは文字どおり360度の展望が広がっていた。縦走路の先には祝瓶山が聳え、その後方にはうっすらと冠雪した飯豊連峰が横たわっている。この光景を眺めたくてまた登ってきたのだという感慨にしばしひたった。遠くでガラガラと沢の崩れる音が聞こえるだけの静かな山頂であった。

誰もいない山頂には眩しいほどの日差しが降り注いでいたが、それは冬を前にしたつかの間の晴れ間のようにも思えて、眺めているとたまらなく寂しい風景に見えた。さすがに山頂を渡る風は冷たく、今にも雪が舞いそうな膚寒さにのんびりしようという気分にもなれず、山頂からの写真を数枚撮っただけで早々に小屋に引き返した。小屋の二階に上がると早速お湯を沸かした。そして熱い鍋焼きうどんを作り冷えた体を温めた。窓越しに差し込む陽の光は暖かく、食後にコーヒーを飲んでいると、このまま眠ってしまいそうな心地よさに包まれ、泊まりで来なかったことを後悔した。うつらうつらしているうちに1時を過ぎ、少し太陽が西に傾き始めていた。窓の外を眺めても主稜線には誰も見あたらず、他に登ってくるような人もなさそうであった。

小屋を後にすると大朝日岳や西朝日の山並みは早くも逆光となり、昼前までの輝きはすでになくなっていた。入れ替わりに今度は小朝日岳に日差しが正面から当たり、ひときわ明るさを増している。氷点下を感じさせた冷たい風も、稜線を歩いているうちにようやく治まり、次第に穏やかなものに変わっていた。展望を楽しみながらゆったりと歩き続けていたが、古寺山まで下れば朝日の主稜線ともお別れである。少しずつ陽が傾き始めていたが、かといって急いで下る気分にはなれず、登山道に降り積もった落ち葉を蹴散らしながらのんびりと下った。ハナヌキ峰分岐付近からはさすがに登山道も薄暗くなりかけていた。秋の夕暮れは早く、古寺鉱泉に着く頃は目の前まで夕闇が迫っていた。



振り返れば冠雪した月山から見える(古寺山から)
左手には鳥海山が浮かんでいるのだが写真ではよくわからない



小朝日岳山頂



大朝日岳山頂
樹木には霧氷がびっしりだった


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